予兆
東南アジア、北ベトナム・・・
1967年、泥沼化するアメリカ軍の対北ベトナムの戦争。
犠牲者の数は急速に増え、アメリカ軍の死者は6000人を越えました。
戦争の早期終結を図るため、当時のジョンソン大統領は、空爆の強化を命じました。
しかし戦場は、アメリカ本土からは遥か遠くです。
空爆には、新たな基地が必要とされます。
そこで重要な航空基地となったのは、海軍の航空母艦でした。
海岸から数百キロ離れた海上から、空爆を仕掛けるのです。
任務を承けて、ベトナムへと出航したのは・・・世界最大級の空母フォレスタル。
80階建てのビルに相当する面積を持つフォレスタルは、まさに移動するアメリカ領土でした。
ナショナルジオグラフィック
「衝撃の瞬間」冒頭部より
1967年7月 ベトナム沖・・・
果てしなく広がる360度すべて海というフィールドを、数隻の艦船がゆっくりと航行している。
比較的小型の駆逐艦が周囲に展開する中、その中央に陣取り巨体を滑らせる鋼鉄のアイランド、空母フォレスタル。
任務を終えた航空機がその角度をつけた艦尾より接近し、これから任務を控える攻撃機が
デッキクルーの手信号を受けてカタパルトから次々と弾き飛ばされていく。
先程帰還した攻撃機がエレベーターで艦内ハンガーへと格納されていく中、再び帰還する機影をデッキクルー達は見つけた。
米海軍が誇る攻撃機、A−4スカイホークの凛々しい雄姿をデッキクルーに交じって、
金髪を磯風になびかせる一人の少女が待ちわびた表情で見つめている。
スカイホークのパイロット、ジョン・マケインは微妙に操縦桿を操作しながら管制官の指示に従って徐々に機体の高度を落としていく。
やがて機体はぐんぐん近づき、彼の視界には海原に巨体を呈するフォレスタルの
角度をつけたデッキの白線までもがはっきり見えるようになる。
黄色の目立つジャケットにインカムを付けたデッキクルー達が退避を終え、マケイン機の着艦の準備は整った。
そして、垂直尾翼のラダーを駆使してマケインは最終調整を行う。
何度やってもなれない実戦、帰るまでが戦争だ。
彼の顔には、敵地から離脱して以来の険しさが刻まれる。
飛行甲板には、彼の機体が近づいてくれば来るほどスカイホークの甲高いエンジン音がだんだん大きくなってくる。
『50・・・30・・・20・・・10・・・タッチダウン!』
管制官のコールが聞こえるのと同時に、彼が操るスカイホークのフックがアングルドデッキに敷設されたワイヤーに引っ掛かり機体は急減速。
ガクンッと体を前後上下に揺さぶられ、マケインも顔面を前面のレーダースクリーンなどにぶつけないようにキャノピーの取っ手を強く掴む。
あっという間に機体は止まり、着艦は成功した。
デッキクルーの手信号で、フックがワイヤーから外されると彼は誘導通りに艦橋前方のエレベーターへとタキシングをする。
そしてエレベーター前方で機体を停止させるとマケインはヘルメットを脱ぎ、
スカイホークのキャノピーを開けると用意されたタラップを使って機体からフォレスタルのデッキへと降り立った。
整備員達が後の仕事を引き継ぎ、マケインが報告に向かおうとした時だった。
「マッキ〜! おかえり〜!!」
誰かに後ろから背中に抱きつかれ、疲れていたマケインは危うく凹凸の無いデッキでこけるところだった。
「おわっっと・・・誰かと思えば、フォリーか。 ただいま。」
見なくてもマケインはその少女の声に聞き覚えが幾度となくあった。
マケインの背中から降り、満面の笑みで彼を出迎える少女。
彼女はこの巨大空母フォレスタルの艦魂、“フォレスタル”。
マケインや彼女が見えるクルー達からは、“フォリー”と呼ばれていた。
一方、そんなフォレスタルはなぜマケインのファーストネームを呼ばないのか・・・。
答えは意外と簡単で、マケインのファーストネーム、ジョンと言う名前の人物はこのフォレスタルにはたくさんいる。
そんなわけで、フォレスタルは彼の事をマケインという苗字の形をかえてマッキーと呼んでいるのだ。
「それでどうだったの? 敵をみんなやっつけた?」
「ん・・・まあ、指示された通りに攻撃はしたぞ。」
勝利の帰還だと言うのに、マケインの表情はなんだか暗い。
それを見つめる“フォレスタル”は不思議そうに眉をひそめる。
