4.二人目の攻略対象
ヒロインの二人目の攻略者を前にしたアイラは驚いた表情のまま固まっていた。
(え…?何故ここに二人目の攻略者が…?)
アイラは頭を混乱させながら思っていた。
「あの…君大丈夫?」
二人目の攻略者は目の前にいるアイラが黙って固まったのを見て心配そうに声をかけた。
「え?あ…はい。大丈夫です。申し訳ありません…。少し驚いたのもので…。」
アイラは声をかけられハッとなりながら応えた。
(少しどころじゃないけどね!)
アイラは応えながらもそんな事を思っていた。
「はは…そうだよね。急に声をかけられたら驚くよね。ごめんね。カイルから君に伝言を伝えに来たんだよ。」
「お兄様からですか?」
「あぁ。カイルが急遽先生の荷物運びの手伝いをする事になったから帰るのが少し遅くなる様で図書室で時間を潰して待っていてくれとのことだ。」
「そうなのですか…。分かりました。わざわざ伝えに来てくださりありがとうございます。」
「いや…大丈夫だよ。」
アイラの反応を見た二人目の攻略者はクスりと笑いながら言うとカイルからの伝言をアイラへと伝えた。
伝言を聞いたアイラは頷きながら応えると二人目の攻略者へとお礼を言った。
そんなアイラに二人目の攻略者は笑顔で応えた。
「あっ…申し遅れたが私はカイルの友達のグラマー公爵家のヨハネス・ヴィー・グラマーだ。」
「私は…お兄様の妹でガルバドール侯爵家のアイラ・プ・ガルバドールです。」
二人目の攻略者こと…ヨハネスがアイラへと自己紹介をするとアイラも慌てて自己紹介をした。
(ヨハネス・ヴィー・グラマー…ヒロインの二人目の攻略者…。同じ相手を好きになったお兄様の友達。見た目は黒髪に紫色の瞳が印象的でとても気さくな公爵家の令息だったわね。ローズと出会い友達と同じ人を好きになった事で恋と友情の間で悩んだ末に恋を取る事にしたけれど…ヨハネスもまたローズの心を射止める事が出来なかったのよね…。)
アイラはヨハネスと話しながらもヨハネスを目の前にしてそんな事を考えていたのだった。
「アイラって呼んでもいいかな?」
「え?あ…はい。」
「ありがとう。私の事もヨハネスと呼んでくれて構わないよ。」
「い…いえ…さすがにそれは…呼べませんのでヨハネス様とお呼びいたしますね。」
「そう?まぁいいけれど。アイラの事はいつもカイルから話を聞いているよ。」
「お兄様からですか?!」
「あぁ。」
ヨハネスは笑みを浮かべながらアイラへ名前で呼んでいいかと尋ねるとアイラは頷きながら応えた。
ヨハネスはアイラへ自分も同じように呼んでくれたらいいと言われたもののアイラは苦笑いを浮かべながら言った。
そしてヨハネスはカイルからアイラの事はよく聞いていると言うとアイラは驚いた表情を浮かべて言った。そんなアイラへヨハネスは笑顔で頷きながら応えたのだった。
(お兄様ったら一体何を話しているのかしら…。)
アイラはヨハネスの話を聞いて少し困った表情を浮かべてそんな事を考えていた。
「はは…そんな顔しなくても大丈夫だよ。別に変なことなんかは聞いていないなら。」
「本当ですか?」
「あぁ。カイルがするアイラの話はいつも妹の自慢話か妹が可愛いという話ばかりだから。」
「お兄様ったら…それもそれで恥ずかしいです…。」
(確かにお兄様は私を大切にしてれているけどいざそれを人前で熱弁されると複雑な気持ちになるわね…。)
ヨハネスは困った表情を浮かべるアイラを見てクスクスと笑いながら言うとアイラはホッとした表情をしながら言った。
ヨハネスはカイルがいつも友達へアイラは自慢の妹だと話していると言うとアイラは何だか恥ずかしくなりながら言った。
そして、アイラは内心は苦笑いを浮かべて思っていた。
「ははは…。確かに自分の知らない所で自分の話をされるのは恥ずかしくなるかもね。」
「いや…本当にそうです…。」
「でも…妹の話をしたい気持ちも分かるな…。僕も年は離れているけど妹がいるからね。」
