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校庭では生徒たちが部活動で汗を流し、友情を育み、教室の中では生徒たちが互いに挨拶を交わし、笑い声が絶えない。そんなありふれた日常である。
くぅーーー。これだよこれ。この瞬間こそが至福、最近はなにかと忙しかったけど、これで帳消しになるだろう。ゆっくり本も読める。なんて幸せなんだ…
しかし、それも長くは続かない……
のんびりと読書をする彼のの背後にふとした瞬間に影が一つ差し込んだ。山田は背後の気配に気付き、振り返ると、彼女が微笑みながら立っていた。
「おはようございます!奏くん!」
「……おはよう。御堂さん」
麗奈が山田に話し掛けるという物珍しい光景に、ザワついていた教室は静寂が包み込み、クラスメイトたちは静かにその様子を伺っていた
「なんで、そんなそよそよしいのですか!?私は伝言をきちんと守り、3日間も大人しくしていたというのに!」
「ちょっと落ち着こうか、御堂さ──」
麗奈は自分がそれなりに有名だと言う事を、自覚している。それゆえ、生活態度にも気をつけ、御堂家の名に恥じない生活を送ってきた。
彼女はバカではない。しかし、天然ではある。
この時の彼女は失念していた。御堂家の娘ではなく、ただの女として、山田に会えた事の嬉しさの方が前に出て来てしまったのだ。それ故に普段ならしないであろうミスをした。
この時の相手が、山田ではなく、瀬戸だった場合、また違っただろうが、残念ながら相手は山田。自称セルフぼっちの彼である。
クラスを騒然とさせるには充分な理由だ。
「「「奏くんーーーーー????」」」
「ちょっと御堂さん!山田と知り合いだったの!?」
「もしかして、山田って、本当にあの山田、だったって事!?」
「そもそも山田の名前初めて知ったんだけど、ウケる」
山田は騒がしくなったクラスに嫌気がさし、麗奈に向けて、なんとかしろ。とアイコンタクトを送った。
「え、えっとー……いや、この前たまたまね、本当にたまたまですよ?道端ですれ違って、その時にちょっと助けてもらったんですよ!」
「ホントー?実は噂の王子様だったりしない?」
「同じ学校って言ってたもんね!やっぱり同姓同名じゃなくて本物だったって事!?」
「はい、麗奈ちゃんかくほー」
誤魔化すの下手すぎかよ……
山田は盛大に溜息を吐き、本を閉じると騒がしくなったクラスを出て、中庭へと足を進めた。
「ったく。僕の平凡をめちゃくちゃにしやがって。あとで説教してやる」
中庭のベンチに腰を掛け、空をぼんやり眺めていると、視界の端に笑顔で見つめる女子生徒が視界に入ったが、山田は彼女に気付かなかったふりをし、そっと目を瞑った。
「……君。こんな所で何してるの?そろそろHR始まると思うんだけど?」
寝たフリを決め込む山田に対して、彼女はお構い無しに話かけた。
困った。話しかけてきたよ……
その言葉そっくりそのまま返してやりたいが、ここは寝たフリするのが正解だ。
「あれ?おかしいな。ついさっきまで起きてたと思ったんだけどな。ホントに寝てる?それともシカト?」
彼女はそう言うと山田と同じベンチへと腰を掛けた。
な、なんなんだこの女。なぜここに居座る……そしてなぜ隣に座った?今日は厄日かなんかなの?
