魔族
「その時、剣士が筋肉を見せつけてやったんだ。それで……」
揺れる馬車。
僕は、勇者たちの冒険譚を聞いていた。
「懐かしいわねぇ」
魔法使いも勇者の話を聞いて過去の感慨に浸っている。
「ヒヒーン!!」
その時、馬がいななき、足を止めた。
なんだ?何か様子がおかしいぞ。
「ま、魔物!魔物です!」
御者が叫ぶ。
「魔物か」
勇者は慣れた態度で馬車を降りる。
流石勇者。こういったアクシデントは慣れっこなのだろう。
「キィ。キィ」
馬車の外から魔物の声が聞こえた。
魔法使いと剣士も馬車を降り、僕も後を追うようにして馬車を降りる。
魔物。
それは、魔族の配下に当たる生物で、真っ黒な見た目に体のどこかに角を生やしている。
「まったく。せっかく話をしていたのに……」
勇者がぼやく。
道をふさぐように立ちはだかる魔物は牛のような見た目をしていて、牛よりも何倍も真っ黒で、背中から数本角を生やしていた。
勇者が聖剣を抜く。
黄金に光輝く剣は、見とれるほどに美しい。
これが聖剣……
何と言うか、こう……格好いいな。
「すぐに終わらせよう」
ブォンッ
風が、吹いた。
次の瞬間、目の前に勇者の姿はなく、
魔物をはさんだ遠い向こうに、勇者の姿があった。
ボトンッ
魔物の頭が落ちる。
「……やっぱ、おかしいわよね。私たち」
魔法使いが勇者の様子を見て呟く。
「うむ。あまりにも……強すぎる」
……え?
もしかして、勇者たちも僕と同じ問題を抱えているのか?
強すぎるという問題。
僕はあのパーティーを抜けて、明らかに強くなった。
それこそ、”おかしい”ぐらい。
「剣士。あんた、筋肉の調子は?」
「異常だな。日に日に筋力がよくなっていくのが実感できる」
「私の魔力もよ。でも、いったいなんで……」
二人が話し合っているとき、
「今はいいじゃないか」
勇者が剣をしまいながら歩いてきた。
「たとえこれが敵の攻撃だろうと、偶然調子がいい日が続いてるだけだろうと、僕たちに有利に働いている限り”いいこと”ではあるんだ。僕たちはどんと構えるだけでいい」
そして、さわやかに笑う。
「僕達なら、大丈夫さ」
「あのー……終わりましたか?」
聖女が荷台から顔をひょこっと出す。
「うん。終わったよ。剣士、この死体をどかそう」
二人が魔物の死体を道の外に運ぶ。
調子が良いという違和感。
それは僕も感じている。
どう頑張ってもEランクレベルの実力しかなかった僕が、Cランクのモンスターでも軽々倒すことができる異常事態。
それが、誰かが裏で糸を引いてる可能性。
しかし、それにはどんな理由があるのだろうか。
味方を強くするなら分かる。しかし、敵を強くして何になるのだ?
僕には見当もつかな……
ドプンッ
周囲の世界が暗くなる。
太陽は輝きを失い、周囲のものすべてが日陰のように暗くなった。
僕の脳は今何が起こったかの処理が追い付いていない。
しかし、体は恐怖に震え、喉が渇き、瞬きができなくなる。
次の瞬間、地面に飲み込まれるような闇が現れ、そこから角の生えた人型の”何か”が二つ出現した。
魔族だ。それも、とんでもなく強い!
目を離したら、殺される!
「アベッキ。ここでいいんだな?」
「あぁヤスラギ。帰っていいぜ」
一体の魔族は、そのまま足元の闇に戻っていく。
ドプンッ
世界が明るさを取り戻した。
「何者だ!」
勇者が大声を出す。
残った一体の魔族は、口角を上げる。
「負王角・然の王アベッキ。勇者……お前を殺しに来てやったぜ!」
負王角!?
魔王直属の配下である十五体の最強の魔族じゃないか!
なんでこんなところに……
いや、そんなことよりだ。
僕は目を離さないように後ろへじりじり下がる。
そんなことより大事なのは、僕が勇者たちの邪魔をしないことだ。
「さぁ!殺し合いと洒落こもうじゃねぇか!!!」
勇者が再び聖剣を引き抜き、剣士が剣を構え、魔法使いが杖を構える。
アベッキとの戦闘が始まった。
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