烈空
オリスカニーから飛び立ったマケインだが・・・
元からですが、今回はもろに創作の世界となりました。
※近いうちに、ACE COMBAT 04のファンフィクション物語を書こうかと考えています。
今回、この話で空の戦闘描写を描いてみましたが、それはエース達の世界には通用するのでしょうか(笑)
「こちらグレーウルフ、ピクチャーは現在のところクリーン。」
『了解グレーウルフ、そのまま進入せよ。 先程ハノイ近辺では再び地上戦が展開された。
友軍が敵を引きつけている間に速やかに火力発電所一帯を急襲、敵の継戦能力奪え。』
熱帯地方特有の高く積み上がった積乱雲を避けるように、空母オリスカニーから飛び立ったマケイン達は
一路ハノイの火力発電所へ向けて飛行を続けていた。
機体はフォレスタルの時と同じA−4スカイホークが全部で5機。
それぞれの下部に航続距離増長のための増槽(燃料タンク)が取り付けられており、機動性を多少犠牲にしたが
深い敵地にまで攻撃を仕掛ける事が可能だった。
侵攻の様子は、平面化されたレーダースクリーンを監視する管制官、そして艦魂オーリスも知ることができた。
(敵が出てこないか・・・これが、嵐の前の静けさでなければいいが。)
既にマケイン達は、アメリカ軍が加勢する南ベトナム軍とベトコンと呼ばれる南ベトナム解放戦線とが衝突する最前線、
フロントラインを通過しようとしていた。
入道雲の頂を掠らない程度に高度を落としながら、攻撃に向けて侵入路を確保していく。
その時だった・・・
『ザザッ・・・ザッ・・・・て・・・けん!・・・を・・・・せいする!」
マケイン達の機体の無線が混線し、何やら怒号や銃声等が聞こえてきたのだ。
『・・・アルファーへ・・・らチャーリー、前進します。 敵まで100メートル・・・』
『アルファー了解。 地の利は向こうにある、決して油断するな・・・確実に仕留めろ。』
『こちらベータ、チャーリーを支援する。 狙撃兵集まれ!』
おそらく真下の地上で展開されている戦闘の無線に違いない。
マケイン達の下にでかでかと居座る入道雲によるスコールなのだろう。
無線からは彼らの声に交じって豪雨が地面に落ちる音が響いて聞こえてくる。
『泥水か・・・M16を頭の上に持て・・・砂が入って動かなくなるぞ。』
隊長らしき野太い声が聞こえ、次いでイエッサーとまだまだ元気な部隊員達の返答が返ってくる。
ベトナム戦争でのアメリカの失敗―――もちろん敵のゲリラによる不特定の対象からの攻撃というものもある。
だが大きな原因の一つに、アメリカが未だに名銃と言い張っているアサルトライフルM16の大きな欠陥にあった。
M16は、このとき東側諸国のライバル銃AK−47よりも小型の5.56ミリ弾を用いる。
利点としては反動が少ないため、慣れればフルオート発射時でもある程度の制御が可能だ。
一方のAK−47はそれよりも太い7.39ミリ弾を用いており、M16よりも破壊力に優れていた。
しかし当たらない事には意味がないと確信したアメリカは、命中力で遥かに優れるM16の優位を信じて疑わなかった。
その神話が崩れたのが、このベトナム戦争だったのだ。
高温の日照りによる金属の変形、豪雨によって起きた砂混じりの濁流が発生し、その中で行軍する羽目になった米軍兵士達の相棒。
だが、それだけで高い命中率の為に精密に作られた機関部は壊れ、弾は詰まり、更には内部で爆発するという事も起きた。
それが、AK−47の設計者―――ミハイル・カラシニコフに軍配が上がった瞬間だった。
寒冷地や砂漠、ありとあらゆる場所での使用を考慮していたカラシニコフは、
AK−47の部品同士にわざと余裕を持たせて設計していた。
おかげで、多少乱暴に扱っても確実に作動し、たとえ泥水に浸かっても、さらには砂を機関部分に吹きつけても、
水洗いすればすぐに使えるようになるのだ。
これは戦地を熟知していたガンスミスであったからこそ、出来た逸品であろう。
ベトナムのような環境で戦う事を考慮されていなかったM16は、当たらない以前に撃てなくなり、兵士達の中には
