12月13日 引きこもり
目の前で大好きな女性が過ぎ去っていく。大好き女性のはずが。絶望すぎて、追いかけることすらできなかった。絶望したまま、家に帰ると一通の手紙が入っていた。
手紙を読んでいると、涙がこぼれた。今すぐ、追い返さなきゃ。慌てて、駅まで走る。もう会えないと思うと、無性に怖くなる。走っても走っても、彼女は見つからない。それでも、彼女に会えると思って走った。30分ほど走り続けたが、彼女に会うことはなかった。これが、俺の人生なのだろうか。
モニター越しの映像と自分の気持ちがうまくリンクしていなかった。今日は3本目のドラマだった。ドラマの見過ぎで目が疲れてきた。少し休もうかな。そんなことを考えていると母が自宅に車で帰ってくる音が聞こえた。
一気にドラマから現実世界に戻ってきたような気がした。私は、20歳のフリーター。ニートと変わらないような気もするが。
12月に大学をやめてから、もうすぐ6ヶ月が経とうとしていた。同世代の子が、大学や専門学校などで遊んでいる姿を見みたびに、私の自己肯定感が下がっていくのだった。下の階から母の声がした。なんと言ったかよくわからなかったので無視をしていると、母が上がってきた。二回ノックをしてから私の部屋に入ってきた。
母「今日は、ちゃんと仕事探しに行ったの?」
私「べつに‥‥‥」
二段ベットの下から返事をした。下からだと、入り口の母の姿は、あまり見えなかった。
母「もうすぐ、陽菜乃も帰ってくるし、ちゃんとしないと」
今日は、塾が閉まっていることもあり、いつもより早く帰ってくるらしい。
私「わかったから、出て行って」
母「ホントにわかったの?」
私「もう、うるさい」
私は、ベットの布団をかぶって、お母さんの話をさえぎった。母は、すぐに部屋を出て行ったが、私が心配で仕方がない様子だった。一方、父は、こんな私を見ても何も言うことはなかった。
私は、4人家族だ。もうすぐ受験をひかえた高校3年生の妹がいる。2月の受験に向けて、毎日夜遅くまで勉強しているらしい。
妹は、こんな私を見ても、いつも変わらずに尊敬してくれているのだ。ニートになった私を軽蔑する母や何も言わない父のことは嫌いだったが、妹のことは嫌いになれなかった。
妹の陽菜乃は、海美高校に通う高校3年生。物静かで真面目な性格。陽菜乃は、本当に頭が良い。日本で2番目に賢い京都の大学の進学を希望しているらしい。高校3年生になってからは、毎日塾に行っており、22時頃まで勉強していた。自宅に帰ってくるのは、23時ぐらいだ。
私はというと、現在、仕事を探している最中だ。正直、やりたい仕事もないからなんでもいいと思っている。ただ、職場の雰囲気や面接官で「もういいや」ってなってしまう。自分というものがないから、何もやる気が起きないんだろう。
小学生の時から、そういうことが多かった。習い事も、途中で挫折してしまうし。高校では、茶道部に入った。理由は、友だちに誘われたからという曖昧な理由だった。その茶道部もほとんど行かずに、幽霊部員だった。
ただ、受験勉強は、それなりに頑張ったのでそこそこの大学には入れた。でも、大学で勉強する興味が湧かずに
「自分とは何か?」ということを探し続けるも答えが見つからずに19歳を迎えてしまったのだ。
そんなことをベットで考えていると、スマホに連絡が入ってきた。柚月からの連絡だった。柚月とは、私の高校時代の友人である。現在は、城星大学の1年生。聖徳高校から、スポーツ推薦で進学していた。連絡の内容は、「ご飯行こう」といういつものものだった。私は、断りをいれてスマホをふせた。
大学を辞めてから、友だちと関わりをもつこともやめた。最近は、友だちから遊びやご飯の誘いもこなくなっていた。
友だちのことを考えていると、何もかも嫌になったので、うつ伏せになって、目を閉じたのだった。