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未来へ

キャラ設定を共有して応援してくださった三ノ城先生、そして読者の皆さんのおかげで、此処まで来れました。


いよいよ波乱万丈艦魂記《空母フォレスタル》編の最終話です。


それにしても、なんとか間に合わせようとした結果―――内容がいきなりだったりするかもしれないです。


御意見があれば、メッセージや評価・感想の欄ででもお伝えください。

御意見や指摘が無くても、多分後日加筆修正すると思います。

 フォレスタルが戦線を退いてちょうど8年目を迎えたこの日、世界を震撼させた事件が起こる―――


世界経済の中心とあって、活気に溢れる大都市、ニューヨーク。


発展の象徴とも言える超高層ビル摩天楼がそびえ立ち、誰もがアメリカの恒久の平和を信じていた。


上空に突如として飛来した航空機―――本来人々へ楽しみを運ぶ旅客機は、ニューヨークの人々に死と、消えることのない怨嗟を運んでいたことは、誰も知る由もなかった。


それは人々の明るい笑い声を一瞬で悲鳴と変貌させた―――。


アメリカでは当時、シカゴのシアーズ・タワーに次いで国内第二位の高さを誇っていたニューヨーク世界貿易センタービル群の第一、第二タワー。


二つの超高層ビルに、二機の旅客機が突入し爆発炎上―――


その様子は全世界の人々だけでなく、世界中の海に展開する米海軍の艦魂達にも大きな衝撃を与えた。


ある者は泣き叫び、ある者は憤慨してテロリストへの報復を胸に誓う。


それから数日後、アメリカの軍用通信傍受システム『エシュロン』によって至って速やかに

特定された―――オサマ・ビンラディン。


三日前にビンラディンが自身の母へとかけた電話、それをエシュロンシステムが傍受していたのだ。


犯人を特定したアメリカは、テロとの戦争へと突き進む。


だが、戦場はまたしてもアメリカからは遥か遠方。


時代は移り空軍爆撃機の性能が向上しても、攻撃の主役を担ったのはやはり海軍の航空母艦。


ベトナム戦争と、同じように―――



アフガニスタンの後に、テロ支援国家として世界から危険視されていたイラクへと

侵攻したアメリカ。


その戦地となる海へ向かう一隻の空母、ニミッツ。


彼女は、妹の空母エイブラハム・リンカーンと交代するためにペルシャ湾を目指していた。


せわしくクルー達は動いている訳では無いが、ペルシャ湾が近づくにつれて彼らの表情に緊張が表れる。


敵にいつ襲われるか分からないという戦場の緊張感、だがそんな中で唯一常に変わらない表情を出来ていた者がいた。


艦首付近の右舷、飛行甲板から少し下にさがった舷側の甲板、そこに彼女はいた。


「―――どんどん、戦火が拡大して行く。」


目を閉じて流れる温風に自身の青い長髪を揺らし、空母ニミッツの艦魂ニミーはそう呟く。


彼女はテロとの戦いというお題目で戦火がどんどん拡大して行く事に、一抹の懸念を覚えていた。


この戦い、国益のための戦争では無いのか、と。


―――確かに古来より、国と呼ばれる集団が起こす戦争の動機には国益の確保という目的はあった。


しかし、現代においてそのような考えのもと戦争を起こす国を世界は野蛮で卑劣な国とみなす。


自身の記憶にも新しい湾岸戦争に於いて、それをアメリカが全世界に示したはずである。


だが最近のアメリカ政府の行動に、ニミーは疑念を抱いた。


石油関連施設を占領後は厳重に管理し、他国の石油会社を戦地から追い出す。


戦争が、政治経済活動の手段として使われているかのように彼女は思わざるを得なかった。


その時ニミーは自身の背後に気配を感じて振り向くと、ブラウンの長い髪を持った少女が敬礼し立っていた。


「お久しぶりです、ニミー司令。」


「久しぶりね、リン。 でも今は回航中でオフだから、姉さんで良いわよ。」


気さくにニミーがそう呼びかけた少女は、彼女の4人目の妹に当たる存在。


ニミッツ級航空母艦エイブラハム・リンカーンの艦魂、名前はリンだった。


「では改めまして、お久しぶりです姉さん。」


久しぶりの再会に、二人が手を取り合って笑顔を交わす。


「ごめんね、忙しかったんじゃないかしら?」


「いえ、本当は駆逐戦隊の誰かを向かわせようと思ってたんですけど、皆忙しそうだったし―――それに来るのが姉さんだから、結局手が空いていた私が来る事になったんです。」


