勇者
「…………単独で、ねぇ」
誰かの喋り声で目を覚ます。
ここは……あぁ、森の中か。
体が羽のように軽い。いったい何があったんだっけ。
そうだ、さっきオークを倒したんだ。
それで、それで……
「おっ。目が覚めたかい?」
「誰……?」
僕の目の前には、知らない男女が三人いた。
その中で優しそうな雰囲気の男が口を開く。
「僕達は勇者一行だよ。聖女は今いないけどね」
そして、さわやかに笑った。
勇者……勇者か。ふーん……勇者!?
「え!?本物!?……ですか!?」
僕が思わず目を見開く。
勇者は最強と謳われている人間で、その仲間の剣士、魔法使い、聖女も世界最高峰の強さを誇っている。
その勇者!?
「まぁね。今ちょうど近くの街で泊まる予定だったんだけど……戦闘の音が聞こえちゃってさ。無事そうなら良かったよ」
そうだったのか。近くの街ってもしかして僕が住んでる街じゃないか?
すごいな。勇者……この人が……
失礼だが、強そうには見えないな。
「ねぇ勇者。こいつ、気味が悪いわ」
魔法使いと思しき少女が僕のことを訝しむ目で見る。
「なんで服は切れてんのに傷はないのよ」
僕が自分の体を見る。
傷一つない。それどころか、体にほとんど疲れが残っていない。
どういうことだ?さっきまで満身創痍だったはずなのに。
この場所はオークを倒した場所からそう遠くないはず。
やっぱり、パーティーを抜けてから僕は何かがおかしいぞ。
「うーん確かに……君、ちょっと剣抜いてもらっていいかな?」
僕は勇者に言われるがまま剣を抜く。
「構えて」
そして立ち上がり、剣を構えた。
「強いな」
剣士の男が呟く。
そして、にやりと笑った。
その瞬間、僕の全身に”逃げろ”という恐怖信号が走る。
なんだこれ。寒気……?
「やめなよ。でも……とてもオークに苦戦するようには思えない」
勇者は剣士の言葉に頷いた。
「君、名前は?」
勇者が僕に聞く。
「アートです」
「アート君か……君の名前、覚えておくよ」
そう言って勇者はまたさわやかに笑い、去っていった。
しかし、その笑顔に最初に見せたような柔らかさはなかった。
「クソクソクソクソがぁ!!」
洞窟の中で少年が叫ぶ。
少年の目の前にいるのは、Aランクモンスター”ヴィーユの獣”。
「リーダー!逃げよう!」
「リーダー!!」
杖を持った少年と剣を持った少女がリーダーと呼ぶ少年の方を見る。
少年……リーダーは奥歯を噛みしめる。
「逃げんぞ!!」
と言って洞窟の入口へ逃げ出した。
「一体どうなってやがんだ……」
リーダーが傷口に包帯を巻きながら言う。
「明らかに動きが悪ぃ。荷物はもう洞窟の奥にあるから取りに行けねぇし……クソが」
そして悪態をついた。
「あれから明らかに調子おかしいよね、うちら」
少女……ティシーがため息をつく。
「そうだな……」
少年……メドも同じようにうつむいた。
「なぁリーダー、もしかして……」
「なわけねぇだろ!!」
リーダー……ソーラが怒鳴りつける。
「大丈夫だ。俺たちは最年少でAランクパーティーになった天才だ。何も問題はねぇ……」
そして、うわごとのように自分に言い聞かせていた。
「問題はねぇ……が」
「アートのやつ、なんか裏でやってんじゃねぇか?」
ヴィーユの獣は、ソーラたちが過去に討伐したことがあるモンスターだ。
それが倒せなかったといういら立ちの矛先が、アートに向けられた。
「ソロでオークを!?」
冒険者ギルド。
僕は当然ながら、めちゃくちゃ話題を集めていた。
そりゃそうだ。足手まといで雑魚のアートがソロでCランクのオークを撃破したのである。注目を集めないわけがない。
「デへへ!アートがオークを!?ないない!!」
ダモンが気持ち悪い笑みを浮かべながら僕の隣までやってくる。
「どうせ店で買ったりでもしたんだろぉ?注目集めに必死必死!」
そして僕を煽ると、頭をポンポンと叩いた。
「言いがかりはよしてくれ。実際、僕が受けた依頼の近くではオークの討伐依頼も出されている。何もおかしいことはない」
僕は頭に乗った手をどけながら言った。
「へ~そうかそうか……」
ダモンは特段気持ち悪く笑うと、
「じゃあ、俺を倒してみろよ!そしたらそのほら話を信じてやるよ!」
と言って自身の腹をバシンバシン叩く。
「……報酬ってもらえますか?」
僕はダモンを無視して受付の人に聞く。
「はーい。今用意を……」
「ほらやってみろよ!雑魚アート!!」
……うるさいなぁ。
まぁ、いつものことか。
気にしない気にしない。
「ほぉら。できないじゃねぇか!なぁお前ら!!」
ダモンが民衆を煽り、民衆が笑いだす。
……ちょっと、イラっとするな。
僕は振り向き、ダモンの顔面を思いっきり殴った。
バン!!!
ダモンが思いっきり地面にめり込む。
「あー……」
僕って今、こんな強いんだ。
やばい。やりすぎた。
「……報酬から床の修理費引いといてください」
この場に、僕を笑うものは誰も居なかった。
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