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【短編小説】Just A 潮干狩り

掲載日:2025/12/21

 バイクのメーターがちょうど22,022.2kmを回ろうとしていた。

「いや、それは何もちょうどじゃないぞ」

 そう思ってアクセルをひねったところで、ガキの頭を轢いた。

 正確には路上に転がっていた子どもの頭であり、その頭は前を走るタクシーの後部座席にあたる窓から転がり出たものだった。



 前を走るタクシーは日本なのに何故か旧イギリス風のタクシーと言う錯乱したコンセプトで、中途半端にレトロを意識した車体は妙に安っぽく、車内ではしゃぎ回る子どもすら少し貧乏くさく思えてしまっていた。

 子どもが窓から顔を出した瞬間、対抗車線を走るトラックに頭を当てて頭が落ちた。

 そしておれはその落とした頭を轢いた。


 タクシーの中では、子どもが新しく生えた頭を両親に叩かれながら舌を出して笑っていた。

 その姿はいささか邪悪に見えたが、子どもこの頭を轢いた時に何も感じなくなったおれも邪悪になったかも知れない。


 サイドミラーの中で子どもの頭が轢かれているのが見えた。

 あの頭が繰り返し轢かれて新聞紙の様に薄く延ばされた頃には朝が来るだろう。

 朝が来るまでに、おれはこのバイクの荷台に詰まったものを浜辺に持っていかなければならない。

 それが仕事だからだ。



 なぜ、ひとはわざわざ夜明け前に人為的にバラ撒いたものを熊手で回収して悦ぶのか理解に苦しむ。

 しかしお金を出さないと異性とお話したりできない人間だとかもいるのだ。自炊の手間を外食や出前、インスタントで済ませるのと大した違いは無いだろう。

 最近になって、世界はそういうものだと納得する努力をしている。割り切りは必要だ。


 とにかく荷台のものを浜辺まで運ぶと、ハチマキをした男がゴム長靴を履きながらやってきた。

 遅いと言われたが伝票に書いてある時間通りの到着だった。

 もしかしたら、途中で多少の接触事故だとか、もしかしたらクオリアの問題で信号に対する認識を違えたかも知れないけど、時間通りのはずだ。

 お前の時計が進んでるのか、おれの時計が遅れてるのか、まぁどうだっていい。


 ゴム長ハチマキの男は、黒いシャツの下に筋肉型のプロテクターを差し込むと、両手で自分の頬を張って気合を入れた。

 どうせアルバイトの身分なのに、どうしてそこまで気合入れるのか。

 労働は尊いと言い出しそうな雰囲気を笑いそうになったが、笑うと職業倫理だとか人生理念だとか面倒な説教が始まる気がしたのでぐっと堪えた。


 薄暗い夜明けがきた。 



 太陽は水平線の奥にあるはずの境界線を曖昧にしたまま、薄ぼんやりとした朝が浮かび上がるように顔を出した。

 波の色も灰色を引きずったように薄く緑色に濁り、浜辺も光を奪われたように愚鈍な皮膚と近い色で目を開けていた。

 暇つぶしにいくつかの波の目を突いて遊んだが、すぐに飽きた。


 ゴム長ハチマキの男が砂浜に撒き終えるのと同時くらいに、小さなスコップや熊手をバケツに挿した男たちが現れてしゃがみこんだ。

 何となく縄張りのようなものが決まっているのか、特に争うでもなく、黙々と砂を掘っていた。

 さっき撒いたばかりなのに案外と見つからないものだ。

 砂に潜る速度が速いのか、男たちの掘り方が駄目なのか検討はつかない。


 しばらく見ていると、何人かの男は掘り当てた幼女をバケツに入れて立ち上がった。

 以前ハチマキの男に訊いたことがあるが、あの掘り当てた幼女を持って帰って何に使うかは関知しないとのことだった。

 逆にあの幼女どこから持ってきたのかと訊かれるが、おれは指定された場所に置いてあるのを拾ってくるだけなので知る由もない。

 そして世の中の仕事なんてものは、そうやって成立しているのだ。

 最近はそうやって納得する努力をしている。


 そう考えると、22,022.2kmもちょうどと言って良いのかも知れないと思った。

 砂浜の目が細くなってからちょうど3回瞬きすると、消えるように瞼を閉じた。

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