戦闘が出来なくなったまま降伏、あるいは殺された兵士さえもいた。
そんな彼らの行軍を見守る位置に、マケイン達はいる。
前方には、果てしなく広がる青い空に白い雲―――
絵にかいたような平和の偶像があるのに、下は怨嗟蠢く地獄。
そのコントラストが、異様に虚しかった。
それからすぐに、無線は再び砂嵐のように雑音が混じり始めやがて聞こえなくなった。
「全機―――今のを聞いたか?」
「―――イエス、キャプテン・・・。」
返答が数秒ほど遅れたが、マケインは別に部下に対して何も言わなかった。
空からでは分からない、命を奪いあう現場の声を聞いたのだ。
「今回の作戦―――彼らの為にもなる。 そう信じようじゃないか。 全機、あらたなウェイポイント、3-0-0。」
「ラジャー、針路3-0-0。」
降下しながら大きく左にバンクした編隊、その進行方向に次第に街が見え始める。
「見えたぞ、あれが・・・ハノイだ。」
緑に覆われた土地だが、その中に白やグレーといった色の壁で造られた建物が見える。
アメリカ程では無いが、あれでも充分街と言えるものだ。
(火力発電所をピンポイントで狙わなければ、街に被害が及ぶかもしれない―――)
操縦桿を握るマケインの手に緊張が走る。
その時、オリスカニーから緊急を告げる無線を受信した。
『グレーウルフ、そちらに不明機が7機接近中―――』
「何だと!? 方向は!?」
マケインにもそして部下たちにも動揺が走る。
『6時方向! 150マイル―――おそらくフィッシュベッド、敵だ!』
くそっ話が違う、敵は航空機を出してこないと言う話じゃなかったのか!!? しかも、後ろに回り込まれている。
例え任務を達成しても、オリスカニーに戻るには7機の敵をどうにかしないといけない。
毒づくマケインだが、来てしまったものは仕方ない。
目的地までの距離を示した計器を見ると、まだ5分以上は進まなければいけなかった。
『隊長、どうしますか!?』
「まだ大丈夫だ、このまま進むぞ。」
『しかしっ―――増槽を捨てなければ、機動はフィッシュベッドに敵いません!』
「うろたえるなっ! まだその時じゃない―――良いか、俺が合図するまで増槽を捨てるな、そして希望を捨てるな!』
マケインの叱咤で、どうにか落着きを取り戻した部下たち。
だが、敵はミグ21フィッシュベッド―――2機を上回る数以外にも、アフターバーナーが使える分敵の方が有利だった。
燃費を犠牲にしつつも、猛スピードで迫るそれはまさに獲物を狩るために猛ダッシュをするチーターのようである。
200キロほどに敵が接近した時、これまで見てきたハノイの街並みとはおおよそ相いれない大きな箱とも言えるような建物。
天高く鉄格子で組まれた煙突からは、蒸気がもうもうと上がっている。
―――破壊対象の火力発電所に辿り着いたのだ!
マケインは意を決した。
「マスターアーム点火、ありったけの爆弾を叩きこめ!」
『ラジャー! 目標を攻撃します!!』
5機のスカイホークがさながら空から急降下する鷲の如く、目にした子羊へと襲い来る。
『投下! 投下!』
味方が爆弾を投下し始めた。
紅蓮の火球や閃光が巻き起こり、次々に発電所の外壁を障子紙を破るように破壊して行く。
マケインも操縦桿を傾け、発電所中央に爆弾を投下する。
あちこちから爆発や黒煙が上がり、あと一歩まで追い詰めた時だった。
その時、部隊員の一人が何かに気付いた。
『隊長! 下を!!』
その声につられて下を見るマケイン。
通常、物資輸送のトラックなどがある筈の車両用のガレージ。
しかし、そこから出てきたのは―――
『対空車両!!』
報告では全て破壊済みだった筈の対空砲搭載の装甲車、だが実際は眼下で今にもこちらに撃って来そうな構えだ。
更には補給車らしき車両―――だが、近づいてまたもやマケインの機体は裏切られることになる。
「牽引式SAM(地対空ミサイル)か―――!」
その時、聞きなれない破裂音が断続的に聞こえた。
発電所に攻撃を仕掛ける味方に、対空機銃車両が銃弾を嵐のように放っていた。
必死にロールを駆使して逃げる部下達。
―――させるか!!
