悲劇
《《!!警告!!》》
本文の一部に、残酷な表現があります。苦手な方は閲覧を御遠慮ください。
もし本文を読んでグロテスク描写が原因での不快な思いをされても、作者は責任を負えないのでご了承ください。
What I saw happen to people whom the aircraft carrier had by the bomb and the napalm bomb now though it was a difficult thing that said such a thing.
(こういった事を言うのは難しい事だが、今、自分は爆弾やナパーム弾によって空母にいた人々に何が起こったかを見た。)
Therefore, there are feelings that it doesn't want to drop such the one to North Vietnam any further.
(だから、北ベトナムにこれ以上そういったものを落としたくないという気持ちがある。)
〜後のジョン・マケイン談〜
大気を唸らせ緊急を告げるサイレンに、大気を覆う黒い毒煙。
人々の悲鳴や助けを求める声と、その逃げ惑う人々や言葉を発さない肉片を飲み込んでいく紅蓮の猛火。
自分を救わんと駆け付けた彼女と、直後に瀕死の重傷を負い横たわる彼女。
地獄の縮図がそこにあった・・・
何らかの原因によって漏れ出した航空燃料に引火した猛火に、ついにあぶり焼きにされた爆弾がギブアップしたのだ。
最初に爆発したダラーハイド機とマケイン機、そして搭乗者を乗せたまま爆発したホワイトの機体はすでに跡形しかなく、
黒く焼け焦げバラバラになり、折れ曲がった金属片は爆発の衝撃の凄まじさを物語っている。
「うぐぅぅ・・・・・マッキー、消防隊は・・・?」
さっきまでは艦の象徴として振る舞い、“フォレスタル”という名前の少女。
しかし、激しい痛みを訴えるように目からは涙、小さな体や口からは血を流す痛ましい少女となっていた。
だが、彼女は自分の心配よりも爆発現場の近くにいた消防隊員達の安否を気遣っている。
それを聞いて、無事でいてくれと思いつつ後ろを振り返ってマケインは思わず目をそむけ、同時にただならぬ嘔吐感に襲われた。
「ねぇ・・・みんな、は?」
必死に痛みをこらえ、体を震わせながらフォリーは尋ねるがマケインは言葉を失っている。
「大丈夫・・・だよね?」
既にフォリーの服の左には赤い染みが広がり、甲板上に広がっている。
人間なら、決して動くことができない状態である。
にもかかわらず、うつ伏せに倒れていたフォリーが激痛で小さく呻きながらも起き上がろうとしたのだ。
それを見たマケインはすぐさまフォリーの動きを制した。
「動くな、フォリー! 傷にさわるだろう!」
焦ったようにマケインが思わず声を荒げ、彼女の上体を抱きかかえた。
ちょうど、彼女が確認しようとしていたマケイン達がほんの10数秒前に居た場所を覆い隠すように。
爆発でバラバラに分解されたのは何も機体だけでは無い。
あの瞬間に、二十数名が爆発で即死していたのだ。
断裂された人体が肉片や内臓、そして大量の血液をフライトデッキにばら撒かれていた。
そして最も衝撃的だったのは、分割されたかつて人間だったモノが、脳から切り離された事によって生じる反射反応を・・・
───ビクビクと痙攣する人間のカケラ、死体が踊っていた・・・
戦う事を運命とされて生まれた魂とはいえ、マケインからすれば十数歳くらいの少女に
後ろで広がるこの世とは思えない光景を、絶対に見せるわけにはいかなかった。
「大丈夫だ! みんなは爆発が起きる前に逃げた、だから大丈夫だ! 俺の部下だって全員・・・なあ!」
とにかく落ち着かせようと頭に浮かんだ言葉を、即興中の即興で羅列してみる。
だが、その嘘を暴露するように後方でまたもや熱に耐えかねた爆弾が弾けた!