「そうなのですか?!妹さんはいくつなのですか?」
「妹は今七歳なんだ。」
「七歳ですか?本当に歳が離れているのですね。でも…そこまで離れていたらとても可愛くて仕方ないでしょう?私も妹が欲しかったので羨ましいです。」
(私は前世では一人っ子だったから姉妹や兄弟がいる子が羨ましかったなぁ。特に妹が欲しかったのよね…。妹にハンドメイドで色々作ってあげたいとか思ってたなぁ。)
ヨハネスはまた複雑な表情をしているアイラへクスクスと笑いながら言うとアイラは頷きながら応えた。
するとヨハネスは自分にも妹がいる事をアイラへ話すとアイラは話に食いついてヨハネスへと聞いた。
ヨハネスはにこりと微笑みながら言うとアイラは微笑みながらヨハネスへと言った。
そして、それと同時にアイラは前世での事を考えていた。
「うん…。歳が離れている分可愛いけれど心配もつきないけどね。でも…うん…やっぱり妹は可愛いかな。カイルもきっと同じ様にアイラを可愛いくて大切に思ってるんだよ。」
「はい…。」
ヨハネスは笑顔で言うとアイラは応えた。
「あっ…立ち話をさせてしまい申し訳ありません。私は図書室へと向かいますのでヨハネス様はどうぞお帰り下さい。お兄様からの伝言ありがとうございました。助かりました。」
アイラはふとヨハネスを立たせたままだと思い慌てて言うとヨハネスへ伝言を伝えてくれたことのお礼を改めて言った。
「構わないよ。アイラと話が出来て良かったよ。図書室まで送って行かなくてもいいかい?」
「はい。大丈夫です。一人で行けますので。」
「そう?分かったよ。では…ここで失礼するね。」
「はい。分かりました。」
ヨハネスは微笑みながら応えるとアイラへ図書室へ付き添おうかを尋ねた。
アイラは笑顔で応えるとヨハネスは言った。
そして、アイラへ声をかけるとヨハネスはその場から立ち去ろうとしたのだった。
立ち去ろうとするヨハネスを見てアイラは何かに気づいた。
「あっ…あの…。」
アイラが思わずヨハネスへと声をかけた。
「ん?どうしたの?」
ヨハネスが振り返り応えた。
「あの…制服の袖のボタンが取れかけています。」
アイラが慌てて言った。
「ん?あっ!本当だ。まったく気づかなかったよ。今にも取れそうだな…。このままにしていたら取れて落ちてしまいそうだから解れてる部分を切ってボタンを外して帰るよ。教えてくれて助かったよ。」
ヨハネスはアイラに言われて制服の袖を見て言った。
「あの…ヨハネス様はこの後何かご予定などありますか?」
「ん?どしてだい?」
「もし…お時間が大丈夫でしたら良ければ私がすぐにボタンをお付けしようかと思いまして…。」
「アイラがかい?」
「はい…。あっ!お急ぎでしたら大丈夫ですので…。」
アイラはふと思いついた事がありヨハネスに尋ねるとヨハネスは??という表情を浮かべながら言った。
そんなヨハネスにアイラは自分がボタンを付け直す提案をするとヨハネスは驚いた表情で言った。
「いや…この後は特に予定はないから…お願いしようかな?」
「はい!あっ…でもどこか座れる場所が…。」
「それなら図書室で付けてもらおうかな。静かにしていればボタンをつけるくらい問題ないだろう。」
「そうですか…?では…図書室でお付けしますね。」
「あぁ。頼むよ。」
「はい。」
ヨハネスは少し考えてアイラにボタンをつけてもらう事にした。
それを聞いたアイラは笑顔で返事をしたが付ける場所に困っていた。
そんなアイラへヨハネスは図書室でいいと提案した。
そして、二人は図書室へと移動した。
図書室に着くと数名の生徒が読書をしていた。
アイラ達はあまり読書の人の邪魔にならない様にと一番奥の席へと座った。
「では…ボタンを付け直しますので申し訳ありませんが制服の上着を借りてもよろしいですか?」
「あぁ。分かった。頼むよ。」
アイラは小声でヨハネスへと言うとヨハネスも小声で応えながらも制服の上着を脱いでアイラへと渡した。