部下たちに注意が向いてがら空きだった背後から、マケイン機が対空車両目掛け爆弾を投下した。
そのまま急上昇、後ろでは一瞬だけ閃光が巻き起こった。
そして反転する形でループした機体は、先ほどのSAMの方向へと向けられる。
既にこちらを向いているS−75、そのミサイルの先端がキラリと光るのを見て、一瞬マケインにも戦慄が走る。
(部下をやらせる訳にはいかん!)
だが、覚悟を決めたマケイン―――操縦桿を下に傾け、スロットルを限界まで押し込んだ!
ダウンGがかかり、体が浮きそうになるのをシートベルトが抑えつけてくれる。
だが、計器からは敵にロックオンされた事を告げる警告音が鳴り響く。
『グレーウルフ、レーダー照射だ! ミサイルが飛んでくるぞ!!』
オリスカニーの管制官が必死に叫ぶ―――
「俺は死ぬ訳にはいかん―――俺の帰りを待ってる人も、そして艦もいるんだっ!!」
マケインが叫んでトリガーを引くのと、ミサイル発射を警告するアラートが鳴り響くのはほぼ同時だった。
彼は今度は反射的に操縦桿を引いた―――
ズゴオォォォンン・・・!!
爆発音がする―――
ゆっくりと目を開けると、まだ機体は飛んでいる―――
それも、異常を示す警告は無しのまま―――
―――勝った!
マケイン機が放った爆弾がSAM車両に命中した瞬間、ミサイル誘導装置イルミネーターも同時に破壊していた。
誘導能力を失った対空ミサイルはそのまま空へ向かって迷走し、やがて爆発した。
だが、勝利した喜びから現実に戻されるのにそこまで時間は掛からなかった。
「敵フィッシュベッド、急速に距離を詰めます! 接敵まであと2分!」
火力発電所をズタズタに破壊された怒りからか、敵の飛んでくるスピードが先ほどより速い!
『隊長、こちらにはAAM(空対空ミサイル)がありません。 まともにやっても、勝ち目は―――』
『いえ、機銃があります―――せめて一矢報いてからでも!』
「方位0-9-0に針路を取れ。 この空域から離脱しろ!」
まだ増槽には幾分か燃料が残っている。
多少迂回してもオリスカニーには戻れるという算段だ。
しかし、それには重大な問題が残っている。
『ですが、隊長―――敵機に追いつかれます!』
「安心しろ。 航続距離の問題で、奴らはもうそうは長くは飛べない筈だ。 おそらく、この近くに滑走路がある筈だ。
この空域で足止めさせれば、海を越えておってくる事は出来ないだろう。」
『ですが、どうすれば敵の足止めを―――? ・・・まさか!?』
部下がマケインの考えを察したのか、驚いて思わず声を上げた。
「まったく、勘の良い部下はこれだからあまり好きじゃないな。」
『無茶です、一人で相手に出来る数じゃありません! 隊長、我々も共に―――!!』
「ダメだっ!! 今すぐ針路を0-9-0に変更しろ!」
『しかしっ―――!!』
部下がなおも食い下がろうとするが、敢えてマケインは気持ちを落ち着かせる。
「俺はオリスカニーの前に配属されていた艦は―――あのフォレスタルだった。」
『フォレスタル―――たしか、数か月前に―――』
「その事故で―――俺は部下を3名失った。 それからちょっと変わった奴だったが、価値観が似ている大切な奴がいた。
俺はそいつが血まみれになって傷つくのを見た―――俺にこれ以上、仲間を失わせないでくれ!」
言いたい事は全て言ったような気分だ―――
マスクの中で、部下たちが悩み―――中には嗚咽を漏らしている者までいた。
「―――オリスカニー聞こえるか?」
『こちらオリスカニー、聞こえている。』
「部下たちを逃がすため、これからちょっと無茶をするが―――俺がどうなっても部下たちは敵前逃亡じゃない。
部下たちを、オリスカニーまで帰還させてやってくれ。」
しばしの沈黙、表情が表に出ない堅物の管制官なのかもしれないが、悩んでいるのは声だけで分かる。
そして、返答が返ってきた。
『―――了解した。 だがグレーウルフ、お前も必ず帰還しろ! それ以外は許さん、良いな?』
この管制官、なかなか嬉しい事を言ってくれる。
操縦桿を握りしめ、こちらへ敬礼を送る部下たちにマケインも敬礼を送り返す。
心の準備も整い、編隊からブレークした時だった―――
『―――き、貴様ッ何勝手な事を言っているッ!!?』
聞こえる筈の無い声が聞こえたのに、マケインは驚きを隠せなかった。
「お前は、オーリスか!?」
『そうだ! お前を必ず生きて再び会わせると、フォレスタルと約束したオーリスだ!』
「馬鹿言うな、死ぬつもりは無い。 ただ少し、挑戦するだけだ!」
『仕方ない奴め―――頼むから死ぬなよッ!!』
あんな奴でも、こんな悲痛さを込めた事が言えるのかと思いながらも、マケインは武装を爆弾から機関砲にスイッチした。
右ロールした機体は、真正面に敵編隊を迎える形に機首を向けた。
味方はすでに見えないくらいまで遠ざかり、代わって前方からは黒い点が7つ、こちらに来る!