「マッキーどうしたの? なんか、不満そうだね。」
「そうか?」
マケインは“フォレスタル”にとぼけたように言うが、内心は彼女の言った事が当たっている。
実は、マケイン・・・いや、空母フォレスタルの部隊に回ってくる作戦は、いまいち戦略性に欠けるものばかりだった。
主要な敵の基地などの美味しい所は真っ先に他の部隊に取られ、マケイン達はそれから逃れた敵を空爆によって殲滅するというものだ。
しかし、ベトナムと言えば森林地帯が多い。
そんな視界の悪いジャングルに逃げた敵兵をピンポイントで爆撃するなど出来る筈がない。
増してや、誤って民家や一般人を攻撃してしまったかもしれないと言う現場でしか分からない罪悪感が、彼らの戦意減退に拍車をかけていた。
「まあ・・・“フォリー”にはちょっと難しいかもしれんがな。」
マケインに続いてフォレスタルに次々と着艦する仲間の姿を見ながら、彼は“フォレスタル”にいつの間にか自ずと理由を語っていた。
すると、彼女の口から意外な言葉が飛び出た。
「そう・・・それなら、早く戦争が終わると良いね。 そうすれば、敵を倒さずにすむよ。」
単純明快な解答、しかしそれはマケインを少しばかりか驚かせた。
「おいおい待て、我が国が誇る空母が敵を倒さずに済むなんて言っていいのか?」
「それが、みんなの気持ちならそれでも良いと思っただけ。」
「やっぱり、“フォリー”は変わった子だな。」
マケインは笑いながら彼女の頭を撫でると、“フォレスタル”は再び明るい笑顔になる。
「えへへ、ありがとうマッキー。」
「でも、だからお前には変わった任務が舞い込んでくるのか・・・。」
「うっ・・・それは・・・どうかな、アハハ・・・。」
苦笑しながら頭をかくフォリー。
変わった任務と言えば、彼女は現代においても海軍史上もっとも大きく重い航空機を離着陸させたという記録を持つ。
実験では、僅かに改造を加えたC−130ハーキュリーズ輸送機がフォレスタルの甲板に離着陸ができるかという物であった。
しかし、理論上は可能でも実際にやってみるのではわけが違う。
もともと空母で運用されるように開発された期待では無いC−130、当然事故を起こす可能性は高い。
もし高速で巨大な物体が、最悪艦橋にでも衝突しようものなら艦は大破することになる。
だがそんな危険な役を、フォレスタルは自ら買って出たのであった。
実験当日、クルーや姉妹や親友の艦魂達が祈るように見守る中、C−130は見事にデッキに着艦した。
また、それよりも少し前にはフォレスタルは地中海へと出向き、
イスラム圏の国王を艦へ招待したりとこれまでの米空母とはまた違った事をたくさんやっている。
「とにかく、私はこれからもまだまだ頑張りますよ。 悪いけど、キティーや妹たちには負けてられないわ。」
キティーとは、彼女の義理の妹に当たるキティホーク級一番艦の空母キティホークの事である。
キティホークは、北ベトナムへ悪天候や激しい抵抗などがあったにも関わらず半年もの間、艦載機を向かわせ軍事目標を攻撃し続けた。
その時の勇気や精神を政府から高く評価され、海軍殊勲部隊章を受章していた。
改フォレスタルとも呼ばれるキティホークの活躍は、義理の姉にあたるフォレスタルには大変嬉しいニュースだった。
彼女たちがベトナム戦線から帰還した時、“フォレスタル”は彼女たちと抱き合って一緒に喜びを分かち合ったものだ。
「そうだな、次は俺たちの番だもんな。 それじゃフォリー、ちょいっくら艦長に報告してくる。」
「そう、じゃあね〜マッキー!」
友達と別れるような感じで“フォレスタル”は手を振ってマケインとその場は別れた。
「ベリング艦長、ジョン・マケイン少佐以下、全員帰還しました。」
「まあ、座りなさい。 まずは御苦労だった。 私も正直、心から褒めてやりたい所だが・・・」
白髪のベリング艦長が、一枚の紙をマケインに見せる。
「先ほど入った情報では、君達が攻撃したのはダミーの方だったようだ。」
残念そうに言う艦長、当然マケインにとっても苦労がまるで水の泡だ。
「そうですか。 申し訳ありません。」
落ち込んだ表情のマケインが、艦長から渡された用紙を手に取る。
紙面には、訂正された情報が簡潔に綴られている。
確かに敵基地の正確な位置など、自分達が受けたブリーフィングとは異なる表記があちらこちらに見られる。