「そうだったの―――ねぇところで、リン。」


聞くべきか迷ったが、ニミーはそれを聞かなければいけない物と思い直す。


「向こうの様子は、どうだった? ―――現地の人々は?」


イラクでは少なからず良からぬ噂が流れている。


その可能性を払拭したいが、それを尋ねた時のリンの表情でニミーはそれが事実なのだと認めた。


やがて、しばしの沈黙ののちにリンが口を開いた。


「私はまだ何も詳細は聞いていませんが―――一つだけ聞いたのは、イラクの人々がすすり泣く声でした。 まるで街全体が、暗く沈んでいるかのようで―――っ、ごめんなさいッ!!」


唐突な謝罪に、ニミーが少し驚く。


頭を上げたリンが、泣いている。


アメリカがイラクに施した先進的な統治―――だが、かつて日本を統治した時とは違い、

イラクの人々からの返答は自爆テロの頻繁な発生という悲惨な形で返されることとなった。


その責任が、アメリカからイラクへ派遣された艦隊の中核であるリンに、重くのしかかっていた。



「私が、至らなかったばかりに―――こんな事に!」


全てはその一言に現れていた。


ニミーはこの瞬間理解した。


妹が送ってきた辛い日々を、そしてこれから自分がこの地で為さなければいけない事を―――


すると装飾が施された軍刀をニミーが左手に持ち直すと、リンの涙を彼女が優しく拭う。


「泣かないで、リン。 あなた達は良く頑張ったわ、後は私たちが引きつぐから、何も心配しないで。」


二人はしばらく、そのまま静かに抱擁を交わしていた。


その後、空母ニミッツがイラクへと入港し、空母エイブラハム・リンカーンはようやく故郷への帰路につく。




2006年5月―――


 一方、米軍がイラクの統治に苦しんでいる間、フォルはかつて第一線で活躍した空母艦魂のもとを訪れていた。


空母オリスカニー


―――しかし艦全体にかつての威容は無く、艦の終焉が迫っていた。


既に船体は赤い錆に覆われており、アンテナやその他様々な設備が取り外されている。


フォルが今居る艦橋の下からも、撤去されたマスト等の跡がはっきり分かった。


それを見て彼女は現実を受け入れつつも、言いようのない虚しさに襲われる。


「ここだぞ、フォレスタル。 まだ、見えるだろう?」


呼びかけられた方を向いて、彼女は驚きと悲しみに襲われる。


そこにいたのは、紛れもなくこの艦の艦魂オーリスだった。


しかし、艦からはすでに様々な設備等が取り外され、最早空母として機能する事は無いオリスカニー。


それを象徴するかのように、オーリスの体が透き通っている。


今から一年前に、その計画を打ち明けられた時に、フォルは驚きそしてひっそりと泣いた。


オリスカニーはアメリカの軍艦としては初めて、人工漁礁として海に沈められる事が決まったのだ。


その時に、オーリスは涙を流す彼女にこう言った。


「私は、二人のタイコンデロガの退役をその目に焼きつけた。 軍艦が、こうして最期を迎えられると言うのは

 それはそれで喜ばしい事なのかもしれない。」


オーリスが語ったタイコンデロガの退役―――


もう2年前にもなるが、ミサイル巡洋艦タイコンデロガは就役から20年以上に渡って海軍に従軍し、その役目を終えた。


世界で初めてイージスシステムを導入したタイコンデロガは、次世代の戦闘という物を世界に確立し、その先駆けとなったのだ。


二人のティコの退役を見届けたとは、つまり空母のティコと巡洋艦のティコ―――どちらの退役もを見届けたと言う事なのだ。


しかし、その退役して長年海に浮かび続けていたオリスカニーにも、遂に別れの時が来たのだ。


別れは辛い、マケインが捕虜となった時だってそうだった。


しかしオーリスの言っていた通り、これは本当は喜ぶべきことなのだと―――フォルは自分に言い聞かせた。