けたたましい警告音がコックピットに鳴り響く―――7機から一斉にロックオンされたのだ!
その時一段と警告音が大きくなり、そしてレーダー照射の警告音はミサイルアラートに変わった。
遠くの敵機の翼下から一斉に白煙が伸びてくる。
それを確認したマケイン、ラダーを蹴り飛ばすように踏み込み、操縦桿を横に倒すと機体はバレルロール!
ジェットコースターなんかの比じゃないくらいの体を押しつぶすようなGがかかり、マケインがその苦しさに呻く。
その時、突如としてミサイルアラートが止み、レーダー照射の警告音もなくなった。
敵機とすれ違ったのだ―――敵は反転し、再びこちらを狙う構えを見せる。
エアブレーキをオンにし、マケインは機体を減速させつつループさせる。
目の前に光る筋のような物が多数通り過ぎて行った。
敵機が機銃を放ってきた、おそらく今のはその曳光弾だ。
しかしループによりまたもや大きなGがかかり、耐Gスーツの限界を超えたGのせいで目の前が暗くなり始める。
ブラックアウト―――血液が重力により脳に行きとどかなくなる現象だ。
最悪の場合意識を失い、そのまま地面に墜落すると言う事も有り得る。
(まだだっ―――敵の後ろを取るにはあと3秒は持ちこたえてくれッ!!)
マケインが自身の体に言い聞かせたその時、あの声が血液に代わって脳にまで届いて来た。
『今だ、撃てえッ!!』
反射的にマケインがトリガーを引くと、機体の前方で火花が散り僅かに振動する。
一瞬何が起こったのか分からなかったが、後方を見て彼はギョッとした。
敵の一機が、黒煙を上げながら炎上し、地上へと落下して行く。
「オーリス、お前―――こんな事が!?」
『私の力を使えばな―――少しの時間だが、レーダーを立体的に把握する事が出来る。
今のように、攻撃のタイミングを教える事もな。』
だが感心している場合では無かった。
次の瞬間、本日三度目のレーダー照射の警告音が鳴り響く。
ロールするマケイン機の後方に、ミグがピッタリとくっついている。
振りきれないか―――!
不吉な考えが頭をよぎった瞬間、それに呼応するかのように敵機がミサイルを発射した。
「Damn it!!」
叫びながら機体を加速させつつロールした機体は真っ逆さまの背面飛行。
そしてそのままパワーダイブした機体、地上の景色の流れがどんどん速くなっていく。
『フレアを投下、減速しろ!』
真後ろにミサイルが迫った時、マケインはオーリスの指示通りフレアを投下、同時にエアブレーキを再びオン!
この瞬間、敵機はアフターバーナーを全開にして距離を詰めていた事を後悔したのだろう。
すぐさま敵機もエアブレーキを展開し推力を落とすが、もう遅かった。
敵機の上をローリングしながらその後方にピタリとくっつき、そのまま機関砲をお見舞いする。
穴のあいた主翼が燃え盛りながら脱落し、きりもみ状態のまま敵機は落下、次の瞬間火の玉が膨れ上がり機体は四散した。
その様子が、脳内で何度もフラッシュバックする。
次にああなるのは、自分かもしれないと―――
そう思ったのが命取りだった。
『馬鹿ッ! 上だ、上にいるッ!!』
オーリスが叫んだ瞬間、見上げた先にいた敵機、その機銃の銃口が一瞬光った。
ガガガガガガッ!!
