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クラスの隅っこにいる山田くん。実は世界ランキング一位だった件  作者: まめだいふく


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 山田は呼び出しを受け、静かに転移陣を抜けると、政府公認の対策本部の一室へと現れた。


 ここは、ポーター関連専門の警察署のような場所だ。

 探索者同士のトラブル、行方不明者の救出、魔物の暴走など──ポーター絡みの全てを取り扱う、いわばこの時代の最前線。


 無機質な蛍光灯の明かりの中、事務員たちが慌ただしく端末を操作している。

 そんな中、山田に気づいた一人の女性が、明るく手を振って近寄ってきた。


「やっほー、奏くん! ごめんね、急な呼び出し! 学校だった?」


「わかってるなら呼び出さないでくださいよ……」


「あはは。だってどうせクラスの隅っこで読書してたんでしょ?」


 屈託のない笑顔で笑う彼女──

 橋本 紗友希(はしもと さゆき)、二十歳。レベル五十を超えるA級探索者であり、この本部の現場統括でもある。


 見た目はモデル顔負けの美人なのに、口を開けばこれだ。実にもったいない。


 山田は軽くため息をつき、顎を撫でながら言った。


「……まぁ、間違ってませんけど。そうやって油断してると、紗友希さん……ちょっとお腹、出てきてますよ?」


「……っ!? な、なにぃ!?」


 山田の視線がスッと彼女の腰あたりを掠める。

 瞬間、紗友希は慌てて自分の腹部を押さえ、悲鳴を上げた。


「ちょ、ちょっと見ないでよ! 最近コンビニスイーツ我慢してるんだから!」


「……努力の方向、違うと思いますけど」


「なにぃ!?」


 ガチャリと勢いよく扉が開く音が響いた。


「おい、お前ら! 本部で漫才すんな!」


 低く響く声の主は、菅原(すがわら)──対策本部の主任であり、二人の上司だ。

 渋い顔で入ってきた彼は、頭を押さえながら怒鳴った。


「さっさと行け! 救助要請が入ってるだろうが!」


「ちょっと聞いてくださいよ、菅原さん! 奏くんが、わたしのことおでぶって──」


「お前がまた変な絡みしたんだろうがっ!」


 ゴツン!

 という鈍い音とともに、紗友希の頭に見事な拳骨が落ちた。


「いったぁぁぁ! この暴力上司! セクハラで訴えますよぉ!」


「うるさい。仕事しろ」


 菅原はため息をつきながら、山田へ視線を向けた。


「悪いな、奏くん。うちのが毎度お騒がせで」


「いえ、大丈夫です。慣れてるんで」


 軽く肩を竦める山田に、菅原は資料を渡した。


「B級ポーターで救助申請だ。君なら問題ないだろう。入場許可は通しておく」


「了解です。学校戻る前に片付けますね」


 山田が言い終えるより早く、その姿は空間に溶けるように掻き消えた。


 残された二人の間に、静寂が落ちる。


「……いやぁ、何度見ても転移スキルってすごいですよねぇ。あれ欲しいなぁ」


「そうだな。彼に頼りっぱなしで心苦しいくらいだ」


 紗友希は腕を組みながら、にやりと笑った。


「でも、さすがランキング一位って感じですよね。あのモブオーラ込みで」


「……そのうち本当に嫌われるぞ、お前」


「だいじょーぶですよ! 奏くん、私以外に友達いませんも──」


 ゴツン!