フォルにとって、事故の後に立ち直るきっかけをくれた尊敬する先輩―――その彼女ともう会えなくなる。


しっかりと自身に言い聞かせなければ、自分がどうにかなってしまいそうであった。


「お久しぶりです、オーリスさん。 いよいよ・・・なんですね。」


「そうだな―――私の遺志は、全てお前に伝えた。 我が剣は、ニミッツに託した。 思い残すことは、無い。」


穏やかなオーリスの瞳―――全てをやり遂げて死を迎える事が出来る、軍艦の集大成がそこにあった。


「まあ、一つ気がかりと言えば―――ティコの事だ。 きっと、しばらくは泣きじゃくるかもしれないが、よろしく頼む。」


「―――はい、分かりました。」


送り出すのが辛い、別れが悲しい―――でも、これは全ての形ある物の宿命。


自分に出来る事は、何でもやりたい。


それはフォルにとってすなわち、オーリスが後ろ髪を引かれる思いをしないように最期を迎えさせることであった。


やがて、岸の地面に埋没させていた錨が、数十年ぶりにその姿を現す。


艦の前方には、自力での航行能力を無くしたオリスカニーを曳航するためのタグボートが配置につく。


タグボートのエンジンが唸り、白煙が青く澄み切った空に吹きあがる。


そして、オリスカニーは自分をずっと留めていた土地に最後の別れを告げた。


「では、行くぞ。 私の、最後の航海だ。」







―――そして、その時はやってくる


オリスカニーはフロリダ州のペンサコラ沖の目標海域へと到達した。


「ここが、私の最後の海だ―――」


自分を残して他の艦魂達は爆破を担当する技師たちを乗せた船や、オリスカニーのかつての乗組員の乗る船へと退避した。


オーリスが生きた激動の時代とは対照的に、白波一つ無い穏やかな海―――そこが彼女に与えられた最高の死に場所だった。


あらかじめ沈みやすいように解体が施された艦内には、多数設置された爆弾がある。


最後に技術者がそれらの爆弾の全てに導爆線を曳き、いよいよ準備が完了した。


変わり果ててはいるが、昔の面影を思い出すように艦内を歩くオーリス。


せわしくクルーが行きかっていた格納庫にも、運動音痴なクルーがにらめっこをしていたレーダーがあった司令室、

そしてオリスカニーを動かしていた艦長や士官達がいた艦橋―――


その全てが今日で海底へと沈み、彼女には安らかな眠りが与えられる。


最後に彼女が向かった場所、そこはかつて艦載機が飛び立っていたフライトデッキの艦首。


その前方遠くには、フォル達や退役軍人たちを乗せた船が数十隻が見える。


彼女を見送るために、フォレスタルやオリスカニーの乗組員でもあったマケインもそこにいた。


「その目に焼き付けるんだ、私の最期を―――」


いよいよカウントダウンが開始される。


その時、オーリスの体が光り出すと、細かい輝く粒子となって空へと舞い上がっていく。


「時間か―――さらばだ、みんな。 フォレスタル、米海軍の将来を頼んだぞ。」


彼女がその上空を見た時、その空から手のような物が差し伸べられた。


聞こえてきたのは、懐かしい友の声。


『行こう、オーリス。』


「まったく、憎い演出だな、ティコ。」


そして―――久く会えなかった親友の名を呼んで、彼女の姿は天へと消えた。



ゼロという技師たちのカウントが聞こえた瞬間、オリスカニーのいたるところでパッと赤い爆炎が上がった。


防水壁にあらかじめ開けられていた穴に海水が急速に流れ込み、空母では信じられないような速さでオリスカニーが水平に沈んでいく。


見守る艦魂の中には、涙を浮かべている者が多かった。


特にミサイル巡洋艦タイコンデロガの艦魂、ティコはまるで母親を失った子供のように泣いている。


(私は、あの時―――貴女の言葉に救われました。 貴女がいなければ、今の私は無かった筈です。

 さようなら、オーリスさん―――波間でゆっくりと休まれてください。)


