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全校生徒が集まるここは、学校内の施設でもある闘技場である。なぜこんな施設があるのかは謎だが、学校長の発案で造られたらしい。
本日から開催の剣舞祭。
参加者は携帯型時計を付ける決まりとなっていて、対戦者が決まると時計のアラームが鳴る仕様だ。
アラームが鳴るタイミングは完全ランダムで、授業中だろうが、昼寝中だろうが関係ない。十分以内に闘技場に移動。
そして、腕時計を壊される、又は降参、審判が止めるかで勝敗が決する。
遅刻した場合は不戦勝とみなされ、ランクが下がるシステムとなっている。
「お前らぁあ!!準備はいいかぁぁぁあ!!」
「「「「うおぉぉーーーーー!!」」」」
「朝ご飯は食べて来たかぁぁぁあ!!」
「「「「うおぉぉーーーーー!!」」」」
「よっしゃあ!ここで、我らの可愛すぎる生徒会長!乙葉会長の挨拶だぁ!」
「会長ーーー!!」 「今日も素敵ですーー!」
「可愛すぎるぅぅ!!」「その御御足で踏みつけてくれぇぇ!」
なんかヤバい奴も混じってるが、凄い人気だな。
って、乙葉先輩!?あの人生徒会長だったの!?
「皆さん、おはようございます。生徒会長の乙葉 心です。ただ今から剣舞祭の開催をここに宣言します。正々堂々。そしてくれぐれも、怪我だけはご注意下さい」
なんか少し含みのある言い方だな?僕の気のせいか……?
「行くぞお前らぁ!カウントダウン開始ぃぃ」
「「「「──5──」」」」
「「「「──4──」」」」
「「「「──3──」」」」
「「「「──2──」」」」
「「「「──1──」」」」
「「「「──0──」」」」
カウントダウンの終わりと同時に盛大に花火が上がり、生徒たちの歓声が上がった。
いや、派手だな……校内戦ごときにいくらかけてんだよ。
「憂鬱だ……」
「心の声が漏れてますよ?ファイトです!私、奏くんと戦えるの楽しみにしてますね」
くそ……誰のせいだと思ってやがる。
「いや、僕は普通に全て不戦勝にするつもりだけど?」
「なっ!?なぜです!それでは私が、なんの為にエントリーを…………えーっと。少しお花を摘みに─」
「待て!」
山田は逃げようとする麗奈の肩を掴み、頬を引き攣らせながら聞いた。
「麗奈さんや。君は手合わせがしたいが為、だけに、僕をこんな面倒事に巻き込んだのかな?」
「…………てへ」
てへ。じゃねぇよ!この野郎…………
山田は拳を握りしめ、大きく深呼吸し言った、
「お前なんて破門だぁぁぁあ!!!!」
この後、校内中の生徒から師弟プレイをする変態と噂されたのは言うまでもない。
♦︎♦︎♦︎
山田が廊下を歩くだけで、周りの生徒はヒソヒソと『あれが噂の……』、『師弟プレイ…笑』などと話し、彼はモブとは言い難いほどの知名度を獲得した。
くそ……学校で麗奈といるとロクな事にならんどーしてこう、すぐに変な噂が出回るんだ……
とりあえず、人が居る所はダメだ。中庭にでも行ってみるか。
山田の予想通り、中庭には誰一人おらず、貸切状態となっていた。
「やったね!ビンゴ」
貸切状態の中庭で、ベンチに腰を掛けると、そのまま横になり、持ち歩いていた本をアイマスク代わりにし、惰眠を貪る体制を取った。
どれくらい経っただろうか、時間にすれば三十分程であろう。
やべっ!完全に寝てた……爆睡するつもり無かったのにな。なんでこんなに寝心地が良いんだ?……ってこんなにベンチって柔らかかったか?ん?柔らかい?