「……あ痛っ!」


 また拳骨が落ちたのは言うまでもない。


♦︎♦︎♦︎


 山田は転移を終え、B級ポーターの入口へと降り立った。

 そこには数名の看守が警備にあたっている。


「すみません、救助要請があったのはここで間違いないですか?」


「っ!? ま、まさか山田様ですか!? お待ちしておりました!」


 突然現れた山田に、警備員は慌てて姿勢を正した。

 無理もない。認識阻害を掛けているせいで、最初は誰が来たのかすら理解できないのだ。


「ありがとうございます。では、入りますね」


 軽く頭を下げ、山田はポーターの渦に手をかざした。

 視界が歪み、空間がねじれる。次の瞬間、彼の姿は異界へと消えた。


♦︎♦︎♦︎


 洞窟のように薄暗い空間。

 壁面を照らす青白い鉱石の光が、山田の足跡に合わせて揺らめく。


「さて……まずは片っ端から探すか」


 彼は刀を抜き、音もなく駆け出した。

 振るうたびに風圧が生じ、襲いかかる魔物が一瞬で霧散する。

 剣閃が通り抜けた跡には、静寂だけが残った。


「いないな……B級でここまで深い層に潜るって、どんな無茶だよ」


 山田は眉を寄せ、最下層へと辿り着く。

 救助者の影は見当たらない。


「……まさか、ボス部屋か!」


 嫌な予感が背筋を這い上がる。

 救助要請が届いてからすでに三十分──普通ならもう、手遅れの時間だ。


「間に合え……!」


 山田は地面を蹴った。

 瞬間移動に近い速度でボス部屋の前に立ち、迷うことなく扉を叩き開く。


♦︎♦︎♦︎


 金属音が響き渡る。

 視界の中、血に染まった少女が、巨大な斧を持つ魔物と対峙していた。


「待たせてすまない。助けに来た」


 山田は少女と魔物の間に滑り込み、刀で斧を受け止めた。

 火花が散り、衝撃波が床を割る。


「……っ!? グランドミノタウロス!?」


 本来A級ポーターでしか出現しない魔物だ。

 B級のボス部屋に現れるはずがない。


「考えるのは後だな」


 山田は刹那に転移し、ミノタウロスの背後を取る。

 一閃。

 刀が閃き、首が宙を舞った。

 巨体が崩れ落ち、魔物は煙となって消える。


「任務完了、っと。大丈夫? これ、飲んで」


 山田はポーチから回復薬を取り出し、少女に差し出した。


「……ありがとうございます。あなたが来なければ、私……」


「無理は禁物だよ。どうして一人で入ったの?」


「……強くならないといけないんです。どうしても」


 その瞳に宿る真剣な光を見て、山田は思わず苦笑する。


(あー……やばい。こういうタイプ、面倒くさいんだよなぁ)


「……そっか。じゃ、帰ろうか」


「え、あ……はいっ」


 少女は少し戸惑いながらも頷いた。

 山田は胸を撫で下ろす。


(よし、物分かりのいい子で助かった……でもどっかで見たことある気が……まぁいいか)


「走れる?」


「え? は、はい!」


「じゃ、行こうか。僕もこのあと用事があるし」


「は、はいっ!」


 ──その時、彼がもう少しだけ彼女の顔を思い出せていたなら。

 この先の厄介な未来を、ほんの少しは回避できていたかもしれない。


♦︎♦︎♦︎


 ポーター入口。

 看守たちが二人の帰還を確認すると、すぐに駆け寄ってきた。


「お疲れ様でした、山田様! 早かったですね!」


「ありがとうございます。このポーター、しばらく閉鎖でお願いします。報告は僕から上げておきます」


「了解しました。こちらの救助者はこちらで引き取ります」


「助かります。じゃあ僕は戻りますね」


 山田は少女に軽く頭を下げた。


「無理しないようにね」


「……はい。助けていただいて、本当にありがとうございました。必ずこの恩はお返しします」


 そして彼の姿は、再び静かに掻き消えた。


 少女はその背を見送りながら、口元に微かな笑みを浮かべた。


「……認識阻害、かけてた……? やっぱり。ランキング一位の──彼」


 その目は、静かに炎を宿していた。


「ふふ。同じ学校だなんて、運命ですね。必ず……見つけ出します」

ここまで読んで頂きありがとうございます!

誤字脱字など御座いましたらコメント下さい。


「面白そう」「続きが気になる」と感じましたら、ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです

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