りろーど!
登場キャラ
・池田比奈…身長160センチ。髪は短め。19歳。中等学校を卒業したのちに陸軍士官学校に入校して、現在の位は中尉。引田上等兵とは中等学校時代から交際をしている。
・引田優…池田比奈とは中等学校時代から付き合っていて「比奈ちゃん」「優君」と呼び合う仲。教育隊を卒業したばかりだが位は上等兵。射撃が得意で部隊内の『特級射手』である。
・東堂…引田と教育隊時代の同期。戦車兵志望だったが偵察部隊に入れられた。階級は兵長。
帝暦2910年。11月。
ティニャード王国北部の地方都市『シベリル』の近郊。季節が冬という事もあって地面には雪が積もっていた。
「あともう少しでシベリルだ!気合入れろ!」
降り積もった雪によって立ち往生していた輸送トラックを、数人の兵士が押して脱出を試みていた。
白色のコートに白色のヘルメット。背にはボルトアクション式のライフルを背負っていた。
約10分間雪と奮闘していたトラックと兵士たちはその努力が報われたのか、やっと雪から脱出できた。
「よし!みんな乗り込め!もう10分も時間をとられちまった。急ぐぞ!」
外に出ていた兵士たちを呼び戻す。
今回の任務は、シベリルで怪我をした負傷者たちを手当てするのが目的だ。相手は一般人だから負傷者がいたとしても大した怪我は無いと思うが、司令から命令が来てしまったので向かわない訳にはいかない。
「にしても、急にシベリルに行け!なんて無茶な事言いますよね、司令も。相手はたかが一般人でしょう?そんなに警戒しないでもいい気がするんですが」
トラックを操縦している下士官が急にそんな事を言い出す。
「まぁな。でも、相手は暴徒と化しているという電報も入ってきている。いくら相手が一般人だと言っても気を抜くなよ。もしかしたら何か武器を持っている可能性も否めないからな」
「了解です。あ、もうシベリルですよ」
視線を下士官からフロントガラスに戻す。そこには作戦会議の時にもらった資料とまったく同じ景色が広がっていた。街に何か良からぬことが起きた、なんてことはなさそうだな。
「そのままシベリルに入ったら街の中央より南側に教会がある。そこを我々の軍が拠点にしているらしいから、教会に行くぞ」
「わかりました」
トラックで『シベリル』と書かれた看板をそのまま直進して一気に街の中央へ……ちょっと待て。
「停止しろ」
「え?」
「いいから」
戸惑う操縦士に上官命令を下す。
「わ、わかりました」
トラックを停止させて、さっきの一瞬の間に見えたモノを確認するべくトラックをおりる。
「おい。ついてこい。君たちはここで待機だ」
さっきトラックを押して疲れ切った兵士たちには待機命令をだして、トラックの操縦士だけを同行させる。
「はい!」
トラックの操縦士は座席下に置いてある短機関銃を手に取って、車を降りる。
トラックを降りて二人で黒ずんだ建物に向かう。
「うわ……これは……火事ですかね……」
トラックの操縦士はそう言う。確かに一見は火事で焼け落ちた建物だ。出火元を限定しなければ、だが。
「これは放火だよ」
「え?もしかして……暴動で焼け落ちたとか?」
「いや、家の中を見てみろ」
操縦士に家の中を見るように催促する。
「うっ……こ、これは……!」
そう。中にあったモノとはつまり……
「だ、誰がこんなことを……」
声が相当震えている。こんな現場を見てしまえば納得できる反応だが。
「たぶんだが、こっちに派兵された自軍の兵士だろうな」
「で、でも!これはあまりにも……残酷すぎる!相手は一般人ですよ?!」
「……」
何も言い返せない。それはこの行為に及んだのが自軍の兵士だからではなく、操縦士の言ったことが紛れもなく正論だったからだ。
しかし、内戦や戦争とはこういうものだ。そう割り切るしかない、と心の中で操縦士に言った。