三話
八月に入り、当初の予定通り、みんなで被服部の合宿をすることになった。
「ここが家の別荘、掃除とかはお手伝いさんがやってくれたから、好きに使ってくれてもいいけど、空海はあんまりエッチなことしないようにね」
「エッチなことって何だよ。俺は何もしてないだろ」
全員が目を逸らす。
当然のように全員にそういうことしてるよね。
「ほら見なさい。あんたは一人部屋で、隣には誰もいないからね」
「わかってるよ。別に何かしようなんて思ってないから」
陸くんは一人か、これは何か期待できそうだ。
さっそく合宿ということを無視して、海で遊ぶことになった。
「あれ、夏希ちゃん、そんな水着持ってたっけ?」
「兄さんに買い物付き合ってもらって買ってきたんだ」
何それ、私何にも知らない。
ってかなんで水着を買うのに男子を一人連れて行くの?
それってほぼ告白してるようなもんじゃない?
着替えが終わり、女子全員の水着をお披露目した。
これが被服部らしい最後の行動だった。
それからは被服部らしからぬ遊びで時間を過ごし、結局ただの旅行のまま夜を迎えた。
結局それぞれが一度だけ、陸くんと個別にイベントをこなすだけで終わってしまった。
「流石委員長、バーベキューの準備まであるとは思ってなかったよ」
「風音さんがみんなに内緒でおもてなししたいって言ったのよ」
「部が存続してくれて嬉しくて」
まだその設定は引きづってるんだ、もう三か月経ってるし、誰も気に留めてないのに。
「そっか、日向の案だったのかありがとうな」
「そうですよ。だからもっと褒めればいいです」
「サンキューな」
この場合褒めるのは、日向ちゃんの我が儘に応えてくれた委員長じゃないの?
バーベキューが美味しいから何も言わないけど。
それにしても、誰一人水着から着替える気がないなぁ、もう暗いから海に入ることなんてないのに。
バーベキューの後には花火をした。
夏の合宿としては肝試しがあれば完璧だったな。
「ねえ、星野さん、あの二人っていい感じじゃない?」
指さす先にいたのは陸くんと夏希ちゃんだった。
二人は仲良さそうにロケット花火を海に向けて発射している。
「意外かもしれないけど、私海空の事好きだったんだ」
なんでいきなりカミングアウトしてきたの?
っていうか、意外でもなんでもないくらいにはわかりやすかったよ。
「でも、あの二人の間には入っていけないなって思って」
「告白はしないの?」
「うん。私みたいのに告白されても困るだろうし、あいつには伝えない」
それならなんで私に伝えたんだろう。
「ごめんね、こんな話聞かされても迷惑だよね。誰かに言わないとあいつに告白しそうになっちゃうんだ」
「そうなんだ」
もう告白しろよ。
悲劇のヒロインぶってるけど、私の知る限り何にもアクション起こしてないよね?
よくわからないまま、委員長が陸くん争奪戦から勝手に脱落した。
やっぱり強敵は夏希ちゃんか、自宅でも学校でも常に一緒っていうのはやっぱり強いな。
一度風呂場に絶叫が聞こえただけで、合宿終わりを迎えた。
残念ながら陸くんと鉢合わせしたのは私じゃなかった。
†
「姫、丁度いい所に帰って来た」
「何、どうかしたの? 私今疲れてるんだけど」
「実はな、十月に転勤が決まった」
「えっ、ちょっと待って、流石に早すぎない? 今まではどんなに早くても一年は転勤なかったじゃん、お父さん何かやらかしたの?」
「やらかしたのは父さんじゃないんだけど、その尻ぬぐいに行かないといけないんだ。そこにはお前が卒業するまでは居れるから」
そうなると、もう時間ないじゃん。
クリスマスを目標に据えてたのに、それが全部台無しだ……。
「悪いな、もし嫌だったら卒業するまでここに――」
「平気、それでいいよ」
よく考えたらこれでいい。
別れ際の告白って、よく考えたら漫画っぽい。
こういうシチュエーションだったら、告白の成功率も上がりそう。
遠距離恋愛からのアフターストーリーも悪くない。
これは明日被服部の面々に連絡しよう。
陸くんに私がいなくなるって状況を理解させて『俺の中で大事なのは姫、お前だけだ。俺だけの姫になってくれないか』と言わせて見せよう。