不思議に思った山田は、頭の辺りの違和感に、手探りで手を伸ばした。
「ふ…ぁ……っ」
瞬間、柔らかい何かに触れ、艶気を含んだ声が聞こえると、山田は急いで身体を起こし視線を向けた。
視線を向けると、ベンチに腰掛け、胸の辺りを両手で隠した乙葉の姿があった。
「な、なんで先輩がここに……」
山田が自分の手を開いたり、閉じたりし、手の感触を確かめていた、その瞬間、耳元で乙葉がそっと呟いた。
「今触ったのは、私の太ももだよ」
「っ……!?」
バッと視線を乙葉に向けると、声を出して笑いそうになるのを腰を曲げることで懸命にこらえていた。
「惜しかったね、もう少し上だったら、触れたのにねっ」
「っな!?」
「あ、どうせだし、揉んどく?」
乙葉はそう言うと、自分の胸元に手を持って行き、乳房を持ち上げると、山田に差し出した。
「今日だけ、だぞっ」
「だ、誰が揉むかぁぁぁ!!」
はっ!麗奈といる時のノリで思わず叫んでしまった。
「ふふ。それが君の素なんだね。今日はいいものが見れた」
「はぁ。乙葉先輩もそうゆう冗談とか言うんですね。生徒会長だから、もっとお堅いのかと思ってました」
「そうだね、正直に言ってしまえば、なりたくてなった訳ではないし、もちろん皆の前では生徒会長である事を演じるけど、何故だろう?君の前では私も素で居られそうな気がして」
ふーん。生徒会長ってのも大変そうだし、たまには息抜きも必要だろう。
「まぁ、僕はそもそも乙葉先輩が生徒会長って事すら知らなかったし?面倒事を持ってこなければいつでも相手してあげましょう」
山田がそう言うと、乙葉は屈託のない派手な笑い声を中庭に撒き散らした。
「ぷ、あははははは!ちょっと辞めてよ!なんでそんなに上からなのぉ!私の事笑い殺す気?」
「なっ!?」
乙葉の笑い声が中庭に響く中、山田の付けている時計のアラームが鳴り、二人は顔を合わせ微笑んだ。
「あー面白かった!こんなに笑ったの久しぶりだよ。ありがとね。どうやらお呼び出しがかかったみたいだし、ここまでだね」
「え?あぁ。僕は参加するつもりないので、行きませんよ?」
その言葉を聞くと、乙葉はきょとんとした顔を覗かせた。
「そっかそっか。君は参加しないのか。それは安心だ!しかし、それならなぜエントリーしたんだい?」
「それはで……御堂って奴が勝手にエントリーしたんですよ」
危ない危ない。思わず弟子って言う所だった。
「あ、あの時の変態プレイの子か!」
「ちょ!?そんなんじゃないですからね!!」
「隠さなくてもいいよー。私はそうゆうの偏見ないから。ねっ」
ねっ!じゃねぇよ!僕だってそんなプレイまったく興味ないわ!
「いやー、本当に楽しかったよ。今日、君に会えたのは私の幸運だったね」
乙葉はそう言うと、うんうんと頷きながら、山田の周りをぐるぐると歩き始めた。
「な、なんですか??」
「いや、楽しませてくれたご褒美をあげようかなと思ってさ」
「ご褒美?別に要りませんよ。楽しませるのなんていつだって出来ますし、そもそも僕のギャグセン──」
「もう私に明日はないんだよ……」
ん?なんか今ボソっとしてて聞こえなかったぞ?
「乙葉先輩、今なんて言──」
山田が聞き直そうと、乙葉の方に振り向いた。その瞬間、頬に柔らかい感触が触れた。
「ふぁ!?」
「ふふ。これをご褒美としよう。私の初めてだよ。嬉しいでしょ?光栄に思いたまえ!」
それだけ言い残すと、乙葉は身体の向きを変え、手をヒラヒラしながら去って行き、山田は頬に手を当てながら、しばらくその場に立ち尽くしていた。
「なんだったんだ……」
♦︎♦︎♦︎
乙葉は生徒会室に戻ってくると、椅子に座り、子供みたいにクルクルと回った。そして、先ほどの事を思い出しながら微笑んだ。
「ふふ。ホント、久しぶりにあんな笑ったな……」
「あら。ご機嫌じゃない?なにかあったのかしら?」
「……っ!?」
山田の事を考えていると、突然、虚空から声が聞こえ、彼女はまた現れた。
乙葉は、ふぅ。と息を吐き、自分を落ち着かせ、言った。
「……急に現れるのは辞めて下さい。とお伝えしたはずですが?御堂 楓さん」
「ごめんなさいね。忘れていたわ。それよりも計画に追加したい事があるのだけど、いいかしら?」
御堂は、悪気がある素振りすら見せずに、髪の毛をいじりながらそう言った。
どうせ私が断っても無駄な癖に……一々許可を取る辺りホント性格が悪い。
「……えぇ、構いません」
「ふふ、良い子ね。それじゃ追加内容だけど、計画の中に山田 奏って名前の子も入れなさい」
「……っ!?」
山田 奏……!?確かその名前は彼だけしかいないはず……どうして彼が……!?
「なぜ彼が必要なのか伺っても?」
「ん?単純に邪魔なのよ。麗奈ちゃんの周りをちょろちょろと。少し目障りなのよね。そっちは別に殺しちゃってもかまわないわよ」
コイツは私からなにもかも奪おうと……
乙葉は歯を食いしばり拳を丸めた。
「あら、手から血がでてるわよ?もしかして……知り合いだったかしら?」
白々しい!!全てを分かった上で嘲笑ってるんだ。許せない……。
「別にやらなくてもいいのよ?私はどっちでもいいの」
今すぐに殺してやりたい……私に力があれば……
「……いえ、やります」
「ふふ、無理しなくていいわよ?やりたくないんでしょ?」
「わた、しに、やらせて、下さい」
そう言って、遜るように頭を地面に擦り付け、乙葉の姿を見下ろす御堂の顔には、かすかな冷笑に似た奇妙な笑みが唇の端に浮かんでいた。
「そう。それじゃ、あとはよろしくね」
楓が姿を消し、その場は、静寂が包み込んだ。
「──ぁぁああ───ッ──」
静寂が包み込んだ生徒会室で、乙葉は慟哭とも憤怒とも取れぬ声を響かせた。
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