敬礼で直立不動のまま、フォルはオリスカニーが沈みゆくさまを静かに見守る。


艦尾が完全に海面に浸かり、そのまま艦尾方向にやや傾いたままの姿勢を保ち、オリスカニーが波間へ消えていく。


艦橋も海面に姿を消し、いよいよ艦首だけとなった時―――


泣きそうになるくらいの強烈な嗚咽感に堪えながら、フォルは息を吸い込んだ。


「オリスカニーへ、敬礼!」


大多数の艦魂達、そしてマケインら退役軍人達が敬礼を送った。


それを最後に見届けるように、オリスカニーの艦首は白い水飛沫を上げて海中へと沈んだ。


朝鮮戦争、そしてベトナム戦争とを戦い抜き、フォルの心の支えとなったオーリス。


その空母オリスカニーは、フロリダ沖に於いて眠りについた。


2006年5月17日の事だった。



「彼女は―――オーリスは幸せだったのだろうか?」


オリスカニーとの別れの後、マケインとフォルは帰路につく船の中で共にあった。


既に70近くになったマケイン、体は衰えてはいるがまだ歩いたり普通に生活する分には支障は無い。


政治家として、頭の切れはむしろフォルが良く知るころよりも良くなったかもしれない。


「それは、分からないわ。 でも、オーリスさん“こうやって軍艦が最期を迎えられるのは、それはそれで喜ばしいこと”

