プロローグ:少女の憂鬱
基本的に”魔法”というものは生活のためにある、ファンタジーでは”生活魔法”と呼称される類いのものが殆どな世界です。
持っている力は異端だけども強大な訳でもなければ生活の役に立つ訳でもなく、力とは関係のない要素で見た目まで異端扱いの少女が、人との繋がりや学びから自分や周りの幸せを得る。
そんな作品を書ければいいなと思っています。
魔人と呼ばれた少女は、自らが成せる事を探す。
身寄りのない子供達は、今日も一日を生き抜く。
過去に囚われた戦士は、かの日の償いを求める。
これは、傷を持つ者達が、それぞれの救いを探す物語である。
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「もう……いいで、しょ……?」
その言葉を発したのは、夢の私なのか、現実の私なのか。
果たしてどちらかはわからなかったが、現実に引き戻された少女はうっすらと目を開ける。
外はもう明るい。じきに侍女が呼びに来るだろう。
私、リリア・エタンダールは貴族らしいが、その中では小さい家らしい。使用人などは居るものの、数は最低限。外出などがなければ着替えの手伝いすらないのが基本だった。
尤も、私には外出などないから関係ないのだが。
リリアはベッドを降りると、ちょうどそこに置いてあるスリッパを履いてペタペタと歩く。
目指した先は窓辺。ぴったり閉じられたカーテンに指を差し入れて外に人影がない事を確認し、少しだけカーテンを開けてみる。すると、今にもため息をつきそうな灰色の瞳と白髪の少女が窓に映った。
白い髪はアルビノと呼ばれる不治の病に見られる特徴であるが、この特徴を持つ人間は身体が非常に弱いそうだ。陽の光に長時間当たる事すら危険と言われ、部屋に篭もりきりの生活をする羽目になっているのが現状だ。体の良い厄介払いな事に気付かされた身としては、言うことを聞き、ただ静かに問題を起こさずに居るしかない。
「陽の光に弱い」事の弊害は受けた事がないが、アルビノ故に普通の人と明確にある違いとしては、左眼がほぼ見えない、という事だろうか。見えないと言っても非常に視力が弱いというのが一番近い例えで、ただし眼鏡をかけても見え方が変わらない、少ない光でも眩しく感じるといった症状だ。
この国では白い髪から異端視される事も多い病気だ。
それに。
少女が手を伸ばし、窓辺に飾られている花に向けて魔力を送ると、窓に映るその瞳が淡い緑色に光る。すると、魔力を受けた鈴蘭が、数秒にして異常な成長を見せ一輪の花を咲かせた。
……こんな力さえなければ。
人生で幾度目かわからない自嘲が始まる前に、少女は視線を窓から離して自室の扉を開けた。ちょうど部屋の前に着いたらしい侍女が驚いた表情を見せるが、気づいていない振りをしておいた。
朝食を知らせに来たのだろう。少し開いたカーテンをちらと見やり何か言いたげにしている侍女に頷いて食堂に歩を向けると、控えめな足音が3歩後ろをついてくるのが聞こえた。
基本的に、この邸でリリアが言葉を交わす事は少ない。
「おはようございます、お嬢様」
そう。ただ1人の使用人を除いて。
黒髪黒目、ショートボブに伝統的なメイド服を身に纏った少女は、私より5つ上の18歳とのことだ。話しかけてはくるが、仲は良くも悪くもない。そんな絶妙な距離感を保って接してくる使用人だとしても、リリアにとっては会話ができる相手というだけでも悪い相手ではなかった。
「おはよう、エレフィ。お父様達は?」
「本日も既にご公務に当たられております」
「……そう」
理由は不明だが、両親は滅多な事では私の前に現れない。使用人達に聞かれてもはぐらかされるのがせいぜいで、近頃に至っては無視される事すらある。
「お嬢様が気にされる必要はございません。お嬢様が悪い事をされた訳ではないのですから」
エレフィはいつもそう言ってこの話題を終わらせる。
……それで納得する訳ないって、わかっているくせに。
今日もささやかな苛立ちを感じつつも、リリアは食堂に足を踏み入れるのであった。
初めまして。瀬戸ゆきです。
非常に短いですがプロローグでした。
半分「これからは進捗が必要だぞ」と自分の尻を叩く意味も込めての投稿です()
数ヶ月に一度くらいのペースでのんびりと更新できればいいなと思っていますので、続きが気になった方は気長に待っていただければ嬉しいです。