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7/10

先達

元々は一話だったんですが、あまりにも長かったんで切りました。 それにしても1000HIT企画、下手したら2000HIT企画になってしまうかも(ぉ

白い空間が広がっている―――


そこには二つの人影が―――


「ここは・・・?」


辺りを見回したフォル。


その時、目の前にいた人物を見て、フォルは思わず驚いて軽く悲鳴を上げそうになった。


「うそっ・・・私、なの!?」


「私も、ちょっとビックリしちゃったかな・・・。 私も、一応は艦魂よ。」


向かい合った少女は微笑むと驚くフォルに対して囁くように言った。


そう言う謎の人物、その顔はフォルとほとんど変わらない。


妹たちでさえ、その彼女を見れば間違いなく自分と言うだろうと思えるくらいソックリだ。


唯一の違いは、髪の毛の色がフォルは銀、一方の彼女はブラウンであることくらいだろうか。


「今、大変かもしれないけれど・・・それでもあなたが、これからの合衆国を背負っていくの。

 だから、これだけを、言いに来たの。 “私の代わりに生まれてくれてありがとう、これからも合衆国を頼んだわよ”」


「ちょっと待って、あなたって誰なの?」


すると、クスリと優しく笑う少女。


まるで自分を見ているようで、奇妙な感覚にさいなまれるフォル。


「別に、名乗る程の者じゃないわ。 私は、生まれる事が出来なかったからね。 ただ、貴女の名前も、そして私の名前も

 このアメリカ合衆国を未来まで沈まないように背負う為に付けられたから、偶然かそれとも必然なのか―――とにかく

 こうして話が出来たから、良かったわ。」


そう言うと、ほんの僅かな時間の会話を終えるかのように彼女が遠ざかっていく。


真白な空間なので、相手が遠ざかっているのか自分が遠ざかっているのかはわからないが、フォルから見れば自分から

自分とそっくりの彼女が遠ざかっていくように見えていた。


「待って! あなたは、一体・・・!!」


手を伸ばした先には・・・見なれた自室の天井があった。


「・・・あれ?」


辺りを見回して、ついで聞こえたのは修理のための工具が朝早くから音を鳴らしていることくらいだった。


あのトンキン湾での痛ましい事故から、早くも三か月が経とうとしていた。


その間、いち早く戦線に復帰を願う国民や艦魂達の期待どおりにフォレスタルの艦体は、

事故の影すら無い程までに修理が施されていた。


おかげで、フォル自身ももう傷跡は無く痛みもない。


最近では自身が炎で焼かれたりと言う悪夢は見なくなった。


だが、今朝見たのは悪夢とは言わないがこれはまた不思議な夢であった。


何とも言えない表情のまま、ようやくフォルは口を開いて呟いた。


「ヘンな、夢・・・」


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・


高いビルや白く細長い鉄骨で造られた長い橋が、何より辺りを訪れる人々の笑い声や不自由ないようなその表情が、

この国が技術でも裕福さでも世界で最先端を行く国だと言うのを、嫌でも教えてくれる。


理由はともあれ、またこの地に帰ってくる事が出来た。


複雑な気持ちのフォルだが、上からはしばらく休養するようにとのお達しが来ている。


ノーフォークに居る間、フォルはインディを連れて良く来た場所がある。


1967年10月27日・・・



「と言う夢を見たんですが・・・」


フォルは朝見た夢が気になって、修理中の暇もあってある場所を訪れていた。


話しかけた先に居るのは、ひらひらとした水色のスカートにウェーブがかかった金髪に白い帽子をかぶった少女。


だがその少女がいるのは、そういった女の子が和むとはあまり思えない40.6cm砲三連装の巨砲を持つ主砲塔の上。


第二次大戦の激しい戦いを生き抜き、今はこうして記念艦として人々に母国の雄姿を伝える、サウスダコタ級戦艦の三番艦《戦艦マサチューセッツ》。