「なに、君達のせいではない。 諸君らは、我々が指示した目標を攻撃した。 むしろ、良くやってくれた。」
そういって立ち上がり、窓から飛行甲板を見つめるベリング艦長。
その背中が妙にさびしい。
開戦から約2年が経過したが敵は市街地から撤退し、森林地帯や山間部などで人目に付きにくいゲリラ戦法を取ってくる。
森林地帯に闇雲に爆弾を投下しても当たる可能性はほとんどなく、艦長は国や国民が望む戦果と、
部下達が戦果をあげたいと望む声の板挟みとなっていた。
その気持ちは、一攻撃部隊を率いるマケインにも痛いほど分かっていた。
だからこそ、少しでも戦果をあげて皆を喜ばせたい。
そして願わくば、早2年で泥沼と化しつつあるベトナム戦争が早期に終結することを・・・。
しかし、フォレスタルを始めとした攻撃部隊は、また別の深刻な悩みを抱えていた。
爆弾の数が足りないのである。
いくら優秀なパイロットと、最新鋭の攻撃機を飛ばしても、攻撃用の武器弾薬が無ければ意味がない。
「弾薬の残量も少ないと聞きます、艦長・・・やはりこれからは出撃回数は減るのでしょうか?」
艦長が「すまないが、そうだ。」と言う事を、マケインは覚悟していた。
だがベリング艦長は、意外な返事を返した。
「そのことなら心配ない。 明日、給兵艦ダイアモンド・ヘッドから本艦へ、攻撃部隊用の武器弾薬が補給される。
当然、スカイホーク用に1,000ポンド爆弾もな。」
艦長はマケインに笑顔で語るが、マケインにはそれが作り笑いであることがうかがい知れた。
マケインは、それが艦長が内心に部下を気遣う気持ちから完全に笑顔になれないのだと思っていた。
その時が来るまでは・・・。
翌日、ベリング艦長は合流海域にフォレスタルが到達したのを確認し、機関停止の命令を出した。
そして、数十分後には待望の給兵艦ダイアモンド・ヘッドがフォレスタルに横付けされる形で停船する。
艦載クレーンなどをフルに用いて、フォレスタル乗員の食糧などの物資、そして攻撃機の武器弾薬がフォレスタルへと運ばれる。
その様子をアイランドから艦魂“フォレスタル”も見守っている。
「“フォリー”司令、お久しぶりッス!」
声をかけられて“フォレスタル”が振り向く。
彼女の後ろには、短めの茶髪に灰色のツナギを着たメカニックといった格好の少女が笑顔で敬礼をしていた。
“フォレスタル”も、彼女の顔には見覚えがあった。
「あら、いつ来るかと思ってたら。 おつかれさま、ダイア。」
“フォレスタル”が呼んだダイアと言う少女は、今回空母フォレスタルに物資を調達するために派遣された給兵艦ダイアモンド・ヘッドの艦魂だ。
「すいません、ちょっと迂回してきたんで遅れたッス。」
苦笑すると、ダイアがオイルで黒ずんだ頬を拭いながらフォリーに訳を説明した。
「まあ、無事にここまで来れて何よりよ。 あなたが運んできた武器弾薬はこれから、豪快かつ大事に使わせてもらうわ。」
すると、フォリーの言葉を受けてダイアが何かを思い出したように表情を変えた。
「あ、そうだ。 今回運んできた武器弾薬について、司令にも見てもらいたい物があるッス! ちょっと、付いてきて欲しいッス!」
「あ、ちょっと、ダイアっ!!?」
ダイアがピューンと風のようにその場から居なくなると、フォリーも引っ張られるようにそれに続いた。
二人が着いた場所は、ダイアモンド・ヘッドの艦内。
これからフォレスタルに運ばれる予定の物資が納められている倉庫の一角だった。
「うわぁっ・・・いつになく散らかってるわね・・・。」
高く積み上げられたコンテナや、乱雑に置かれた様々な機材や軍用物品を見て、フォリーが思わず苦笑して呟いた。
「司令の飛行甲板やハンガーが綺麗すぎるだけッス! それにこれでもずいぶん、綺麗な方ッス!」
不満そうにフォリーに言うダイア。
これでも綺麗という彼女の言葉を聞いて、普段の様子を想像しようとしたフォリーの思考回路は一時フリーズした。
「さて、あったあった・・・これッスよ司令。 ・・・フォリー司令? どうしたんッスか?」
いつの間にか目が点になっていたフォリー、呼びかけるダイアの声にようやく正気を取り戻す。
「え、ああいや・・・何でもないわ。」
慌てて弁解するフォリー。
ダイアも「ならいいッスけど。」言いながら、コンテナの一つのロックを解除する。
