女「オチバ拾いでつかまえて?」(二次創作)
秋。落ち葉があらかた落ち切ってしまい地面に残るのは赤い紅葉だけ。
(こんな日は人恋しくなります...)
下に散らばってる赤い紅葉を一枚手に取ってみる。
紅葉の絨毯だったのは今は昔の話。
(ん?紅葉に紛れてなにかが...)
散り散りゆく紅葉に紛れてハンカチが一枚。
赤くて刺繡が端にあしらってある古風なハンカチだ。
誰かが落としたのだろう。だれだろう?
周りには人はいないこともないが赤いハンカチを使いそうな女の人はいない。
いるとすればオチバを拾っている女の子だけだ。
(一応聞いてみるか)
僕「すいません・・・ハンカチを落としませんでしたか?」
女「え?」
小さな体躯から想像してたのと正反対の声がした。
悪く言えば男の子のような。良く言えばハスキーボイス。
女の子はいきなり話しかけられたので困惑してるようだった。
女「あの...?」
女の子は困惑してるようだった。
女「えっと......???」
もう一度言おう。女の子は困惑してるようだった!
女「???」
僕「あっ、えーっと、ハンカチ!ハンカチ落とさなかった?」
女の子は自分の胸ポケットを確認してはっ、と気付いたようにこちらを見た。
包むように手を取るとお礼を言ってきた。
女「ありがとうございます。これ、大事な人からの贈り物なんです。」
僕「そうなんだ。なくしたら大変だね。」
ハンカチを渡してそっとそう告げると立ち去ろうとした。
女「いえ...。ハンカチの縁に刺繍で私の名前が描いてあるんです。」
よく見ると英語で『NATU』と描かれているのがちらりと見えた。
NATU......ナツ......夏!!
僕「夏ちゃんっていうんだ?かわいいね。」
女の子は少し怪訝な顔つきでこちらを見つめていた。
ナツ「あの...失礼ですけど多分私の方が年上だと思います...。」
どう見ても中学生かそこらといった感じだ。一体何歳なんだろう?
ナツ「一応22なので...」
僕の年齢は23。
僕「一応僕は23だから年上は僕だね?」
ナツ「す...すいません...」
彼女が申し訳なさそうに頭を下げた。
僕「ねえ?オチバ拾いしてたの?奇麗な紅葉...見つかった?」
僕がそう聞くとナツはポケットから紅葉を数枚取り出して見せた。
ナツ「これ...挟んで栞を作ろうかと思って...一枚どうですか?」
僕に躊躇なく一枚の葉っぱを差し出してきてそう言った。
僕「ありがとう。でも、栞の作り方は知らないんだ。」
ナツは『そう...』というとそっとポケットにしまった。
『あの...!』
声がダブった。僕は『喉乾きませんか?』と言おうとしたのだが...。
僕「お先にどうぞ。」
ナツ「で、では...あなたの好きな季節は何ですか?」
意外な質問だった。
僕「僕は......秋、かな?」
ナツはまた
『そう......』というと続けざまにこう答えた。
ナツ「私は......夏が好き。ナツだから。」
妙に説得感の薄い答えだった。
なぜ自分がナツだから夏が好きでなくてはいけないのだろう?
ナツ「早く夏になってほしい。夏は陽射しが私を隠してくれるから。」
なるほど。夏が好きな理由は『夏がナツであるが為』・・・か。
僕「でも、『秋もいい季節だよ』・・・。」
わざとらしく台詞のように唱えてみた。
この言葉は彼女に届くはずは・・・
ナツ「じゃあ、試してみる?」
僕「なにを??」
ナツ「秋といえば......デートかな?ほら...例えば食欲の秋...食べるといえばデート。全部の秋は恋愛に通じてる。かなって...」
自信なさげに論破してくるナツの口車に乗せられてみることにした。
僕「じゃあ......お試しってことで。」
ナツ「......うん。」
自信なさげにうなづくナツの手を握りしめて歩き出した。
僕「ねえ?行ってみたい場所とかある?」
ナツ「うーん......。例えばだよ?秋が満喫できる場所って思いつく......?」
空にあるはずのない星を見上げてこう返した。
僕「秋・・・天体観測?プラネタリウムとかどう?」
近くにある子ども科学館には年中楽しめるプラネタリウムがある。(入場無料)
ナツ「......じゃあそこに行こう。」
徒歩数分といったところだろうか?その間まったくの無言なのはやはりお互いを知らないからだろう。
子ども科学館に入って時間を尋ねた。
僕「何時からですか?」
「うん??ああ、プラネタリウムね。看板に書いてあるだろう?あそこだよ。」
ふと、腕時計で時間を確かめてみた。
14時25分・・・今丁度始まったばかりだった。
僕(どうしよう・・・?一時間くらいあるぞ?)
ナツがちらちらと二階に視線を向けていた。
僕「なに?二階に行きたいの??」
二階に続く階段の下にある掲示板にはこう書いてあった。
『バルーンアート。』
どうやらバルーンアートで飾られている部屋を開放しているらしい。
僕「いってみようか?」
僕(でもバルーンアートで一時間潰せるか?)
