ふたり
粉雪がひらひら舞い散るなか、宮部真紀子は彼氏の祐を、まだかまだかと校門で待ち伏せしていた。
マフラーがなければ、凍え死にそうな寒さだ。
そういえば、今年は特別に寒いとだれかが言っていたことを、ふと思い出す。
私は、手のひらと手のひらをこすり合わせた。
祐が来ていないか生徒昇降口を見る。
雪が降ってあまり確かに見えなかったが、人影があった。
目を凝らしてみてみる。
黒い髪、私より白くてきめ細かい肌・・・祐だっ!!!
私は祐のもとへと駆け寄った。
「祐!!」
「オス」
祐がニコッと笑う。
私はそんな小さいことにドキッとなった。
「お疲れ!野球部どう?スタメンになれた?」
「おぉ、なんとかな!」
祐が、うれしそうにはにかむ。
「よかったね!私も安心したよっ!」
「マジで?!心配してくれてたの?」
「あったりまえじゃん!かれかの でしょ?」
「サンキュな」
祐は私の髪をなでて、クシャッと笑った。
しばらく歩いていると、商店街にさしかかった。
だが、人っ子ひとりいない。
気がつくと雪はやんでいた。
地面に少し積もっている。
「わっ!すべりそ・・・」
そういった瞬間、私は転倒した。
「バカ・・・大丈夫か?」
祐があきれたように、転んだ私を起こす。
やだ・・・かっこ悪いとこ見せちゃった。
恥ずかしすぎて顔から火が出そうだ・・・。
嫌われたりしないよね・・・。
だが、祐は私の気持ちを読んだように言った。
「心配すんな。そんなことで嫌いになったりしねーよ」
「うん」
「危ねーから、手ェつなごうぜ?」
「う、うん!」
祐の温かい手が私の冷たくなった手を包んでいく・・・。
「冷てーな。もしかして、俺を待ってたからか?早く帰ればよかったのに・・・」
「いやだよ!祐と一緒に帰りたいんだもん!!」
「・・・そうか」
祐はふっと笑って、私を抱きしめた。
「祐!?」
「あっためてやるよ」
ぬくい・・・。
祐の愛情が痛いほど伝わってくる・・・。
私はギュッと抱き返した。
ふと、人の気配を感じて振り向いた。
祐もそれにつられるように私の見たほうを見る。
途端、私は腹を殴られそのまま闇の世界へと引きずり込まれていったーーーー。
私は気がつくと、何かの部屋にいた。
いや、部屋ではない。
倉庫だ。
跳び箱やマット平均台などが置かれている。
たぶん、体育倉庫だろう。
私一人なのかな・・・?急に不安と恐怖が襲った。
「気がついたか」
私は声の聞こえたところを見た。
「祐?!」
私は一人じゃないと知って、胸をなでおろした。
「どうやら、閉じ込められたようだな・・・。戸に鍵が掛けてあった。」
心なしか、祐の手が震えている気がした。
「寒い・・・」
すると、祐が学ランを脱ぎ始めた。中には白いいシャツが着てあった
「?!!」
驚いてみている私に祐は脱いだ学ランを私に差し出した。
「着ろ」
「ダメだよ。祐が風邪ひいちゃうよ!」
「大丈夫だ。男は女より丈夫にできてんだよ。心配すんな」
「うん・・・」
私はおとなしく学ランを羽織った。
祐のぬくもりに包まれる・・・。
「あたたかい・・・ありがと」
「どういたしまして」
ふと祐の手を見る。
間違いない!
震えてる!
寒いんだ!私が学ラン着たから。
「やっぱ、いい!!」
学ランを脱いで祐に返す。
「着ろっていったろ?!」
「でもっ!祐は日曜日に試合がっ!!」
「いいんだよ」
「・・・」
「俺には試合に出れねーより、お前が風邪をひく方がいやだ」
「うん・・」
私は学ランを羽織りなおした。
そっと、祐に寄り添う。
「祐・・・」
「ん?」
「好きだよ・・・?」
「あぁ・・・俺もだ」
祐の顔が私の顔に寄ってくる。
息がかかるほど、近づいて唇を重ねた・・・。
「宮部・・・?」
祐が気づいた時には、私は寝ていた・・・。
私は、小鳥のさえずりで起きた。
隣を見ると、まだ祐が気持ちよさそうに寝ていた。
「祐・・・」
祐を起こす。
「んあ・・・?」
「朝だよ」
「あぁ・・・」
祐が、あくびして眠そうに眼をこすった。
すると、私の腹がぐぅっと低い音で鳴った。
慌てて、腹を押さえる私。
「腹減ったな」
祐がつぶやく。「うん・・・」
私がうなずいてこう続けた。
「私たちこのままなのかな?」
不安と恐怖が渦巻く。
「いや、それはないだろう」
祐が否定する。
「なんでそう言い切れるの?」
私は疑問に思い、尋ねた。
「だって、今日バスケ部の奴らが練習しにくるだろ。どーせ」
すると、私はへなっと跳び箱にもたれかかり、ふぅっと安堵の息を漏らした。
「よかったぁ・・・」
「俺的には、ここにずっといてもいいぜ?」
「なんで?」
「お前と一緒にいたいから・・・」
「私も・・・」
私は聞こえるか聞こえないかわからないほどの小さい声で言った。
祐にもたれかかる。
「幸せ・・・。もう、死んでもいいかも・・・」
私はつぶやくように言った。
「おいおい、俺は困るし。もっと宮部と一緒にいたい」
祐が私の手をぎゅっと握る。私も返事をするかのように握り返した。すると外から話し声が聞こえた。
バスケ部の人たちだっ!
祐がすくっと立ち上がって、扉の前に行った。そして、祐はいきなりばんばんと扉を壊れるんじゃないかと思うくらい強くたたいた。
「助けてくれっ!!閉じ込められたんだっ!!」
その時の祐の背中はとても大きく感じた。
結局、私たちはバスケ部の部員と顧問に助けられ無事救出された。
鍵は職員室の鍵かけにかけられてあったらしい。
その一週間後やっと犯人が見つかった。
なんと、犯人が祐に白状したらしい。
今日、放課後に祐が犯人に会わせてくれるらしいが・・・。「祐っ!!」
私は祐の姿が見えたので呼んだ。
「おぅ、真紀子」
祐は私のことを真紀子と呼ぶようになった。
隣には誰か体の大きい人がいる。
「犯人は俺の友達だった」
「え?!!どういうこと?!」
私は祐の行った言葉がよくわからず聞き返した。
「コイツが俺らを閉じ込めたんだ」「この人が・・・」
その人はとても優しそうで私たちを閉じ込めるなんてしなさそうなのに・・・。
「すまん!宮部さん!!俺・・・二人にはうまくいって欲しかったんだ」
その人は頭を下げて大きな声で言った。
「いいよ」
私の意外な返事にその人は「へ?!」
と、素っ頓狂な声を上げた。
「だって、祐の私に対する愛情もわかったし・・・」
「それに、真紀子が寝るときにいびきかくのもわかったしな」
「え?!!嘘!嫌いになった・・・?」
私が恐る恐る訊くと、祐は顔をくしゃっとして言った。
「んなわけねぇよ。かれかの・・・なんだろ?」
「うん!」
「お熱いですね〜お二人さん」
冷やかす祐の友達。
私たちは笑いの渦に巻き込まれた。