彼女は戦艦マサチューセッツの艦魂、マッシーだった。


しばらく経った後、今までプレッツェルを口にしていたその少女は手を止めるとようやく口を開いた。


「・・・知らないわ。 あなたと同じ顔の艦魂なんて私はフォリー、あなたしか知らないわ。」


「そうですか、マッシーさん。 ごめんなさい、どうしても気になったんで。」


典型的なアメリカ人形のような金髪にブルーの瞳、マッシーが言い終わるとフォルに向かって彼女は手招きした。


「あなたもプレッツェルでもどう? こっちへいらっしゃい。」


マッシーが手招きすると、すぐに帽子をかぶり直す。


これはマッシーの癖でもあったが、フォルはそれを見るとなんだか嬉しい気分にもなった。


フォルは自分が生まれて間もない頃にも同じように今と変わらず接するマッシーに、人で言う母のような温かさを感じていたからだ。


「あ、はい。 頂きます・・・。」


主砲塔に上ると、また別の角度でノーフォークの街並みを見る事が出来る。


向こうからは、博物館となったマサチューセッツを見学しようと観光客の団体が近づいて来ている。


特に気にも留めずにフォルはマッシーの横に座ると、差し出されたプレッツェルを一個口に放り込んだ。


「不思議でしょ?」


「?」


おもむろにマッシーが言いかけると、フォルは首を傾げる。


「あっちでは、私たちの国の兵士と共産主義を信望する北ベトナムの兵士が、血で血を洗う戦争を繰り広げてるのに、ここまで離れれば全然わかんないでしょ?

 私もそうだったわ。 砲弾が飛び交う海で5年を過ごしたのに、ここに来れば自分が戦っていたと言うのを忘れてしまいそうだったわ。」


「そう、ですね。 ベトナムの空気が、海が・・・よく思い出せないです。」


「それで良いのよ、戦場の感覚なんて・・・忘れてしまった方が良いの。 覚えておくべきは、戦争で学んだ教訓くらいよ。」


マッシーが言い終わるのと同時に、後方の三番砲塔付近から拡声器で喋るガイドの声が聞こえる。


ガイドは手始めに、マサチューセッツの戦歴や全長等のスペックなどを30人くらいの観光客に説明していた。


その時、マッシーの表情が何かに気付いたように険しいものとなり、少女とは思えない目つきで何かを探る。


「・・・あの、どうしたんですか?」


すると、何も無かったかのようにマッシーが再び艦前方を向き直りフォルに一言。


「別に・・・ただ、お客さんが来たみたいなの。」


「お客さん・・・普通に来てますけど。」


フォルがてっきり艦尾付近の団体だろうと思い込んでいると、マッシーがクスリと笑って首を振る。


「違うのよ、フォリー。 お客さんはお客さんでもね・・・」


マッシーが言い掛けた瞬間だった・・・


ガキイィィイインンッッ!!


目の前で起こった一瞬の出来事に、フォルは思わず主砲塔から落ちそうになった。


日光で煌めくサーベルの刃が、マッシーの後頭部近くで止まっていた―――いや、止められていたのだ。


後ろに回したマッシーの左手にはアメリカの西部開拓時代を支えた歴史の残る名拳銃、シングルアクションアーミー、

アーティラリーモデルが握られており、その銃身で鋭い刃の一薙ぎを見事に防いでいた。


「あら、少し強くなったんじゃない?」


マッシーが少しばかり挑戦的と言うか、優越さをアピールするような声で話しかけた。


「はい、少しは成長していないと・・・年月を経た意味がありませんから。」


その声に、フォルは聞き覚えがあった。


「オ、オーリスさん・・・っていうか、二人とも何をやってるんですか!!?」


フォルが驚くのも仕方ない。 


誰だって、目の前で親しく話していた人の後ろからいきなりサーベルを持った人が襲いかかってきたらそれは驚くだろう。


しかし、二人ともフォルの言っている事に耳を貸す気配は無い。


その時、二人の内でマッシーが先に口を開いた。


「でもね、オーリス・・・ハッ!!」


グイッ・・・!!


