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八発目! 商人暗殺編Ⅱ


「クソ……どうするか」


 俺たちを逃がす気はないようだ。まぁボスを殺されたんだから当たり前か。


「何か……ここには他の乗り物は無いか?」


 外を見る限りは、俺たちの真っ黒のトラック以外に乗り物は見当たらない。


「なさそうだが……」


 いや、でも待てよ。さっき比奈ちゃんは何の変哲もない部屋から無反動砲をとってきたよな。もしかしたら、地下とかガレージとかがあれば装甲車とかあるかもしれない。


「比奈ちゃん。この建物で車庫みたいな建造物は無かったか?」


「ああ、そういえばなんかシャッターがあった気がするぞ」


「よし、そこに行こう。どっち方面にあった?」


「たぶん……あっち!」


 本当かよ!?なんか信じられんな。


 まぁいい。ここは比奈ちゃんを信じよう。


「急いで行こう。味方が押されてるとは思えないけど、早く行くに越したことはない」


「わかった」


 〇


 比奈ちゃんが教えてくれた方角に向かって走った結果、一つの扉にたどり着いた。


「ここ……かな」


「たぶん」


「じゃあ開けるぞ。一応銃は構えておいてくれ」


「わかった」


 右手で銃を持ち、左手で鉄製のドアを開ける。


 なんと、そこには目的の装甲車はなく、なんなら車庫でもなかった。


 そこにあるのは棚に掛かった銃、防具、手りゅう弾などなど。ついでに、防具を着ている最中の男が8人。


「うわぁ!!!」


 急いで扉を閉める。


「見た?」


「見た見た」


「どうする?」


「殺す」


 怖いわその即答。


「それ以外に何かあるのか?」


「一旦ここから離れよう」


「なんで。あいつらが出てきたら背中を撃たれるかもしれんぞ」


「たぶんだけど、あいつらは当分ここから出てこないと思う」


「その根拠は」


「あいつらが俺たちを警戒してるから」


「それだけか?」


「それだけだ」


「……わかったよ。優君を信じる。ただ、私が撃たれたら一生責任とれよ」


「わかった」


「そうじゃなくても責任をとれ」


「はいはい」


 俺たちは来た道を引き返して、比奈ちゃんが予想した反対側に向かった。


「ほら、撃ってこなかっただろ?」


「そうだな」


 こっち側にも鉄扉があった。


「比奈ちゃん、どうする?」


「開けるしかないだろ。でも、中に敵がいた場合はさっきみたいに逃げるんじゃなくて戦うぞ」


「わかった」


 銃を構えて扉を勢いよく開ける。


「お、今回は当たりみたいだな」


 そこは外につながっている車庫で、装軌装甲車が一台だけ置かれていた。


「これ動くかな」


 車体上部のハッチを開けて、装甲車に乗り込む。


 どうやらこの車両は鍵が付いていないものらしい。つまり、燃料さえあれば動くという訳だ。


 一旦外に出て、エンジンを始動させるべくクランクを回す。


「比奈ちゃんは主砲の弾があるか見といて」


「わかった」


 クソ……なかなかかからないな。コイツ、整備されてなかったのか?


「優君。どっちが主砲の弾?」


「右のヤツ」


「わかった」


 クソ、まだかからないのか。


「優君。装填終わったよ」


「何発あった?」


「ちょっと待って、確認する」


 ああもう!創園のヤツ、ちゃんと売りモンは整備しておけ!!!


「5発ずつの弾倉が6個あったから30発」


「そうか」


 ああ!!!そ・ろ・そ・ろ・か・か・れ!!!!


「あああぁぁぁあああ!!!」


 エンジン始動が一筋縄ではいかず、ムカついた俺は思いっきりクランクを回した。


 ブロロロロ


「かかった~!!!」


 もうこれだけで疲れた。


 しかし、こうしてはいられない。


「比奈ちゃんは砲手頼む!俺が操縦するから」


「え!?でも撃ち方わからないんだけど!」


「機関部の横についてる赤いボタン押しこめば発射されるから」


「こうか?」


 バンッ


「おおい!!!今撃つんじゃねぇ!!!危ないだろ!!!」


 俺を殺す気か全く。


 でも、比奈ちゃん機関砲誤射事件は一旦お預けだ。今は味方の援護に行かなくては。


「突破するぞ!!!」


「ああ、優君行ったれ!」


 クラッチをつなぎ、アクセルをべた踏みする。


 まだこのレバー操作にはなれないが、なんとか制御はできている。


「優君。裏庭に行ったらこれは撃っていいのか?」


「ああ、ちゃんと狙ってな。味方に当てちゃダメだからな」


「わかってるよ」


 この装甲車はどうやら型落ちのもののようだ。恐らくこれも深の兵器だとおもう。


 たぶんだが、創園は深の軍関係者から兵器を横流しさせて、それを販売していたんだろう。この邸宅にある兵器は今のところ100%が深製の兵器だからな。


 車庫から出て、ほんのわずかで裏庭に出た。


「比奈ちゃん!この装甲車で味方の盾になるから、それまで敵を倒しておいてくれ!」


「わかった!」


 装甲車で味方の方へ向かう。


 どうやら味方はこの装甲車が敵のものだと思ったらしいが、攻撃をしてこずに、あぜんとしている。


 しかし、比奈ちゃんが敵に向かって射撃したことで、俺たちが乗っているとわかったようだ。


 装甲車を停止させて、操縦席から席を外し砲塔後部のハッチを開ける。


「驚かせてすまん!この装甲車を盾にしてくれ!」


「感謝します!」


 俺も攻撃せずに車内に籠るなんてことはできないので、砲塔に移動する。


「比奈ちゃん。交代してく―――」


「ハッハッハッ!!!散れ散れぃ!!!」


 ヒィ!!!この人サディストです!