アイラは鞄から携帯用の裁縫道具を出すと手際よくボタンを付け直し始めた。
アイラの手際の良さに驚いた表情を浮かべたヨハネスだがすぐに微笑ましい表情を浮かべてアイラを見ていた。
また…図書室にいた女子生徒達もアイラとヨハネスの事を見てコソコソと話をしていた。
だがそんな事などまったく気づかないアイラはボタンを付けることに集中していた。
(はぁ…ついボタンが解れてるのが気になって引き止めてしまったけれど…相手はヒロインの第二の攻略対象者なのよね…。プリラブMでヨハネスがローズと出会うきっかけになったのは確か…ローズに目をつけた悪役令嬢のジェシカが取り巻き令嬢達と一緒に子爵令嬢であるローズを自分達より身分が低いにも関わらず侯爵家のカイルと仲良くしているのに腹を立てたという理由でいびり始めた時にたまたま通りがかったヨハネスがローズを助ける事で二人は出会う事になったんだったわよね…。でも…カイル攻略時とヨハネス攻略時の間でジェシカが登場したからなかなか一人目攻略対象のカイルの攻略に手こずったのよね…。ヨハネスもまたローズに惹かれ恋に落ちるけれど恋と友情の間で悩み恋を取ったもののその恋は実らずカイルとの友達関係も微妙な関係になってしまったんだわね…。)
アイラはボタンを付け直しながら前世の記憶を思い出し考えていた。
考えている間にあっという間にボタンを付け直した。
「よし…ヨハネス様出来ました。ボタンの糸が簡単には解れない様に縫い付けてありますので。」
アイラは満面の笑みを浮かべて小声でヨハネスへ言いながら制服の上着を手渡した。
「………。ありがとう。あっという間に付け直していたね。それも解れにくくもしてくれたなんて。アイラは裁縫が得意なんだね。」
「はい!得意といえば得意ですがとにかくお裁縫が大好きなんです。」
「そうなんだね。あ…そういえば今日カイルがアイラからハンカチをプレゼントしてもらったと嬉しそうに見せてくれたけどそのハンカチもアイラが作ったの?」
「はい。そうなんです。お兄様の名前を刺繍したハンカチなのです。」
「やっぱりそうだったのか。」
「はい。」
ヨハネスは上着を受け取ると小声でアイラへと言うと嬉しそうに笑顔で応えた。
ヨハネスはふとカイルとの会話を思い出してアイラへと伝えるとアイラは笑顔で頷きながら応えたのだった。
つい先程まで笑顔だったアイラから笑顔が消えた。
「あの…先程から図書室にいる他の生徒からやたらと見られている様な気がするのですが…やはり…ここでお裁縫などしたのが良くなかったのでしょうか…?」
「いや…恐らく私と女子と二人きりでいるからだろう。」
「え?それは…一体どういう意味ですか…?」
アイラは急に周りからの視線に気づくと少し焦った小声で様にヨハネスへと尋ねた。
するとヨハネスは小声でアイラへ言うとアイラは意味がわからず目を点にながらヨハネスへと尋ねた。
「私は…普段女性と二人きりになる事がないんだよ。私は…こう見えて女子生徒から人気がある様で色々と誤解などをされると面倒な事になるから女性とは二人きりにならない様にしてるんだよ…。カイルも女子生徒から人気だから私と同じで女性と二人きりになる事はないんだよ?お互い爵位が高いのも相まっているいるんだろうがね。知らなかったの?」
ヨハネスは小声で淡々とアイラへと説明した。
「え…?あ…はい…。まったく知りませんでした。お兄様とはそういう話はしませんし…私そういう事に疎いというかあまり興味がなくてですね…。あの知らなかったとはいえ誤解を招く様な行動をさせてしまい申し訳ありませんでした。知っていたらヨハネス様を引き止めたりなどしませんでした…。」
アイラは気まずそうな表情を浮かべながら言うとしょんぼりとした表情になりヨハネスへと謝った。