目の前でキャノピーのガラスに穴があき、機体が異様な振動を起こした。
やられた―――直感的にそう悟った。
10秒は意識が飛んでいたかもしれない―――正気に戻ったマケインだが、すぐに機体の異常に気付いた。
機体の後ろからは黒煙が噴き出ており、もう一度確認しようと体をひねったところ、左肩がズキリと痛んだ。
彼の機体だけでなく、マケイン自身も被弾していた。
異様な振動を起こす機体、持ち直せない!
敵機はマケインの機体にもう抵抗力が無いと思ったのか、それとも燃料が危うくなってきたのか、針路を変えて
どこかに飛び去っていった。
少なくとも、あの方向は部下たちの方向では無いと知ると、彼は少し安心した。
『馬鹿がッ―――!』
無線でオーリスの声が聞こえる。
だが、その言葉は人を叱責しようとする物でも、罵ろうとするものでもなかった。
『貴様は、約束した事を覚えているな!?』
「ああ。」
『なのにッ・・・なんなんだその醜態は! 生きて帰ると言っていた、アレは嘘だったのか!!?』
オーリスが涙ぐんでいるのが、無線越しでもはっきりと分かる。
『―――空母にとっては艦が傷つくことも、送り出した艦載機が帰ってこないのも辛いんだ!!』
「―――すまない。」
『謝るな!謝らないでくれッ! 私がもう少し、偵察機部隊を増派していれば―――こんな事にッッ!』
その時、コックピットでミサイルアラートが鳴り響いた。
先程の討ち漏らしだろうか、地上の林の中から白煙が伸びてくる。
『やめろ、やめてくれっ!! 逃げるんだ、マケインッ!!』
しかし、マケインの機体にはそれを避けるだけの余力は残っていなかった。
だが不思議と、マケインには恐怖心が浮かばなかった―――大切な人が待っている、そう思えばこそだ。
オーリスの悲痛な叫びも虚しく、S−75はマケインのスカイホークに命中。
衝撃波が彼の機体の右主翼を吹き飛ばし、彼の機体は炎上した。
そのままローリングしながら機体は急降下、最早飛ぶ事は出来なかった。
オーリスだけでなく、誰もがマケインの機体は爆発して四散したと思ったに違いない。
「―――ハハハハッッ、コックピットの電気系統は無事か、運が良いな俺は。」
『マケイン―――!!』
「なあ、アイツに伝えてくれ―――何年かかるか分からんが、必ず生きて帰ってくるから、それまで沈むなってな。」
『―――ッ、わかった。 だが、お前は・・・』
「それじゃ―――またな。」
『マケイン、待てッ!!!』
ブツリッ―――
無線を切った音が響いた直後、マケインの機体を現していた光点がレーダーから消えた。
「グレーウルフ、マケイン少佐機―――レーダーからロスト。」
愕然となる管制官達―――オーリスは、ガクリと膝をついて悲しんだ。
あの時のマケイン機の速度は500キロ以上、射出座席で運良く脱出できたとしても降り立った所は敵地のど真ん中。
無事でいられる保証はどこにもなく、むしろ亡き者になる可能性の方が大きい。
墜落して行くマケインに、何も出来なかったことが悔しかった。
ただ叫ぶしかできなかった自分に、とてつもなく腹が立った。
オーリスは米海軍最強の剣士とは思えないほど、ただその場で泣いていた。
こんなに泣いたのは、あの事故以来かもしれない。
自分と同じ境遇の艦魂、その彼女が思いを寄せる大切な人を守れなかった自分が、許せなかった。
「マッキーが・・・」
「すまない、フォレスタル。 私の力不足で―――こんな事に。」
オーリスは怒られるとは思っていなかった。
ただ、話さなければならなかった事だが、それを聞いてフォルが悲痛さを浮かべたり、泣きだしたりすることは
それ以上に辛い―――オーリスは覚悟した。
「オーリスさん・・・私、信じてますよ。」
「なに・・・?」
驚いた事に、フォルは微笑んでいる。
「だって、オーリスさんが教えてくれたじゃないですか。 “人を信じろ”って。
だから私は、マッキーが必ず生きて帰ってくるって信じて待ってます。 米海軍の空母として
―――彼のことが好きな一人の女の子として、ずっと待ってますから。」
それを言いきったフォルの両肩を、オーリスががっちりと掴んだ。
そして、そのままオーリスは彼女を抱きしめた。
「―――ありがとう、フォレスタル。 あの時、ティコが考えていた事が良く分かった。
やはり、慰められていたのはお前だけでは無かったようだ。 そしてお前が、合衆国を背負える、
“彼女”の生まれ変わりだと言う事も・・・」
「彼女・・・?」
初耳だったその言葉に、フォルが眉をひそめて聞き返した。
「―――フォレスタル、お前が生まれる3年前の事だ。 一隻の空母が起工して間もなく、建艦中止となり解体された。
理由は、空軍の大規模な反対だった。 お前の名前の由来にもなった当時の国防長官、ジェームズ・フォレスタルが
その心労により職を辞した程だ。 噂だが、故フォレスタル元国防長官は艦魂が見えたと言う話だ。
その後、心労が積み重なりノイローゼとなり自殺されたと聞くが、もしかしたら彼には生まれるはずだった
その空母の艦魂が見えていたのかもしれない。 名前は確か、アメリカ合衆国を意味する言葉“ユナイテッド・ステーツ”」
一連の説明を聞いていたフォル、すると彼女には思い当たる節があった。
(あの夢―――彼女はまさか!)
