2話
漫画の様な出会いに憧れる星野姫が転校してから一月後、ゴールデンウィークの前日。
陸くんと同じ部活に入ったまでは良かった。
でもまさか、厄介な人達が一堂に会することになるとは思ってなかった。
妹兼幼馴染、雪村夏希ちゃん。
元気っ子の後輩、風音日向ちゃん。
姉兼幼馴染、雪村小春先輩。
委員長の桜井鈴音さんがいないのが救いだけど、五人ってかなり少なくない?
被服部ってこんなに人気ないの?
「皆さんありがとうございます。こうして被服部が存続できたのは、皆さんのおかげです」
この一ヶ月確かに大変だったけど、部として存続させる必要はあったのかな?
日向ちゃんが涙ながらに感謝を伝えてるけど、活動内容って陸くんを着せ替えたいって内容だったよね。
「明日からゴールデンウィークだし、部員でどっか遊びに行こうぜ」
部活しようよ。
初日から遊ぶって本当に存続させた意味はあるの?
「じゃあ、明日は昼から隣町に行こうよ。買い物したいし」
「姫ちゃんはどこか行きたいところある?」
「私も買い物したいからそれなりに大きい所がいいな」
ダメダメ、油断してるとこ輪から外れてしまう。
ギャルゲみたいな状況とは言え、私の方も漫画みたいな状況になってるんだし、この状況でも陸くんは物にしたい。
†
翌日になり、全員で隣町にあるショッピングモールに向かう。
ここで、なんとか陸くんと距離を縮めないと、夏ってイベントには共通ルートじゃなくて個別ルートで入りたい。
「私とお姉ちゃんはちょっと洋服見てくるね」
「日向は先輩に似合いそうな布とか見てきます」
折角来たのに個別行動? それなら一緒に来た意味はあるの?
「陸くんはどうする? 邪魔じゃなかったら一緒に行きたいんだけど」
「ゲームとか漫画見に行くんだけど、姫はそれでいいのか?」
「いいよ。私も好きだし」
他の人達に個別ルートへは行かせない。
ここは主人公との二人での買い物イベント。
漫画とゲームなら昔からやってるから大抵の話についていけるし、この買い物イベントは私の一人勝ちだ。
「陸くんは普段どんなの読むの?」
一通りの作品には読んでるし、陸くんに合わせて似た系統の作品を上げて話題を広げる。
「王道の少年漫画が多いかな。後は話題になったりする作品の物をたまに見る感じ」
にわかだった……。
いやいや、ジャンルだけで決めつけちゃダメだ。
その系統を深く愛している可能性もある。
「好きな作品ってある?」
本屋に向かう途中にいくつか聞いてみたけど、めっちゃ浅かった。
漫画と言えばそれだよね。って作品しか出てこない。
でも広かったから話題には困らないレベル。
漫画ネタを振ればちゃんと反応してくれる。
でもね、それだと仲が深まるほどの会話にはならないんだよな。
だって、全部大半の人が知ってるんだもん、私じゃなくても話弾むよね。
結局、途中で雪村姉妹と日向ちゃんとエンカウントしてそこまで好感度が上がることはなかった……。
これは二人の何か共通の秘密を共有しないとダメだ。
そう思い立って二か月、季節はすっかり夏になってしまった。
女子の水泳の時間。
「えっ?」
「夏希ちゃん、どうかしたの?」
「ううん、えっと何でもない」
不審な動きをする夏希ちゃんを見て、ロッカーの中に誰かいることがわかった。
あからさまに着替えがぎこちない。
こっそりと更衣室の裏側で耳を澄ましてみることにした。
「兄さん何してるの、女子の着替えを除くなんて最低だよ」
「本当にごめん、忘れ物に気付いて更衣室に入ったら女子が来たんだ」
着替える前なら出て行くって言えばいいと思う。
隠れたら完全に覗き魔だし。
「ここを使ってるのが私じゃなかったら、大ごとだよ」
夏希ちゃんでも犯罪ですけどね。
「それより私が着替えてるの見てないよね?」
「見てません」
「だったらいいよ。さっさと戻らないと授業遅れるよ」
「悪いこの埋め合わせはいつかするから」
「駅前の特大パフェで手を打つよ」
自分でパンツを無料で見せた私が言うのもなんだけど、裸を見られたかもしれないのに、千五百円のパフェって安すぎじゃない?
「今月小遣いピンチだな」
犯罪歴が付いたかもしれないんだからそのくらいだったらラッキーだよね。
それよりも、私もお互いで共有する秘密が欲しい。
裸を見せればいいの? ってか、なんで私のロッカーにいなかったの? 私ならお金取らなかったのに。
ここで私の所にいなかったってことは、陸くんにとって私はヒロインにはなれないのかな……。
見られたのもパンツだけだし、いや、諦めるのはまだ早い!
裸見られたからって、メイン確定じゃない。
裸を見られなくても結ばれる可能性もあるから、まだ諦める段階じゃないはずだ。
確か日向ちゃんが夏休みに合宿を計画していたはずだ。
委員長の家が保有している海に近い別荘、そこで他の人よりも一歩リードする。
トイレ中でも着替え中でもどんとこいだ! 私に見られて困るところはない!