すると、ギギギギと重たい音を上げながらコンテナが開かれる。
その中に入っていたのは・・・。
「爆弾・・・ね。」
「そうッス、爆弾ッス。 司令の攻撃部隊が1,000ポンド爆弾が不足してるということを聞いたッス。
だから旧式ッスけど、こうしてなんとか残っていたコンポジッション爆弾を持ってきたッス!」
「そうなんだ。 ありがとうダイア・・・この古臭く老朽化した爆弾のおかげで、作戦が順調に進められるわぁ。」
これで弾薬不足に悩んでいた艦長を始め、フォレスタルの幹部達の頭を悩ませる原因が一つ消えた。
山のように届けられた爆弾を見て、フォリーが安堵と感謝の言葉をダイアに送った時だった。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「「・・・・・・えっ?」」
二人の声が重なった。
「老朽化した・・・」
「・・・爆弾ッス。」
その時、フォリーの頬を一筋の汗がつつーっと流れた。
「ちょおおぉっっっと待ってええぇぇっっ!!」
奇声に近い絶叫を上げながら、慌ててコンテナの中を再び覗きこむ“フォレスタル”。
その突然の慌てように、ダイアは思わず後ずさりをして目を丸くする。
「な、なによこのアンティーク!! こんなの頼んだ覚えはないわよぉ!!
到着してすぐならクーリングオフだわ、ダイア・・・悪いけどこれ、持って帰って!」
「な、何言ってんッスか、フォリー司令!!?」
「何言ってんッスか?じゃないわよダイア! こんな錆に錆びましたって私に訴えかけてくる爆弾、使えるわけ無いじゃない!」
涙目になりながら、フォリーが続ける。
確かに、フォリーの指先には所々赤錆びに浸食されている爆弾が・・・。
「お、おちついてください司令ッ!!」
ダイアに抑えられて、呼吸を整えるフォリー。
「たしかに、古い爆弾っていうことは否定しないッス! でも、これは私たちがちゃんとテストしたッス!
だから、性能には問題ないッスよ。」
「うぅ、そうだけど〜・・・事故とか起きないのか心配だよぉ。」
フォリーが心配するように、コンポジッション爆弾は当時使われていた高性能のH6爆弾より、耐熱性や耐久性が劣る。
クルーが誤って落としたりした場合、老朽化していた場合には衝撃で爆発する危険さえもある。
「フォリー司令、気持はわかるッス。 でも今、H6爆弾はどの部隊でも足りないんッス!
それどころか、このコンポジッション爆弾さえない部隊だってあるらしいんッスよ!
政府も、新しい爆弾を作るには古い爆弾を使ってしまわなければいけないと悩んでるッス!
司令、お願いッス! ここは我慢してくれないッスか?」
それを聞いて、フォリーは考え込んだ。
自分達軍艦は、国を守るために存在するのだ。
今、アメリカはベトナム戦争の軍事費をどうにか工面しようとしている。
今回の戦いは、直接アメリカが危機に瀕していると言う訳では無いのだが、世界を腐敗させる経済体系
《共産主義》がベトナムに広がれば、このベトナムの人々は近い将来必ず苦痛に喘ぐ事になる。
そして、拡大した共産主義はやがてアメリカの直接的な脅威となり得るだろう。
そうならない為に、フォレスタルは戦っている。
(やっぱり、それくらいは我慢しないといけないのかな・・・)
それに、もう一つ彼女の頭を過ったこと・・・。
もし爆弾が無い部隊は、これからどうやってこのベトナム戦線を戦い抜いて行くのだろうか?
きっと、搭載されている機関砲などで攻撃したり、最悪の場合ずっと待機を命ぜられているかもしれない。
フォリーは、昔フォレスタルの艦載攻撃部隊のベテランパイロットが言っていた言葉を思い出した。
「兵士が最も怖いのは、戦って死ぬことじゃなくて・・・武器を失い、攻撃手段を奪われ、戦えなくなること。」
そう自分に言い聞かせるように小声で呟いたフォリー。
「ん? 何か言ったッスか?」
「いいえ、何でもないわ。」
数度自分を落ち着かせるように深呼吸をするフォリー。
彼が言っていたことから考えて、武器がある分まだ自分達は幸せな方なのかもしれない。
多分、マケインの曇った表情は戦えなくなることへの恐怖があったのだろう。
親友や妹たちとこれからのアメリカを支えて行かないといけないのに、これくらいの危険性さえも背負えなくてどうする!?