 って言ってたわ。 幸せだった―――私はそう信じたいわ。」


一方のフォルは、未だに見た目が20歳前半の若い姿のままだ。


それでも、もう50年以上に渡ってアメリカの空母として生きていた。


「フォリー・・・実は俺、今度も大統領選に出馬しようと思う。」


「あら、今度こそ私から大統領が誕生しちゃうのかしら? マッキーが大統領か、一回見てみたいわ。」


「そう言ってもらえるとこっちも嬉しいぞ。 まあ、まだ考えてる段階だけどな―――

 世界の平和ってものを、是非フォリーにも見せてやりたい。」


「マッキー、私今なら、平和って何なのかわかりそう―――」


フォルの瞳が輝いている。


その眸は、まるで全てを見透かせるかのような輝きを持っていた。


「ほぅ、そう言えばあの時も似たようなこと言ってたな。」


懐かしむようにマケインが言うと、フォルが反論する。


「あれは、私が訊いたのよ。」


「んー、そうだったか?」


「そうよ。」


「―――俺も歳かな?」


「だって歳じゃない・・・。」


向き合った二人は何を言う事もなく、互いに笑いだした。






「いよいよ出馬か―――」


どこへ動く事もなく停泊するフォレスタルの甲板の上で、フォルは椅子に座ったまま新聞を読んでいた。


トップの見出し記事は、今年マケインが大統領選に出馬することを報せるものだった。


目まぐるしく動きまわる世界―――


米海軍スーパーキャリアーの筆頭はキティ、そしてニミー、フォル達に代わって彼女たちは、

既に合衆国海軍を先頭でリードする大切な役割を担っている。


キティから聞いた話ではニミーの性格・・・まるで、フォルとオーリスを足して二で割ったようだと聞く。


その折にもう一つ聞いた話だが、来る2009年1月にキティは横須賀を後にし、退役する事が決まった。


「もう思い残すことは無い―――そう言える日も近いのかもしれないわね。」


独り言をつぶやくフォル―――


「あの元帥、何か言いましたか?」


その声で我に返ったフォル、眼前には長い髪を持つ少女がこちらを不思議そうに見つめている。


新聞を手に取って、すっかり目の前に来客がいた事を忘れていた。


「う、ううん、何でもないのよ―――シンティ。」


目の前の少女に、フォルは笑いかけて首を振った。


シンティとフォルが呼んだ少女は、ニミッツ級航空母艦の6番艦『ジョージ・ワシントン』の艦魂だ。


特徴といえばやはり目につくのは彼女の長い髪の色。


名前の由来になったアメリカの初代大統領、ジョージ・ワシントンの幼少時の逸話として今でも広く知られる桜の木の話―――


その桜と同じ色の髪を、見た目が16歳くらいに見える艦魂のシンティは持っていた。


「それで、日本に行く事になるのが心配―――そう言う事だったわよね?」


「はい、もう40年前にもなりますが―――エンター司令が佐世保に寄港しようとするのを、日本の人々がデモ行進や、力づくで

 阻止しようとしたという話を聞きました。 なんでも、機関が原子力だったのがいけなかったとか・・・」


「そうね、そう言う事もあったわね。 でも、それはまだ原子力艦船っていうのが登場して間もないころの話でしょ?」


あの時はよく皆で―――特にキティがエンターを慰めていたりしたものだと、フォルが昔を懐かしむ。


「今は原潜の子だって、もう何度か日本に寄港出来ているし、それにニミーだって佐世保に寄港したわね。」


「でも、配備となるとまた話も違ってくるんじゃないでしょうか?」


「そうかしら? でもね、シンティ―――」


改めて呼びかけられたせいか、シンティが思わず姿勢を正した。


「あなたなら必ずキティの後任が務まると私は思う、だから心配しないで。」


それを聞いて落ち着いたのか、テーブルの向かいのシンティがほほ笑んでくれた。


「そう言っていただけると、嬉しいです。」


「そりゃ、シンティのこと―――このノーフォークでずっと見てきたからね。」


シンティこと空母ジョージ・ワシントンも、空母フォレスタルと同じバージニア州ノーフォークを就役以来の母港としていた。


生まれた時期は遠く離れていても、直接的なつながりは無くても―――二人はまるで姉妹のような間柄になっている。 


生まれた場所によっての結びつきが、艦魂同士では結構強かったりするのだ。


ある程度話していくうちに、シンティの悩みが解決したんじゃないかしらと、フォルが思っていた矢先だった。


「シンティ姉さま〜ぁ!!」


「げぇっ!! 来たわ!」


フォレスタルの飛行甲板の向こうから、ものすごいスピードで一人の少女が猛ダッシュで迫る。


そしてそのまま驚くフォルの目の前で、彼女はシンティに向けて新愛のダイブ!!


―――する筈だった。


しかし、着地地点・・・というか落下地点にはシンティの姿は無く、その脇に彼女は居た。


ドテッッ!!


嫌な音がフォレスタルの甲板上に響き渡る。


「ふぅ、危なかった・・・」


「うわ〜ん!! なんで避けるのよ、シンティ姉さまぁ〜!!!」


起き上がった少女が、あきれ顔のシンティに泣きついて叫んだ。


フォルの前なのにと、困惑を露わにするシンティ。


「あのね、ルーマ―――もうそんな歳じゃないでしょ? それに何回もされていれば、次第に避ける癖が付いてしまうわ。」


少女ルーマに姉らしく諭すシンティ。


ルーマはニミッツ級航空母艦「ハリー・S・トルーマン」の艦魂で、シンティとは6歳離れた妹だ。


彼女の見た目は10歳くらいであるため、シンティとは例え人としてでもちゃんと姉妹に見えるだろう。


そんな彼女が泣き付く理由は、親愛のダイブをシンティに避けられただけでは無かった。


「お姉さまぁ〜、日本なんかに行かないでぇッ!! ずっと、ここに居てッ!!」


「あらら、また問題が発生?」


「フォル元帥どちらかと言うと、こっちの方が大きい問題かもしれないんですよぉ―――ハァ・・・」


「そ、そうだったのね―――」


実は、ルーマのシスコンぶりは米海軍の中でも屈指の物であったとフォルは聞いていた。


深刻な悩みを抱えてますよと主張するシンティの表情。


溜息を吐くシンティと未だに泣きやまない彼女の妹ルーマを見ながら、フォルが思わず苦笑する。


「それは、また大変ね―――」


「ほら、泣かないでルーマ。 日本で落ち着いたら、きっと呼ぶから―――そしたらまた会えるから、ね。」


これでは姉妹というより、むしろ母と子―――?


