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紗友希から話を聞き終わり、山田は用事が済んだと言い、麗奈に背を向け自宅へ向かおうとした。しかし、麗奈はそれを許さず、山田の首根っこを掴んで踵を返し、逆方向へと歩き始めた
「ちょ!?麗奈さん!?普通に掴んでよ。てゆうかどっから出してるのその力!?」
いくら山田だからといっても、一般的な男子高校生である。もちろん体重もそれに比例してあるわけだが……
なんでこの人平然と引っ張って行けるわけ?なんなの?キン肉マンなのかな?
「奏くん?なにか変な事考えてないかしら?」
「ひぇ……」
訂正しよう。キン肉エスパーちゃんだった。
うん。抵抗するのは辞めよう。なんとかなるさ。
山田の首根っこを掴んだまま歩く麗奈。
麗奈に首根っこを掴まれたまま引きづられる山田。
なにかおかしい……
通り過ぎる人達が皆揃って、奇怪な目を向けてくるのだが何故だろう?
当然である。かたや容姿端麗、成績優秀な御堂家の娘。
そして、男の方は、眉目秀麗とは言えず、成績もイマイチなモブ。
何事だと奇怪な目を向けるのは当然である。
ふむ…………あれだな。
散歩を嫌がるワンチャンを無理やり引っ張ってるやつ!みんなにはそう見えてるんだ。うん。一応認識阻害掛けとこうかな……
そんなこんなで歩く事数分─
麗奈は山田の首元から手を離し言った。
「着きましたよ」
「やっとか……ってA級ポーターじゃん!?」
「えぇ、見た通りですね」
「いやいや、なんで!?そもそも入るのに許可必要だし」
「あぁ。それなら先程、電話しておいたので問題ありません。」
えぇーなんなのこの子……行動力が半端ないんだけど。しかも紗友希さんの話聞いてないし。
「さっき言われたばかりだよね?気をつけるようにって!?」
「だから奏くんと一緒に来たのでは?」
そう言うと麗奈は何言ってんだコイツ。みたいな憐憫のまなざしを送った。
やめて!そんな目で見つめないで!天然なの?それともお嬢様だから世間知らずなの?はたまた僕を盾にでもする気なの!?
山田は自分を落ち着かせるために、一度深呼吸をした。
「よしわかった、入る前に聞きたい事があるんだけど、いいかな?」
「なんでしょうか?」
「まず、麗奈はどうしてそんなに強さを求めるの?」
「……なにから話せばいいのか、私の姉は知っていますね?」
「うん、ランキング五位の人だよね」
「はい。姉さんは幼少時代、私よりも弱かったんです。御堂家は代々、細剣が得意な家系でして、私が細剣を使ってるのもそれが理由です。
でも、姉さんには全くと言ってもいいほど、才能がありませんでした。どれだけ訓練しようと同じ結果でした。
その様子を見ていた両親は、私だけを可愛がり、剣術の才能を伸ばすために専属の師匠をつけた。
一方、姉は軽んじられ、見向きもされなかった。
それに嫌気がさしたのか、姉は物心着く頃には家を出て行きました。
それから1年後、ある日突然、ランキングに姉さんの名前が載り、最終的には殲滅の魔女なんて二つ名まで付きました。彼女に剣の才能が無かったのは、魔法スキルの才能に特化してるせいだったから。
それを知った両親は、姉さんを連れ戻そうと色々な手を尽くしました。姉はそれを全て拒否し、帰ることはありませんでしたが。
そして、その期待は再度私に向けられた。
なんで姉のようにできないの?いつになったらランキングに名を残す?顔を合わせればそればっかり。
家に居たくなくて、ポーターに籠っていたら貴方と出会いました。
これはチャンスだと思いました。この人について行けば強くなれる、私は姉さんみたいに高みを目指せると。私が強さを求める理由はこんな所です」
「なるほど……」
麗奈は常に何百トンもあろうかという水を全身で浴びているような重圧を受けて育って来たのか。しかしなぁ……
山田は麗奈の頭目掛けてチョップを振り下ろした。
「……っ!?なんで私叩かれ??」
「その気持ちはわかる。とは言ってやれない。そもそも僕には両親がいない。でも麗奈のそれは間違ってる気がする。両親の為に強くなって、ランキングに名前が載って、その後どうするの?」
「その後……姉さんに会って──」
「会ってどうするの?」
「…………謝って、そしたらまた一緒に暮らしたい」
「確かにランキングに載れば両親は喜んでくれるかもしれない、でもお姉さんに会うのに必要な事?」
「……」