(プリラブMでは攻略対象を攻略してメインストーリーを進めたかったからサブストーリーは飛ばしてたのよね…。メインストーリーをクリアした後にサブストーリーを見たらいいかくらいしか思ってなかったからな…。まさか…自分がプリラブMの世界に転生するなんて思ってもみなかったもんね…。はぁ…こんな事だったらちゃんとサブストーリーも飛ばさず進めたら良かったな…。カイルとヨハネスは確かに容姿もかなりランクが高めだけどそこまでモテキャラだったとはね…。迂闊だったわ…。)
アイラはヨハネスに謝りながらも前世での行動を後悔しながら考えていた。
「謝らなくても大丈夫だよ。知らなかったのなら仕方ない事だから。それに私もアイラへボタンの付け直しをお願いしたのだから。」
「ですが……私達の方を見ている方達は絶対に勘違いしてらっしゃいますよ…。どうしたら皆さんが思っている様な事はないとわかってもらえますかね…。」
ヨハネスは少し笑みを浮かべながらアイラへと言ったがアイラはしょんぼりした表情のまま言った。
「私の口からあの方達にボタンを付け直していただけと伝えたら大丈夫ですかね?いや…そんな事をしたら余計にややこしくなるか…ん〜どうしたら誤解だと分かって貰えるかしら…。」
アイラはブツブツと小声で呟いていた。
「アイラ…本当に大丈夫だからそんなに気にしないでよ。」
ヨハネスはアイラへと言った。
(アイラは本当に知らなかったんだろうな…。カイルの妹だから知っていて知っているからこそ声をかけてきたと思ったが…。アイラは何の見返りもなく純粋にボタンを付け直そうと思っていただけだろうな。あんなに楽しそうにボタンを付けていたんだからな。しかし…こんな純粋な令嬢がいると驚きだな。カイルの妹がどんな子なのか…本当にカイルの言うとおりの子なのかを確かめる為に話に乗ったが本当にカイルが話していた通りの子だな…。)
ヨハネスはブツブツと呟いて焦っているアイラを見ながらそんな事を考えていた。
ガラガラッ…
その時図書室の部屋の扉が開いた。
「アイラ!」
「あっ!お兄様!」
「待たせて悪かったな…。ってヨハネス?ヨハネスも一緒だったのか?」
「あぁ。アイラへ伝言を伝えに行った際にアイラが私の制服の上着の袖のボタンが解れてるのに気づいてボタンをつけ直してくれたんだよ。」
「アイラが?」
「そうなの…。」
「お陰で助かったよ。」
「そうなのか…。アイラへの伝言助かったよ。」
「あぁ。」
「さぁ…アイラ遅くなってしまったが帰ろうか。」
「えぇ。お兄様。」
図書室へ入ってきたのはカイルだった。
カイルはアイラへと声をかけると一緒にヨハネスがいる事に驚いたがヨハネスから事情を聞き状況を理解した。
カイルはヨハネスへとお礼を言うとアイラへ言った。
アイラは応えると帰る支度をしたのだった。
『ヨハネス…あの女子生徒達は間違いなく勘違いしているぞ?』
『あぁ。でも、ほら…アイラがカイルの妹だと理解した様だから問題ないだろ。』
『それならばいいが…。アイラを余計な面倒な事に巻き込ませたくないからな…。』
『分かっているさ。』
アイラが帰り支度をしている間にカイルがヨハネスに耳打ちするとヨハネスもカイルへと耳打ちしたのだった。
そして、三人は図書室から出てそれぞれの帰る馬車へと向かった。
「じゃぁ、ヨハネスまた明日な。今日は本当に助かったよ。」
「あぁ。また明日。」
カイルがヨハネスへと言うとヨハネスも言った。
「アイラもまたね。ボタンありがとう。」
「はい。さようなら…。今日は本当にありがとうございました。そして…ご迷惑をおかけしました…。」
「本当に大丈夫だから気にしないでね。」
「はい…。」
ヨハネスがアイラへと笑顔で言うとアイラは複雑な表情を浮かべながらヨハネスへ言った。
そんなアイラを見てヨハネスは再度気にするなと言う事を伝えるとアイラは頷きながら言ったのだった。
そして、アイラとカイルが先に馬車へ乗った。
ヨハネスは何かを思う様にアイラをじっと見つめていた。
だが…
アイラはそんなヨハネスの視線にまったく気付くことなどなかったのだった………