「比奈ちゃん?交代しようか!?」


「心配するな!こっちは私に任せろ!」


 さっきの発言があると任せるのが怖いんだけど。と言うか敵が可哀そうになってくるんだが。


 しかし、比奈ちゃんは俺に砲手を譲る気は無いようなので、仕方なく主砲の横についている機銃を撃つことにした。


「まだまだァ!!テメェらぶち〇してや―――」


 主砲発砲音が止む。どうやら砲弾がなくなったらしい。


 しかし、比奈ちゃんはまだ発射ボタンをカチカチと押し続けている。


「おい!優君!次弾装填しろ!」


「もう砲弾尽きたよ!!!」


「え?」


 どうやら気づいてなかったらしい。


「ご、ごめん。つい熱くなっちゃって」


「いやいや、本当に恐ろしかったよ。通信手座席に機銃付いてるからそっちから援護射撃頼む」


「わかった。本当にすまん」


 やっと比奈ちゃんが落ち着いたようなので、俺も精密射撃に移行する。


「優君!2階に対戦車兵器持ち!」


「了解」


 2階正面にいる無反動砲を持った人に照準を合わて射撃する。


 対戦車兵器持ちは一人しかいなかったようで、窓から様子を窺っている人は他に居ない。


「よくやった」


「おう!」


 その調子で一人ずつ精確に撃ちぬいていく。


 10数人倒したところで、敵は散り散りに逃げていった。


「おお、逃げてったか」


 比奈ちゃんは砲塔のハッチを開け、そこから上半身を乗り出した。まるで自分の手柄で勝利したと言わんばかりの表情をしてる。


 さすがにあいつらも機関砲を乱射する恐ろしい中尉にこれ以上戦闘を継続するのは不利だと悟ったようだ。


「どうしますか。追って全員始末しますか」


「いや、いい。あいつらは放っておく」


 こっちの中尉にも多少の慈悲はあるようだな。


「では、私たちはトラックの方に―――」


「ああ、ちょっと待て」


「どうかされましたか?」


「トラックはさっき爆破されたんだ。だからこの装甲車で帰る。少佐への土産だ」


 極悪な表情を浮かべてそんな事を言いやがる。恐ろしいったらありゃしない。


「この装甲車は4人乗りだからあと二人は中に乗れるぞ」


「いえ……私たちは遠慮しておきます。私たちは砲塔の手すりに掴まっておきますから」


「そうか?遠慮しないでいいんだがな。まぁそういう事なら別にいいが、優君。出発させてくれ」


「あいよ」


 〇


 あれから3時間かけて帝都に戻った。途中でガソリンを補給したり、履帯が外れたら直したり、とにかく大変だった。


 それより、今は俺のお尻の方が悲惨な状態だったが。


 あの装甲車の設計者は乗る人の事を全く考えていないらしい。操縦席や通信手座席はただの鉄の板に1センチ程度のクソ雑魚クッションが固定されているだけだった。


 比奈ちゃんは俺の隣の通信手座席に座ってきたが、5分もしないうちにクッションがフカフカの車長席に戻っていた。


「任務遂行してくれたようだね、礼を言うよ」


 今、俺たちは陸軍司令部情報部部長室の広沢少佐のもとを訪れている。


「いえ、礼には及びません」


「そんなことより都田島さんの事を教えろって顔に書いてあるよ」


「そうですか?まぁそう聞こうと思ってましたけど」


 相変わらずここでは強気だな。比奈ちゃん。


「心配するな。その話はこっちでも承認を得ることができた」


「それはよかったです。陸軍はどんな代償を支払ったんですか?」


「え?優君、どういう事?」


「君すごいね。なんか知ってるの?」


「いえ、ですが初めから予想はしてました」


「だから、なんの話?」


「さっき外で警察と何人かの軍人が話してただろ?」


「ああ、そういえばなんか話し合ってたね」


「たぶん、スパイ疑惑とか本当にスパイだったか、っていう事ですよね?少佐殿」


「正解だ。君たちが行ってから私は都田島さんをここに連れてくるよう命じた中佐と会っていたんだ」


「その中佐が裏でティニャードと繋がっていたという事ですか」


「端折って言ったらそうなる」


 今回は創園も殺せたし、ティニャードと裏でつながっている士官も逮捕できた。ラッキーデーだな。


「ま、まぁ都田島さんが皇帝領に移動できるのであれば安心ですね。さ、優君。私たちももう行こうか」


「ん?ああそうだな。じゃあ失礼します」


 〇


「優君」


「何?比奈ちゃん」


「あまり広沢少佐には興味を持たれない方がいいぞ。興味、というか」


「そうなのか?まぁでも今回は俺たちから会いに来たんだから。それにもう会う事もないだろうし、仕事の関係は今日で終わりなんじゃないかな?」


「いいや、少佐は使える駒ならどんな手段を使ってでも会いに来るぞ。そしてまた今日と同じように仕事を依頼する。それが諜報部のやり方だ」


「諜報部?」


「そうだ。広沢少佐ってのは偽名なんだ。本名は私も知らんが、あの人が諜報部の人間ってのは確実だぞ」


「へぇ……それはまた恐ろしい」


 二度と仕事を依頼されないように願っておくか。


「じゃ、ホテルに戻るか。今日は疲れただろ」


「まぁな。肩も凝るし、お尻が痛い。比奈ちゃんはこの痛みわかってくれないよなぁ」


「ま、まぁまぁ。今日は私がとことん優君の身体癒してやるから、それで勘弁してくれ」


「体の隅から隅まで頼むよぉ?中尉殿」


「そのキモオヤジみたいな言い回しはやめてくれ」

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