「うあああああぁぁっっ!!!」
同時に、絶叫を上げたフォリーの体から先ほどに増して大量の血が飛び散った。
「フォリー!!」
激痛で思わずエビ反りになった彼女を、マケインが慌てて支えた。
「・・・うぐぅ痛いっ・・・ゲホゴホッ!」
フォリーが苦しそうに血を吐き、マケインの耐Gスーツが彼女の凄まじい量の吐血で赤く染められていく。
惨劇を食い止めようと意を決して立ち上がろうとしたマケインだが、彼の足にも破片が刺さっており、まともに歩く事もできない。
「フォリー・・・くそっ、誰でも良い・・・早く火を止めてくれ!!」
不特定の誰か、まるで神にでも祈るかのように彼は叫んだ。
だが、その神が居る筈の天からは残酷なものが降って来た。
ボトリと音がし、マケインもフォリーも視線を上げて直視したそれを見て言葉を失った。
「あっ・・・」
「・・・っ、手?」
そしてフォリーは、落ちてきたそれを見るや否やガタガタと震え始めた。
目の前に落ちて来たのが機体の破片だったらそっちの方が良かった。
だが、降って来たのは爆風で強引に引きちぎられ、白い骨が飛び出る遺体の腕だった。
「・・・ィ、イヤアアアアアァァァァアッッ!!!」
発狂したようにフォリーが絶叫し、泣きわめきだした。
「クソッタレッッ!!」
マケインはもはや事既に遅しだが、その遺体の腕を遠くへ遠ざけようと掴んで投げ捨てる──その一歩手前まで来た時だった。
コツンと小さく堅い何かが地面に落ちる音が聞こえた。
血液が抜けきれ、細くなった遺体の指からスルリと何かが抜けたのだ。
そしてコロコロと転がった円形のそれは、マケインの手前まで来て倒れた。
『見てくださいよ隊長、妻とお揃いの結婚指輪ですよ。 綺麗でしょ、高かったんですよ?』
『おいホワイト、一体どれくらい分使ったんだ?』
『そうだな、ダラーハイド・・・お前のお前や俺の給料半年分くらい、だろうな。』
『ははっ、ホワイト・・・太っ腹だが、破産しないようにな。 さて行くぞ、今日の訓練もACMだ。』
結婚後間もない部下との残酷な記憶が、銀の指輪を拾い上げたマケインの脳裏によみがえる。
「ホワイトッ・・・なぜ・・・何故だぁっ!!?」
涙をあふれさせたマケインが、こらえきれずに天に向かって吼えた。
「ダメージコントロール、被害を報告せよ!!」
爆発で船体が大きく揺れる中、艦橋では現場同様に懸命に非常事態の措置が取られていた。
ベリング艦長が艦内各部の区画と連絡を取り合うように指示するが、一部では回線が断線したらしく特に艦尾付近との連絡が取れないでいた。
「左舷艦尾付近に大破孔! 火災が艦内に延焼しました!!」
二度目の大爆発は、フォレスタルに致命傷と言っても良い程の損傷を与えていた。
「コンディションZ、緊急事態発生!」
乗組員が緊急事態を告げ、沈没を避けるための全ての防水壁が閉鎖される。
爆発地点の甲板には、直径3メートル以上の巨大な大穴が空き、そこから燃え盛る航空燃料が流れ込みだしたのだ。
おかげで密閉空間に近い艦尾の各部は、まるで溶岩が流れ込んだような大混乱状態に陥ってしまった。
「火災なおも拡大中、ですが誘爆により手が付けられません!」
「負傷者の集計も、現在困難な状態です。」
(まさか、退艦命令を出さなければならないのか!?)
クルーの報告を聞いて、不吉な考えがベリング艦長の頭をよぎった。
だが、その時彼は前方に広がる海原が水平に広がっているのを見た。
フォレスタルはあれほどの爆発や揺れにも関わらずまだ平衡を保っている。
そして、ベリング艦長は直感した。
フォレスタル(彼女)はまだ生きようとしている!
そう感じたベリング艦長は、無線機を手に取り全艦放送へ最大音量で繋いだ。
「フォレスタルの全乗組員、火災の鎮火、および負傷者の搬送、手当に全力を尽くせ!
甲板の鎮火は爆風の影響が少ない遠くから、艦内は酸素マスクを着けてなるべく火元に近づいて行え! 以上!」
ベリング艦長はマイクを置くと、情報収集に追われる通信士に声を掛けた。
「ただちに海軍作戦本部に作戦中止、および事故の詳細を伝えよ。 それから万が一に備えて、後方の駆逐戦隊に救難の手配もな。」
《空母フォレスタルにて、爆発火災事故が発生。艦は現在、沈没の危機あり。》
その情報は当時最新の伝達技術によって瞬く間にベトナムの以外の海域に展開する艦艇にも伝えられた。
「ええぇっ!? フォ、フォル姉さんが!!? そんな、ウソよ!!」
地中海での活動中に姉の危機を聞いた妹、サラトガはあまりの事に信じる事が出来ず・・・
「えっ!? フォルお姉さんがですか!!? た、大変ですっ!! は、早く行かないと!!」
フォレスタルと同じベトナムの海域にいた妹、レンジャーは取り乱し・・・
「ウソだろぉ!? ウソだと言ってくれよ!! 今なら怒らねえから!! なあ!」
「ウ、ウソじゃないですぅ! インディ司令・・・く、苦しいです!」
米国本土で改修の為に停泊していた妹、インディペンデンスは伝令としてやって来た駆逐艦の艦魂をいつの間にか締め上げていた。
そして一方のフォリーは彼女の自室へと運びこまれ、マケインと同じく彼女が見える衛星兵によって応急処置が施されていた。
だが、彼女が咳きこむたびに唇からは血がこぼれ、フォリーの白い頬をツツーと伝って流れて行く。
同じように応急処置を足に施されたマケインは、苦しそうに肩で息をするフォリーの口元を拭い、手を握り続けた。
時計は既に真昼の12時を回り、火災発生から一時間以上が経過していた。
ようやく甲板の火が消し止められるも、問題はこれからだった。
艦内に広がった火災が中々消し止められずに、どんどん広がっていった。
延焼した先では、艦内のクルーが次々と毒煙に窒息死させられ、火炎によって焼き殺されていく。
さらにその先には、エンジンや弾薬庫などもある。
エンジン室に延焼すれば、航行不能は免れず・・・
弾薬庫に延焼した場合、内部で大爆発を起こし沈没は免れない。
だが、差し迫る危機を本来は一番に判る筈のフォルは、当の本人でありながら気付いていなかった。
数回にも及ぶ爆発による大怪我と、グロテスクな惨劇を目の当たりにした彼女は、肉体と精神両方を極限まで痛めつけられた。
その影響で、フォリーは意識を失っていたのだ。
「ああぁっ・・・くぅぅ・・・」
だが意識を失っても彼女の口からは血と、苦しみを訴えるうわ言が飛び出してくる。
そんな光景を目にしても何も出来ない事が、マケインにとってはこの上なく腹立たしかった。
「頼む、フォリー・・・死ぬな、生きるんだ!」
彼に出来るのは彼女の手を握り、言葉をかけることくらいだった。
さらに、消火活動で艦内に流れ込んだ水の影響でフォレスタルは左に傾いている。
これ以上の傾きは艦にとって致命的だが、まずは火を消すことが先決だ。
(これは、合衆国への天罰なのか!?だったら止めてくれ、もう沢山だ!フォリーは罰せられるべきじゃないんだ!!)
