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クラスの隅っこにいる山田くん。実は世界ランキング一位だった件  作者: まめだいふく


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 一方そのころ、対策本部では──


「……遅いなぁ、奏くん。どうせまた勝手にどっか寄り道してるんでしょ」


 紗友希がソファに寝転がりながら、退屈そうに天井を見上げていたその時、

彼女のポケットの中で軽快な通知音が鳴った。


「ん?あ、来た来た。どれどれ──」


 スマホを取り出し、画面を見た瞬間、眉間にしわを寄せる。


「っ!?ちょ、ちょっと!菅原さんこれ見てください!!」


「ん?どうした、そんなに慌てて……おいおい、鼻息荒いぞ。──ははっ、やっぱり彼らしいな」


 菅原はメッセージ内容を確認し、呆れ半分、感心半分で笑った。


「笑い事じゃないですよ!これ絶対、面倒事を私に押し付けましたよ!しかも今ごろ学校でのほほんと授業受けてるに決まってます!」


「まぁまぁ、落ち着け。もともと本来は俺たちの仕事だったんだ。責任はこっちで持つさ。それに──」


 そこで菅原は真顔に戻り、重々しく言葉を続けた。


「……グランドミノタウロス、か」


「えぇ。しかもB級ポーターで、ですよ。そんな報告、初めてです」


「ああ……。普通ならA級の下層にしか出ないはずだ。それを単独で……。本当に、あの子が行ってくれて正解だったな」


「はい。もし私が行ってたら……確実に、やられてましたね」


 静まり返った空気の中、ふたりは無言で頷き合う。

 その静けさを破ったのは、外から聞こえてくる誰かの笑い声だった。


「……何事もなければいいんだがな」


♦︎♦︎♦︎


 翌朝──


 部屋に差し込む朝日が、薄暗いカーテンの隙間から線を描く。

 その光をぼんやり眺めながら、山田は大きく伸びをした。


「ふぁぁ……。よし、今日はなんかいいことありそうだな……」


 ──前言撤回である。


 教室のドアを開けた瞬間、彼の心に「終わった」の二文字が浮かんだ。

 昨日、助けたあの少女が、なぜかクラスに居たのだ。


 笑顔で囲まれているその姿。どう見ても転校生扱いだ。


(……なんで、いるの?ていうか、同じクラスってどういう確率!?)


 いや、よく考えれば見覚えがある。

 見覚えがありすぎる。

 このクラスの学年最強、御堂麗奈──。


 完全に、詰んだ。


「御堂さん!久しぶりー!」

「相変わらず可愛い〜!」

「あはは、ありがとう」


 腰まである栗色の髪に、切れ長の瞳。立ってるだけで絵になる。

 彼女の姉、御堂楓は世界ランキング五位の魔法使い。殲滅の魔女と呼ばれる有名人だ。


(いやぁ、そりゃ強いわけだ……てか、なんでよりによって昨日の子がコレなんだ)


 周囲の賑わいをよそに、山田は机に突っ伏したまま、死んだ魚の目で本を開いた。


 しかし、御堂の視線が一瞬だけこちらを掠めるのを、彼は見逃さなかった。


(ん?今、見られた……?)


「昨日ね、ポーターで死にかけたんですけど、助けてもらったんです。お顔は見えなかったけど、同じ制服の方で……」


「えぇ!?学校の人なの!?」


「はい。その人が見つかるまでは、ここに通おうと思ってます」


(……うわあぁぁぁ!!やめてくれ、死亡フラグ立てないでくれ!!)


 教室のざわめきの中、山田の手はじんわり汗ばんでいた。

 本のページは既にしっとりと湿っている。


(大丈夫、大丈夫……顔はバレてない。名前も言ってない。制服なんて全国で数千人着てる。バレるはずが──ない!)


 そう自分に言い聞かせ、立ち上がった瞬間──


「ちょっといいかしら? 山田くん」


 背後からの声。心臓が止まりかけた。


「な、なにかな……御堂さん」


「昨日、なにしてた?」


「え、えーっと……普通に授業、受けてたけど?」


 山田は笑顔を引きつらせながら、精一杯平静を装う。


 しかし御堂はその答えに、ジト目で言った。


「そう。じゃあ聞くけど──ランキング一位の『山田』って、アナタよね?」


「……僕なわけないじゃないか。成績も悪いし、運動音痴だし、モブだよ?」


「ふーん……」


 御堂はまるでバレてるけど泳がせてるような笑みを浮かべる。


「ま、今はそれでいいわ。また教室でね」


 そう言い残して立ち去ると、山田はその場で盛大に息を吐いた。


(ふぅ……ギリセーフ。いや、これ絶対バレてるやつだろ……)


♦︎♦︎♦︎


「はーい、今日は昨日話した通り、D級ポーターで実践訓練を行いまーす」


(なにぃ!?聞いてないぞそれ!!)


 担任の言葉に山田の心は再び乱れた。

 たぶん昨日、呼び出されてる間に説明されてたんだろう。

 ……恨むぞ、紗友希さん。


 クラス全員でポーター前に集合し、教師の指示が飛ぶ。


「五人一組で行動! 魔物一体に五人で対処! 死ぬなよ!」


 生徒たちは次々と仲間を組み、笑顔で集まっていく。

 その輪の外、いつものように一人で立つ山田。


(……まぁ、見学でいいか)


 そう思って教師に話しかけようとした瞬間──


「先生、僕は見学してま──」


「先生、私、山田くんとペアでも構いません」


「……は?」


 御堂麗奈。

 彼女の一言で、空気が止まった。


「え、いや御堂さんは瀬戸くんとか──」


「…………」


 完全無視。


(こ、こいつ……笑ってるけど目が怖ぇ!)


「まぁ、御堂がいれば大丈夫だろう。なにかあればすぐ呼べ」


「わ、わかりました、先生。あの、僕は──」


「行きましょう、山田くん」


「え、ちょっ……」


 結局、反論の暇もなく、山田は御堂に腕を引かれ、ポーターへと手を伸ばす羽目になった。


(……なんで僕がこんな修羅場に巻き込まれてんだ……)


 その直後、光に包まれ二人の姿が消える。


 ──D級ポーター、転移開始。


ここまで読んで頂きありがとうございます!

誤字脱字など御座いましたらコメント下さい。


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