山田は麗奈の頬に付いた雫をそっと指でなぞった。
「お姉さんの事、大好きなんだな」
「……うん。だい……すき」
「両親の期待に応えるのもいいが、1番大事なのは君の気持ちだ。僕はもう少し自分の欲望に忠実になってもいいと思うよ」
「うん……。あり、がど」
やっと歳相応の振る舞いをする麗奈に、山田は少しほっこりしつつ頭を撫でるのだった。
「そろそろ落ち着いた?」
山田がそう声を掛けると、麗奈は頭を撫でる山田の手をペチンと振り払った。
「子供扱いしないで!別に泣いてない!こっち見ないで」
山田は払われた手をさすりながら、いつもこんななら可愛いのに。と心で呟いた。
「さ、さぁ。行きますよ!」
「はいはい、お嬢様」
「ちょっとー!バカにしてますね!?」
「そんな……滅相もない……クスクス」
「斬り刻みますよ!?まったく。ふふ」
そして2人は仲良くA級ポーターへと手を伸ばした。
「さて、麗奈。ここからはおふざけはなしだ」
「わかってます。私が前衛で進みます。奏くんは危険だと判断するまでは、手を出さないで下さい」
山田が頷いたのを確認すると、麗奈は足元を蹴り上げ魔物へと、攻撃を仕掛けた。
「ふむ。ここのポーターはランダムで魔物が出るタイプか……」
「はぁぁぁあ!!」
A級ポーターだと言うのに麗奈は危なげなく魔物を倒して行き、山田はそれを興味深そうに眺めていた。
へぇ。こんなに強かったのか。A級探索者と言われても違和感ないレベルだな。
しかし……ランキングに名を残すとなると話は別だ。
そもそも、なにを基準にランキングを付けているのかが分からない。分かっているのは例外なく全てS級探索者である事。
まず麗奈には、そこを目指して貰うしかない。
「奏くん!この層の魔物は大体倒し終わりました!下に降りましょう」
「お疲れ様。そうだね。大体十五分位か!うん。悪くないペースだ」
特に変わった事とかも無さそうだし、このまま順調に進んでくれると助かる─なんでかって?
僕は早く帰って寝たい!!
「む。なんだか奏くんがろくでもないこと考えてる気配がします」
「そ、そんな事ないよー。慎重にねー」
ふぅ。危なかった。どうして分かるんだ……?
もしかして僕って顔に出やすかったりするのか?
順調に最下層まで降りてきた所で、山田と麗奈は軽く休息を取っていた。
「麗奈、このままボス部屋も行くの?」
「えぇ、そのつもりです。レベルもやっと五十を超えました。そう言えば、奏くんはレベルいくつなんですか?」
いつかは必ず来ると思ってた質問。
なんと言って誤魔化すべきなのかずっと考えていたけど、結局答えは出なかった。
「…………百七十だ」
「聞き間違えでしょうか?百七十と聞こえたのですが?」
「いや、合ってる」
麗奈は深い驚きを吐き出すようにため息をついた。
「奏くん。そうゆう大切な事は先に話しておいて下さい。アナタは世界をひっくり返す気ですか?」
「あ、はは。僕も気付いたらこーなってたらから、よく分からないんだよね」
麗奈が驚くのも無理はない。
レベルは基本的に上限が九十九と決まっている。
それを超えた者は超越者と呼ばれ、今この世界で超越者は、三人。
ランキング3位 中国の王 翠花
ランキング2位 アメリカのジェームズ・バトラー
レベルの上限突破の方法は未だに解明はされておらず。皆が揃って気付いたら超えていたと話す。
「でも不思議な話ではないですね。ランキング二位、三位が超越者なら、一位も超越者でないと辻褄が合いません。それでも奏くんは他のランキング保持者と比べて、あまり話題になりませんね?何故でしょか?」
なんだが今心にグサッとくるものがあったよ……悪気がないのは分かるがもう少しオブラートに包んでほしい。
「た、多分、僕は顔出ししてないからじゃないかな?あまり目立つ事も好きじゃないし、僕が一位である事を知ってるのは、今の所、対策本部のお偉いさんか、麗奈だけだからね」
「わ、私だけ……私だけが、奏くんの素顔を……」
なんか小声でぶつぶつ言ってるけど大丈夫だろうか?
「決めました!奏くんの素顔は、私が守ります!!」
「あ、うん。お手柔らかにね」
なんだかよくわからないけど、やる気がみなぎってるみたいだから、そっとしておこう。
「そろそろ行きましょう」
「そうだね。それじゃあ行こうか!」
二人はボス部屋の扉に手を添え、ゆっくりと扉を開けた。
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