それに、ここで追い返してはダイアやダイアモンド・ヘッドのクルー達の苦労が水の泡である。
考え込んだ末に、彼女の結論は決まった。
「わかったわ。 確かに受け取ったわ、ダイア。」
「本当ッスか!! ありがとうございます、司令!!」
そう言って、ダイアが持っていた書面にサインをして、喜ぶダイアと握手を交わした。
再びフォレスタルの甲板に戻って来た二人。
既に作業の殆どが終盤に差し掛かり、先ほど二人が言い合っていた爆弾も、フォレスタルへと運ばれて来た。
この後ダイアは、フィリピンの米海軍基地へと帰港する予定だと言う。
クレーンが全て格納され、ダイアモンド・ヘッドとフォレスタルの別れの時間が近づく。
二人はフォレスタルのデッキ上で、堅く握手を交わすとお互い笑顔を向けあう。
「じゃあね、ダイア。 今回はありがとう。 よい航海を!」
「こちらこそッス、フォリー司令。 妹さん達と同じように、私も司令の活躍を期待してるッス!」
敬礼をして言うダイアの体が淡く光る。
次の瞬間、彼女の姿はフォリーの目の前からは消えていた。
やがて、ダイアモンド・ヘッドが汽笛を鳴らしながら少しづつ動き出す。
フォレスタルの甲板上では、マケイン達パイロットやデッキクルー達が手を振りながら別れを惜しむ。
艦橋ではベリング艦長らが、敬礼を以て彼等に敬意を表した。
ダイアモンド・ヘッドの後姿が、徐々に小さくなっていく。
見送りを終えたクルー達がぞろぞろと次々に持ち場や艦内へと戻っていく中、フォリーだけはずっとその場に佇んでいた。
「ん? フォリーじゃないか、そんな所で突っ立ってどうしたんだ?」
すると、そこへ彼女と同じく見送りを終えたマケインが現われた。
彼はズボンにシャツ一枚と言う姿、どうやらトレーニングルームで自らを鍛えていたらしい。
「いや・・・ただ・・・。」
「・・・?」
「マッキー・・・。」
呼びかけられてマケインが不思議そうに彼女を見つめる。
すると、フォリーはマケインの方を振り向くと無邪気では無く、心に何か据えた物を作ったという笑顔で、彼を見つめた。
「・・・私も、がんばるからねっ! この戦争を、早く終わらせるからね!」
そういう謎めいた言葉を言うと、“フォレスタル”は艦内へと姿を消した。
マケインは視線を変えると、オレンジ色の光を放つ夕日と、それに彩られた太平洋を見据えた。
これから自身に待ち受ける苦難を、覚悟の目で見つめるように。
1967年7月28日の夕日が終わろうとしている。
次に反対側の海面から朝日が姿を現した時、マケイン達は今回補給された爆弾を抱えて、
愛機と共に再びベトナムの空を飛ぶ事になっている。
現在日時、7月28日午後6時30分
悲劇のその時まで
あと16時間20分
どうも御無沙汰しております、JINです。
最初に執筆を始めて連載中の作品《海原の大鷲》をちょっぴりお休みしての、投稿となりました。
私の作品でこちらを最初にご覧になられた方は、そちらの方もよろしければご覧くださいませ。
今回のこの作品《波乱万丈艦魂記1 空母フォレスタル〜そして彼女は平和を知った〜》ですが・・・。
この話は前書きにもありましたが、実話をモデルにした《《フィクション》》(!!強調!!)です。
ところどころ実話と違うところがあるかもしれませんが、そこは了承してください。
ちなみに、これに出てくるジョン・マケインなる人物ですが、もちろん現在のアノ人です!
この時は、海軍少佐で攻撃機の一パイロットだったのに、人って分からないものですね。
それでは、今日はこの辺で ノシ
ご意見やご感想をお待ちしています。
P・S
実は、「小説家になろう」のサイトにJINと言う先生がいらっしゃるようです(ぇ
私は、《全角》でJINです。
もうひと方はどうやら《半角》のようですので、検索される場合はお間違えの無いようにご注意ください。
もし間違われたりした方には、「すいません、私は《全角》でお願いします。」としか言いようがないです(ぉ