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夢は夢だからこそ美しい

作者: 羅志

 異世界に転生したら、幸せになる。

 そんな夢を、見ていた。


 だって、異世界に渡った物語の主人公たちは、皆、大変な思いをしつつも幸せになるから。なれるから。

 もちろん、異世界に行ったからといって幸せになれない人もいる。けれどそれは、悪役だからだ。大変な目に遭う時、それに立ち向かうのではなく、誰かに押し付けるような、酷い奴だからだ。

 自分はそうにはならない。異世界で出来る友人や仲間と一緒に、皆で立ち向かっていける。

 自分は異世界の主人公になるのだと。そう、夢見ていた。本気で願っていた。


 だから、その願いを叶える為に、辛くて苦しい現実から、逃げたのだ。

 この世界は私には辛くて苦しいけれど、異世界ではきっと、私を愛して、大切にしてくれる友達や仲間ができるはず。

 そんな夢を見ながら、身を投げたのだ。




 転生に気がついた時には、自分の夢は叶ったのだと、喜んでいた。

 幸せになれると、心から思っていた。


 けれど、現実は、そう甘くない。そう、ここはもう、夢見た異世界ではなかった。私の都合のいいように動く、私の夢見る異世界じゃなかった。

 そこはもう、私があれだけ嫌で、辛いと逃げ出した、現実そのものだった。

 無条件で私と仲良くしてくれる、ずっと友達で居続けてくれるような人はいなかった。

 私がどんな輩でも愛してくれる、仲間だといってくれるような人はいなかった。


 画面越しに見たカッコよかったり、可愛らしかったりな二次元の顔つきは、私の見ていた現実の顔つきと同じになっていて。

 現在地が変わるたびに変わるBGMなんてあるわけなくて。そもそもBGMなんてもの、お店の中とかそういう場所以外ではなくて。

 特別な魔法の力だとかはあっても、それは無条件で使えるものではなくて。火の魔法が暴発したら、自身を黒焦げにするような、恐ろしい力で。

 カッコいい戦闘は、ただの命の取り合いで。生々しい鉄錆の匂いにはずっと慣れなくて。身を投げた時の一瞬の衝撃とは全く違う、ずっと付き纏う痛みが恐ろしくて。


 そこは、元いた現実よりももっと辛くて、苦しくて、恐ろしい、現実の世界だった。




 元の世界に戻りたい。

 自分勝手な夢で投げ捨てた世界を思って、何度も枕を濡らした。

 また身を投げれば、死ねば、戻れるだろうかと。死のうとしたことは、何度もあった。

 けれど、この世界には魔法があって。中には、癒しの力もあった。

 高いところから身を投げても、敵の攻撃で重傷を負っても、癒しの力で治されて、死ねなかった。

 辛くて、苦しくて、恐ろしい現実で、生きていくしかなかった。



 異世界に行けたら、救われると思っていた。

 自分を愛してくれる人。

 自分の味方でいてくれる人。

 自分を肯定してくれる人。

 物語の主人公になれたら、そういった人たちに囲まれて、幸せになれるんだと。

 そう、夢見ていた。


 夢だ。

 そう。夢を見ていたのだ。

 全部、全部、夢だったのだ。


 異世界が美しく見えるのは、そこが、『異』世界だから。

 今いる、生きている世界とは違うから。

 違うから、憧れて。違うから、夢を見る。こうあれかしと、願いを込める。



 夢は、夢だからこそ、美しくって、憧れる。


 今日も私は、辛く苦しい現実(異世界)から逃げたくて、甘く優しい異世界(元の世界)に転生する夢を見ている。

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