表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/110

気持ちがついていかない

 「叩き直してやる」って物理かよ!!

 なんて心のなかで突っ込んで見たものの、目の前の剣先をみて口に出せる訳ではない。


 怖い。

 だって、今まで生きてきた中で刃物を向けられた事などない。

 何だかんだ言いながらも、命をかけて生きていた訳ではないのだから。


 しかしそれと同時に、ある思いがでてくる。

 何時だって言われていた言葉だ。

「死ね」「帰れ」「消えろ」「キモい」「死ねばいいのに」等々さまざまな言葉をいわれてきた。


 その言葉を言われる度に思っていたのは、『そこまで言うなら殺してくれればいいのに。』と。

 毎日、毎日、自分の死を願っていた。

 そこまで願うなら殺してくれればいいのに、本気で思ってないくせに。簡単に口にしやがってと殺してくれない口先だけの他人を恨んできた。

 実際に刃物を手にして実行する気もないくせに、と。


 今まで思ってきたことを目の前の人は行動に起こしている。


 そう思ったら、私は思わずわらってしまった。

 この人は、願いを叶えてくれるんだ。


 そう思い、笑ってしまうほど、もう自分の感情がわからない。

 恐怖と驚喜と不安と諦めと……もう、何だかよくわからない。

 わからないから、笑ってしまう。

 叫んでここから逃げ出したい、不安で泣きたいし、怖くて足が震える。

 でも、ここ何年も願ってきたことが叶うなら、逃げるは愚策である。


「なんだ。殺してくれるんだ。」

 思いの外、落ち着いた声が出る。

 震える足に鞭をうち、一歩ずつ前に進む。

 抜刀した人は、まさか自分から近づいて来るとは思ってなかったのだろう。

 驚愕を浮かべながら私を見ている。


「殺してくれるんでしょう?」

 微笑みながら尋ねてみると、驚愕が恐怖にかわる。


「ひっ。お、おかしいだろ。何がおかしいんだ。何で笑っているんだよ!!」


 もう、自分で自分を止められない。

 相手の目が恐怖に染まっていようとも、自分で蒔いた種なのだから。


「お、おい。そこまでにしとけ。い、行くぞ。」

 先に我に返ったもう一人に声をかけられ、抜刀していた人も慌てて剣を鞘にしまい、転びそうな勢いで悲鳴を上げて走り去っていく。


 その後ろ姿を眺めながら、安堵と落胆が入り交じるため息をこぼす。

 でも体は正直でその場にペタンと座り込んでしまった。


 死を目前とした恐怖をはじめて味わい、座り込んだまま小刻みに震える体を抱きながら、自然と静かに涙を落とした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