「おーい。不良少年?聞いてるかい?」
「はぁ……僕になにか用ですか?それと不良少年ではありません」
「やっぱり起きてた。シカト良くないよー」
山田は溜め息を吐き、視線を女子生徒へと向けた。
銀色に煌めく長い髪。 双眸は蒼く煌めき、そして、どこか日本人離れした顔立ち。
知らない顔だ。
「えっと。僕たちって初対面ですよね?」
「え?うん。そうだねぇ。初めましてだよ」
「ですよね、僕は山田。二年です」
「これは、これはご丁寧に。私は乙葉 心です。三年だよー」
上級生だったのか、通りで知らない訳だ。
「それで乙葉先輩は、僕になにか用事でも?」
「んーん。なんかたまたま君を見かけて、そしてたまたま君の事を見てたら、なんだか私もここに座って、のんびりしたいなぁって思ってね」
なんじゃそら。さっさとどこか行ってくれないかな……
「それなら場所譲りますけど?僕はそろそろ教室戻りますし」
「えー。なんでよー?せっかく知り合ったんだし、もう少し話そうよ!それに今戻ったら先生に遅刻ってバレちゃうしHR終わってから戻ろっ?」
乙葉はそう言って、立ち上がった山田の腕を掴み、再度ベンチへと引き寄せた。
山田は諦めて、静かに本を開いて、時が過ぎるのを待った。
「へぇ。君は本を読むのが好きなんだねぇ!何系が好きなの?私はやっぱり恋愛ものかなぁ」
「……」
「あ、でもミステリーとかも読むよ?なんか謎を解いていって、最後にどんでん返しー!!みたいなのとかも面白いよねぇ!」
この人ずっと一人で話してるんだが……誰かなんとかしてくれ。
「ねぇ、聞いてる?それでね──」
乙葉が話してる途中でHRの終わりを告げる鐘が鳴り響いた。
「あちゃー。もう終わりか、残念!また話そうね。バイバイ、山田 奏くん」
ふぅ。やっと嵐が去った。
あれ?僕名前言ったっけ……?まぁいいか。僕も教室に戻ろう。そろそろ落ち着いた頃だろう。
♦︎♦︎♦︎
生徒会長室─
静まり返った部屋の中で扉が開く。
「随分遅かったみたいだけど、無事に彼と接触できたみたいね?」
窓際に向いていた椅子がくるりと回ると、そこには女が座っていた。
「……はい」
「近いうちにお祭りがあるみたいじゃない?」
「えっと、剣舞祭の事でしょうか?」
剣舞祭、通称SDF。スキルならなんでもありの校内ランキング戦である。
「計画はその日に決行するわ」
「ッ!?しかし、その日は沢山の生徒が参加します!巻き込むわけには……」
彼女は机をコツコツと指で叩きながら、乙葉をジッと見据えた。声を出す訳でもなく。ただ、納得の答えが返って来るのを待った。
「ひっ……す、すみません。わかり、ました。こちらで準備致します」
返答に満足したのか、彼女の唇に微笑が影のように動いた。
「そ。それじゃあ期待してるわね。生徒会長」
彼女は乙葉の肩にポンと手を置き、それだけ言い残すと、その場から一瞬で姿を消した。
姿が消えると同時に、乙葉は膝から崩れ落ち、涙を零した。
「どうしたらいいの……。誰、か……誰か、助けてよ……」
♦︎♦︎♦︎
山田が教室に戻って来ると、どうやら麗奈が上手く状況を、誤魔化したみたいで。誰も山田を見ようともしなかった。否だ。正確に言えば、チラチラと山田に視線を送るが目が合うと露骨に逸らすと言ったところだろう。
山田が自分の席に座ると、気になる話題が耳に入って来た。
「かずくんもSDF出るんでしょー?」
「もちろん出るよ。去年と違ってレベルも上がったからね!もう上級生にも負けないさ」
「瀬戸!今年は俺も負けねぇぞ!」
「はは!望むところだよ」
うんうん。青春だねぇ。切磋琢磨して、仲を深める。
いいじゃないか……僕には無縁な話しだけどね。
それにしても、SDFかぁ。きっと麗奈はエントリーするんだろうけど、今の彼女なら、まぁ上級生にも引けは取らないだろうな。
と、そんな事を考えていると。騒動の火種。が再度山田へと声を掛けた。
「山田くん。ちょっといいですか?」
「ん?どうかしましたか御堂さん?」
み、見られてる、見られてるぞ……まじで頼むぞ。
「ちょっとここだとあれなので、移動しましょうか」
「うん、大丈夫ですよ!なにかの手伝いですかね?」
「そ、そうです!少し手伝って頂きたくて」
そして、山田と御堂は自然?な形を装い教室を抜け出した。が、二人が教室を出た後、クラス内が騒がしくなったのは言うまでもないだろう。
「はぁ。勘弁してくれ」
「すみません。すみません。油断していました……こんな大騒ぎになるとは思ってもなく」
誰も居ない屋上に移動し、麗奈は山田に対して何度も頭を下げ謝った。
しゅん。としているその姿はまるで子犬のようだ。
「まぁいい。それで?話しとは?」
「さきほどHRで、明日からSDFが始まると先生から報告がありました。それで参加する人は挙手を。と言われ、私は手を挙げました」
「だろうな。別にいいんじゃないか?」
「えっと、それで……その……」
なんだ?歯切れが悪いな。
「奏くんは居なかったので……」
「また特訓でもしたいのか?」
「いえ、特訓もしたいですが、そうではなく……」
「ではなく?」
「奏くんの分も……私がエントリーしてしまいました」
「は!?」
「ご、ごめんなさい!破門だけは、なにとぞ……」
目の前でこれでもかと頭を下げ、申し訳なさそうにする麗奈から視線を外し、山田はスゥーと息を吸い。雲一つない空を見上げた。
「あぁ。今日もいい天気だ」
こうして山田の平凡は終わりを告げた。
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