ナツ「いえ......プラネタリウムは大丈夫かなって......。」
確かにそうだ。
僕「アラームセットしておくよ。十分前に......セット。」
ナツ「今の腕時計ってそんなことできるんですね......。一つ勉強になりました。」
二階に行く途中からバルーンアートが飾ってあった。
僕(少し恥ずかしいな・・・)
少し紅潮してきたほおを隠しながらナツを見た。
ナツ「......。」
バルーンアートに興味を持っていかれているらしかった。
触ろうとして躊躇して出した手を引っ込めた。
ナツ「......やはり触るのはダメでしょうか......?うーん......割れたら困りますし......。」
そんなことは心配しなくてもいいのに。
僕「噛むわけでもないんだし・・・大丈夫じゃない?」
軽率に言ったことを次の瞬間後悔した。
パァ――――ン!!!!!!!!!!
なぜだかわからない。なぜだかわからないけれど、風船が破裂した。
ナツ「......。」
僕「な、ナツのせいじゃないよ。」
ナツ「......そう、ですよね・・・?」
ふと時間を気にする。
僕「あっ、もう時間だね。いこうか。」
ナツ「......はい。」
ナツの手を引き一階へと戻っていった。
プラネタリウムはというと・・・。
『まずは夏の星座から見ていきましょう。夏は夏の大三角形を代表とする......。』
ナツ「・・・・・・」
僕「・・・・・・」
『季節は巡ります。夏から秋へと変化し夏には見られなかった星座が見られるようになります。これは地球が太陽の周りをまわっていることが......。』
ナツ「わあ......。」
僕「秋は秋でいいところもあるんだよ?」
ナツ「すごい......。」
『秋の終わりにはペガサス流星群と呼ばれる流れ星の大群が見られるでしょう。』
そのまま、冬~夏へと戻ってプラネタリウムは終わった。
ナツ「・・・・・・」
僕とのデートはどうだったのか、ということを聞けずにいた。
実際プラネタリウムを見ただけだし・・・。
ナツ「あっ・・・あめ......。」
ぽつりぽつりと雨が降り始めた。
僕「やばい!あそこに避難しよう!」
近くにあったちょっと豪華すぎるホテルに入った。
男女とはいえ出会ったばかりのそれも若い人たちが入っていくのはあまり感心しないよね・・・?
ナツ「わあ・・・ジャグジーですよ。私初めてです。」
僕は帰りの交通手段に思い至った。
「そういえばどこからきたんですか?」
僕は口ごもって
「九州の北の方です。」
ナツ「じゃあ結構都会なんだ?」
僕「岡山も都会だとは思うけど。」
きっと都会の謙遜ってやつだろう。
僕「あっ雨やんだね。出ようか?」
『まだお時間は残っておりますがよろしいでしょうか?』
ナツ「はい。そういうことをしに入ったわけではないので。」
分かってはいたらしい。どういう行為をする場所かってことは......。
ナツ「きょうはたのしかったです。またどこかで会ったときはよろしくしてください。」
僕「あ、ああ。僕も帰らないとね......帰らないと。」
夏と別れるのはとても心苦しい。けれどもいつかは別れるもの。もともと他人だったんだし・・・。
夏の後ろ姿に哀愁を感じたが黙っておいた。
「またね」
僕は電車に駆け込んだ。
『駆け込み乗車はおやめください』
僕「少し寝ようか・・・。」
ゆらゆらと揺れる電車に揺られてついうとうとしてしまっていた。
「ぼ・・・!僕くん!」
僕「へあっ!?」
思わず変な声が出てしまった。
よく見ると子連れの若い女性が隣に座っていた。
僕「冬さん・・・。」
冬「どうしたの?らしくないよ。電車で居眠りなんて。」
この人は冬さん。僕の住んでいる温泉街で民宿を営んでいる女性だ。
『きゃっきゃ!』
冬さんはお子さんにミルクを上げ始めた。
僕
ちらりとのぞく赤ん坊の満足そうな顔は忘れたくても忘れられない。(いろんな意味で)
どうやら満足したようだ。
僕「大変そうですね。」
思わずそんな言葉が口を突いて出た。
冬「そうかなあ?幸せだと思うな。好きな人との子供ってかわいいんだよ。ほら。僕お兄ちゃんですよー。」
『きゃっきゃ!』
僕「でも旦那さんは遠くにいるんですよね。やっぱりたいへんですよ。」
冬はふふっと笑うと
『あこがれの人と結婚できたからね』
笑顔がまぶしくて見てられないくらいだった。
そのあと電車を降りて、家路についた。
冬さんは「泊っていけばいいのにね?」と冗談めいていた。
それから数日特に何もなかった。なかったのだが・・・。
「僕くん!」
僕「ナツ!?」
どうしてだか夏ちゃんと一緒に観光をすることになった。
僕「あの、どうしてこの町に?」
ナツ「冬さんに聞いて・・・。」
冬さんの謎人脈が垣間見えた。僕「じゃあ明太子でも食べようか?」
いきつけの明太子屋さん(実食可)に足を運んだ。
ナツ「おいしい・・・!」
彼女が喜んでくれるのを見るのはとてもうれしい。
からんからん!『ありがとーござやしたー』
もうすっかり夕暮れだ。
ナツ「夕日ってのも悪くないですね。」
僕「でしょ?秋もやっぱり悪くないと思うけどな。」
「・・・・・・・・・」
ナツは無言で夜行バスに乗った。
僕に見送られるとこう呟いた。
「秋ってのも悪くはないですね。」
夜行バスの車内からはちらほらと雪がちらついてた。
僕「この雪をナツも見てるんだろうか?今度会うときはもっと親密になりたいな。」
淡い憧れは夕焼けに溶けていった。
完