言ってはいけない言葉を頭に思い浮かべながら、フォルはルーマが泣きやむのを待った。


「―――姉さまぁじゃあ、もしエンターさんみたいに日本の人たちに変なことされたらいつでも言ってよ!

 またアトミックボムをどか〜んと落としてやるんだからぁっ!!」


それを聞いた瞬間、シンティは石か氷のように固まり、一方のフォルは周りに自分達以外居ないかを改めて確認した。


ここがもし横須賀で、あろうことか近くに自衛隊の艦魂でも居たならば―――


フォルとシンティは、考えただけでもゾッとした。


妹の特大級の失言に目を丸くしていたシンティだが、それをフォルが上手く取りまとめた。


「―――ルーマは、まだ日本を訪れるのは早いかもね―――」


その後は、フォレスタルの隣に停泊するサラトガから、サラがお手製のクッキーを作ってきてくれたおかげで、久々に

ちょっとしたティータイムを過ごせた。




そう言う事が、現役の時とは違い良くある―――むしろ嬉しい事だ。


そういった日々の小さな楽しみが、今の彼女の日常―――


もう大量の爆弾やロケット、ミサイルを搭載した艦載機を戦場に飛び立たせることは無い。



その戦闘機やクルーが忙しく行きかっていた甲板では、たまに皆を呼んでパーティを開いたりしている。


フォルの趣味である音楽演奏も、こういった時に姉妹4人で合奏して披露する。


そしてフォルが一人のときは彼女は手記を書いたりしているが、その多くのテーマが平和についてだった。


今日も書こうと思ってペンを取った矢先、フォルはノーフォークに吹く穏やかな風を感じた。


現役の時には出来なかった事が出来そうな、そんな日和だ。


気が変わったのか、手帳を置くフォル。


そして彼女は椅子の背もたれを倒し、眼を閉じて呟いた。


「ちょっと、眠ろうかしら―――」


今日も彼女は、平和を探し、そして平和を感じている。


フォレスタルは戦場に出る事もなければ、大海を往く事ももう無いだろう。


しかし、平和の探求者であるフォルの航海は、まだ終わらない―――






                    完

アメリカの日時で、5月17日は歴戦の空母―――エセックス級航空母艦12番艦オリスカニーの命日です。

この日に、間に合わせようと何とか頑張りました。




アメリカ軍の実在する空母、フォレスタルを題材にした波乱万丈艦魂記の第1作。

いかがでしたでしょうか?


最初は、ベトナム戦争での事故のみを題材に扱う予定でしたが、急遽路線変更!

当初計画していたより、2倍以上に大きくなっちゃいました。 でも後悔はしてませんけどね(笑)


ここまで読んでくださった読者の皆さん方には、本当に感謝です。


今後アップされる私JINの他の作品や、波乱万丈艦魂記の第2作でお会いできることを願いつつ―――


本当にありがとうございました!



《5月19日追記》

早い様な気がしますが、波乱万丈艦魂記の第2作目の製作を決めました。


波乱万丈艦魂記《フリゲート、スターク》〜決して沈まぬ気高き志〜


序章は近日中に出来ると思いますが、本格的に執筆を始めるのはまだ後になります。

執筆が遅く、遅延にかなりの定評がある作者ですが、今後ともよろしくお願いします。


ちなみに、それまでは《海原の大鷲を更新して行きたいと思います。


あっちだけの話―――

最初の超兵器戦から、せめてパナマ運河通過くらいまでは書きたい


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