マケインが祈るようにもう片方の手と合わせて両手でフォルの自分より小さな右手を握った。
内部に拡大した火災を消そうと、クルーが必死に消火活動を行う。
だが、内部に海水を大量に流し込んだため艦体は一瞥しても分かるように左舷側に傾いた。
艦が傾斜すると言う事は、それはすなわち艦艇の致命傷を意味している。
フォレスタルの5400名のクルーは、この時初めて自分達が沈没の危機に晒されている事を知った。
それに追い討ちをかけるかのように、またもや大爆発が発生―――
甲板上でも火災がどんどん拡大して行く光景を見て、ベリング艦長はある決断を下した。
「やむを得ない、艦尾付近の艦載機を全て海へ投棄する。 この際、値段なんて考えるな!」
これは意外と勇気の要る行動だったに違いない。
血税の塊を海に投げ捨てるのもそうだが、近くでは未だに燃え盛っている残骸が多く残っている。
下手をすれば、また爆発にクルーを巻き込むことになる―――
そこで艦長は、火災現場から少し離れた艦尾から戦闘機の投棄をするように命じた。
投げ込むのは、戦闘機だけでは無い。
爆発の元凶にもなる、爆弾が使われることなく海に沈められていく。
こんなものを、俺たちはベトナムの空から―――
この時、少なからずクルーはベトナムでいま起きている事を思い知らされた。
発生から10時間余りが経過した頃だった。
5400名以上のクルーの中には、不眠不休で消火活動や情報収集に当たっている者もおり、
特にベリング艦長からは徐々に疲れが見え始めていた。
「艦長、火災が徐々に収まりつつあります!」
その時もたらされた10時間ぶりの朗報に、クルーの表情に再び災害に立ち向かう闘志が湧いた。
「あと一息だ! 俺たちも行くぞ!」
手の空いていたクルー数人が、艦橋から飛び出していく。
その間に艦長は、無線で次の指示を出していた。
「燃料を左舷から右舷のタンクに移動させて、艦の傾斜を修正する。 手の空いている者を集めろ!」
10時間前、フォレスタルは死の崖から転落しかかったが、今ようやく崖の上に上がろうとしていた。
そして、どれくらい時間が経ったのだろうか・・・
『総員に告ぐ・・・』
いつの間にかフォリーの部屋で、座りながら眠っていたマケインが、突如聞こえてきたアナウンスで飛び起きた。
気がつくと、時計は午前4時を指している。
すると、マケインは聞きなれた振動音、そして艦がいつの間にか平衡を保っているのに気がついた。
『諸君も知っての通り、フォレスタルは25ノットで航行を再開した。 この艦はもう安全だ。
生き残った諸君に艦長として礼を言う。ありがとう。』
その放送を聞いてマケインは安堵の表情を浮かべた。
するとその時、マケインの視線の先のフォリーがうっすらと目を開いた。
「マッキー・・・私・・・。」
彼女は分かっていた、自分自身が助かった事に。
だが、それを素直に喜ぶ事が出来なかったのだ。
「フォリー、何も言わなくて良い。 せめて今は、生き残った事を喜んでくれ。」
マケインは静かに複雑な面持ちの彼女を抱きしめていた。
フォレスタルの火災は、発生から17時間が経過した30日午前4時に完全に鎮火された。
しかし、その影響で134名(うち2人は行方不明、後に死亡)が死亡、60名以上が怪我をし、
事故を起こしながらも沈没を免れた艦では最悪規模の犠牲者を出した。
そしてフォレスタルは、緊急補修のために深い夜の静かな海原をフィリピンの米海軍の軍港へ向けて航行を再開した。
悲しみに満ちた航路を、空に浮かぶ青白い月だけが照らしていた・・・