「っ・・・!!?」


マッシーが突如体を捻るように動き、オーリスが一歩下がった瞬間その虚を突いてマッシーの左手がオーリスの左肩を掴んだ。


マッシーの白い左足とオーリスのズボンで覆われた両足とが交差する。 そして、体勢を崩されたオーリスは床に叩きつけらる!


それらは、フォルから見ればほんの一瞬の出来事―――何をしたのかさえ良く分からなかった。


ドサッッ・・・!!


「かはッ・・・!!?」


ガチリッ・・・


勝利を告げる音が、マッシーが右手に持つ拳銃から聞こえた。


相手を制圧した状態で、オーリスに向けられた銃口、そして撃鉄(ハンマー)が起きている。


この間、約1秒ほどのアクション。


「・・・まだまだ、強くなれそうね。」


そう言うと先程の狩人のような目つきから、ニコッと笑いマッシーは拳銃をクルクルと回した後、スカートの中のレッグホルスターへとストンと入れた。


そんな所に、拳銃を隠していたとは・・・誰も気づかないだろう。


「ハァ・・・また負けました。 正直、マッシーさんには参ります。 超至近距離では、拳銃より刃物が優ると言うのに・・・」


「それは使い方次第よ、オーリス。 ハイっ・・・」


仰向けに倒されているオーリスにマッシーが手を差し伸べて、彼女は起き上がった。


「ところでだけど、昔はよくやってたから仕方ないけど・・・できれば少しは状況を見て欲しかったわ。 ほら・・・」


マッシーとオーリスが向いた方向には、ボーッと目が点になっているフォルが佇んでいた。


「アハハハ、ごめんねフォリー、驚かせちゃって・・・。 でもね、こういう事昔はよくやってたの。」


「武器を持った状態での近接格闘術―――マッシー元司令には、その指南をして頂いていた。 

 そして今でも、私は元司令には遠く及ばない。」 


どうやら今のは二人にとって軽い挨拶のような感覚らしかったのだが、フォルはこの間オーリスが言っていた言葉を思い出した。


“だが偉大な先達の方々に比べれば私などまやかし程度だ。”