「あの、その人ってどんな姿でした!?」
「それは分からない―――ただ、彼女が生まれなかった事を悔やんだ国防長官、そしてその名前がついたお前。
もしかしたら、それは何かの縁かもしれないな。」
そう言ってオーリスが立ち上がる。
「あら、せっかく来たのに―――ゆっくりして行けば?」
「あのマッシーさん。 今は戦時中ですから・・・よりにもよってティコと同じような事を・・・」
オーリスが呆れ混じれに言うと、マッシーが苦笑いを浮かべた。
「あー、ごめんね。 ここにいると、全然実感が湧かないのよ。 やっぱり、私は砲弾が飛び交う海で無いと
戦地なんて思えないのね、きっと。」
「それでは失礼します。 ―――フォレスタル、お前がそう言うならば私も信じてみようと思う。」
そう言うと、オーリスはマッシーとフォルの二人に礼をして転移して行った。
「人を信じるか―――やっぱり昔と変わんないね。」
その言葉を聞いてフォルがマッシーの方を向き直る。
「昔―――と言っても太平洋戦争中なんだけど、その艦にのる全ての人を信じて、僅かな希望を最後まで捨てずに
米軍が上陸した沖縄へ、特攻を仕掛けた日本の戦艦があったわ。」
「確か―――バトルシップ、ヤマト。」
「うん、そうよ。」
それを聞いてマッシーが頷いた。
「私たちは、その時彼女を迎え撃とうとしたんだけど・・・結局は空母達が沈めちゃったの。
空母の子たちや、乗組員の中にだって『あんなのは正気の沙汰じゃない。』とか
『ジャップは狂っている。』とか言ってた人もいたけど―――私はそうは思えないの。
フォリー、あなたを見てるとね、今でもそう思えてくるわ。」
「私、ですか・・・?」
「―――後で知ったんだけど、“ヤマト”って言うのは昔の日本の言葉で日本の国を現す言葉だったらしいわ。
そしてアメリカでは、国の護りを司る重要な役職についた人の名前を付けられた艦が存在する。
―――フォレスタル、っていう立派な艦がね。」
「―――マッシーさん、なんだか恥ずかしいですよ・・・」
フォルが少し顔を赤くしながら俯いて答える。
「大丈夫、貴女ならこの国を支える事が出来る。 オーリスも言ってたでしょ?」
「ありがとうございます、マッシーさん。 私、合衆国の期待に添えるように、これからも頑張ります!」
「うん、良い返事ね。」
マッシーは、にこやかに笑ってフォルを軽く撫でた。
先程まで戦艦マサチューセッツにいた旅行者は、今はもういない。
あるのは、未来へとまた大きく成長しようとしているフォルと、
彼女を砲身よりもしっかりと支える、優しき戦乙女二人の後姿だった。
最後の終わり方がいきなりな気がしますが、どうしても気になったら加筆修正するんで悪しからず。
とにかく、今日はもう腕や指が限界です。
小説は半日で書く物じゃない、そう実感しました。
でも、実は17日には是非とも次話をアップしたい、いやアップしなければならんとです!
実は、5月17日は今まで出てきた艦魂の誰かの命日なんです。 知りたいと思ったあなた、少しだけ我慢して―――そしてハンカチのご用意を。
でもそこまで出来る自信が(ぇ
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