冗談か謙遜だと思っていたが、それはどうやら本当だったらしいと言うのを彼女はこの場で思い知った。


「あ、いえ・・・その、凄かったです!」


感激と混乱が混じっているフォルが言葉をつなぎ合わせてやっと口を開いた。


「あらあら、フォリーに私の違う一面を見せてるのは、なんだか恥ずかしかったけど、そう言ってもらえると嬉しいわ。」


「フッ・・・少しばかり、醜態を晒してしまったか・・・。」


オーリスが自嘲気味に呟いたその時、マッシーがオーリスへと囁くように言った。


「でも、今日のオーリスはなんか変よ。 いつもなら、もう3〜4手は必要なのに、今日は2手で決まってしまったわ。

 ここに来た理由・・・何かあるんでしょ?」


見事なまでに見透かされたとオーリスは正直改めてマッシーに対して驚いた。


オーリス自身、いつ切りだそうかと迷っていた。


最悪、何も言わずにただ来ただけと言う事にしていたかもしれない。


だが、マッシーの一言が扉を開いてくれた。


「・・・フォレスタル、実はお前に謝らなければいけない事がある。」


オーリスが辛そうな表情になったのを見て、当然フォルは不安になる。


ほんの数度会っただけだが、決して弱さがなさそうに見えた人でもこんな顔になるのかと思ったほどだ。


「10月26日、昨日の事だった・・・。」


その時のオーリスの口調は、まるで法廷で被害者の証言を始めるかのようなものだった。






10月26日 午前・・・トンキン湾沖、空母オリスカニー艦内、搭乗員控え室



彼はこれまでに20回以上の爆撃任務を遂行しているが、今回のような大仕事は初めてだった。


言いようのない充実感を外に出さず覆い隠すように、マケインは耐Gスーツを着込んだ。


風の便りで聞いた話では、ノーフォークでは既にフォレスタルの修復はほぼ完了しているとの事。


もうアイツは元気にしてる頃か・・・


あの事故で失った仲間はには悪いが、空母と言う物が修理できるもので本当に良かったさえ思った。


比較的軽傷であったため早期に復帰したマケインには、新たに仲間も与えられた。


半ば海軍の箱入り娘だったフォレスタルとは違い、最前線で戦う古参空母だけあって人員にもやる気が満ちている。


特に、今日の任務はそんな奴らにとっては、まさに泥沼の戦いの中―――ゲテモノの貝の中にあった真珠のようなものだろう。


―――現代において、ライフラインと呼ばれるものがある。


水、燃料、そしてマケインがおもむろに天井の埃で薄汚れた蛍光灯を見上げた。


―――そう、もう一つは電気だ。


電気によって、夜間の活動が出来る。


電気によって、生活必需品の電化製品は動く。


だが電気によって、敵の兵器も動いてさらには生産されている。


発電所が狙われるのは、ある意味至極当然なのだ。


今回、マケイン達の攻撃部隊に回って来たのはライフラインのうちの電気、ハノイの火力発電所の破壊であった。


敵の軍需工場の生産ラインの寸断、敵兵の生命線を絶ち切ることは、

戦略的イニシアティブを確保する上では非常に大きな功績だろう。


新しく加わったパイロットの部下と共に、マケインは再び戦場となる空へ向かおうとしていた。


最終ブリーフィングも終え、隊長として再びスカイホークのコックピットに乗り込んだマケイン。


そう言えば、この間はこの時にあの事故が・・・


ふと頭をよぎった不吉な思い出に、思わず辺りを見回したマケイン。


するとコックピットの彼を、一人のキリッとした視線が見上げていた。


「また、行くのか・・・?」


「ああ、そうだ・・・ええと」


「オーリスで構わん。」


フォリーとは違い、この艦の艦魂のオーリスは流石海軍の将校を思わせる雰囲気が漂っている。


威厳を象徴するかのような黄金の髪に、左手には常に軍刀であるサーベルが握られていた。


「火力発電所だそうだな―――敵の備えも中々のものだと心した方が良いぞ。」


「だろうな。 だが、これも命令なら仕方ない。 どうにかなるさ。」


死地に向かうにしては、あまりにもあっけらかんとした返事。


すると、これからエンジンスタート等忙しくなる彼の事を考えてか、オーリスは踵を返して艦橋の方へと歩き出した。


(なかなか冷めた奴だな・・・まあ、あれが本来の艦魂ってやつなのかもな・・・)


マケインがそう考えながらグレーのヘルメットをかぶり、エンジンスタートのスイッチを入れようとした時だ・・・


「必ず生きて帰って来い、お前には帰りを待ってる家族や、そして“艦”だってある・・・。」


潮風に流れて聞こえたその声に、マケインは家族、そしてノーフォークで自分の帰りを待ちわびるフォリーの姿が浮かんだ。


その方向に既にオーリスの姿は無く、またゼロアワーが刻一刻と近づき感傷に浸る時間も無い。


やがてエンジン音が高鳴り、彼の操縦機が艦前方のカタパルトに固定される。


「大丈夫だ、必ず帰って来れるさ。」


マケインは自身をそう励ますとエンジンを全開にし、デッキクルーに発艦良しのサインを送った。


そして、それを受けたクルーが発艦サインを送ったその瞬間・・・


加速Gによってシートに貼り付けられる感覚、ガクンッと機体が僅かに上下に揺れた瞬間・・・


彼の機体は大空へと舞い上がった。


実はこの話、タイトルを『烈空(前編)』とする予定だったのですが、それじゃタイトルが全て2文字にならない事に気付いて、急遽このようなタイトルになりました。


こんな妙なこだわりがある所が、自分がA型だと言う所を思い知らされます。 ちなみに、A型はその性格上、部屋が散らかっている事にものすっごくイライラするそうです。 だから、A型の人の部屋はかなり綺麗と聞いたのですが、自分を見てる限り、デマとしか思えません(笑)


それではまた次話でお会いしましょう。


この話の評価・感想をお待t―――といっても、この話はいわゆる前編ですので、ちょっと評価はし辛いかもです。

それでももしよろしかったらお願いします。

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