他人の不幸は蜜の味
凜視点です。
自分の放った魔法に巻き込まれて吹き飛ばされ、ゴロゴロと転がる。
いたい。
腕が曲がってはいけない方向に曲がっているが、闇落ちのお蔭か、我慢できないほどではない。
我慢して顔を上げると、あの子は無傷だった。
なぜ?なぜ!なぜ!!
なぜ、みんなあの子の味方なの?
初めて会ったとき、あの子は私より年下なのに、冷静で落ち着いていて、物静かで、私とは正反対の子だと思った。
おろおろする男共を横目に、澄ました顔をして、何事にも慌てることはなかった。
私は自分の見せ方をよく知っている。男なんてちょっと上目遣いにみたり、可愛い仕草をしておけば簡単に引っ掛かるのだ。甘えた声で話ながら、ベタベタとスキンシップを取れば簡単に落ちるのだ。ほら、王子さまだって私の味方よ。
なのに、みんなあの子を見てる。守ってあげなきゃって目をして見てる。
その目は、私にも向けられて当然なのに。なんであの子の方が守られる対象になるの?
意味がわからない。
しかも、勉強ばかりでつまらない日常がまた始まった。
こんなはずじゃなかった。もっと派手なイメージだったのに。
周りに当たり散らして、先生役に問い詰めれば魔法を私も使えることがわかった。
魔法を人に向けて使うのはたのしい憂さ晴らしとなった。
あの子に次に会った時だって、偶々見かけて私は魔法が使えるのよって見せるために、イタズラを思い付いたのだ。
なのにあの子は、私が最近教えてもらって使えるようになった風と水の魔法より、高度なことを、あの澄ました顔をしてやっていた。
そして、はじめてみるあの子の笑顔は私の心をざわつかせた。
その後、自分の魔法でびしょ濡れになっているのをみて、声を掛ける決心がつく。
こんな状況を誰かに見られたら、絶対私のせいにされる。
私だったらそうするから。
それに、びしょ濡れになったあの子のことを見下すチャンスだったから。
とりあえず声を掛けるが、全然気にした様子もなく、声を掛けてやってんのに、ぞんざいな返事をされる。
私のことをバカにしやがって。私があんたをバカにしてんだよ。なんだその態度は!!
怒りに任せて魔法を使うと、通りがかった騎士に見咎められる。
また、あの子の味方をする。侍女たちも私側だと思っていたのに簡単に裏切る。
自分のことなのにまるで他人ごとのように澄ましているのも腹が立つ。
みんながみんな、私を悪者にしていく。
いったい何が悪かったの?
私は悪くないのに。
悪いのはみんなあの子なのに。
もとの世界では、みんな私に優しくて、私が困っていたら誰かがなんとかしてくれていたのに。
なんで私ばっかりこんなに不幸なの?
あの子のせいだ!!そう、私のせいじゃない。全部、全部あの子のせい。
ほら、私のためにあの子を不幸にしてきてよ。
考えるのは自分の不幸。それはあの子のせいなのだ。
周りにいる男共に「私が不幸なのはあの子のせいだ」と吹聴してまわる。
あの子に味方がいなくなればいいんだ!
なのに、なのに。
私の回りの男たちは、ヘタレだし、役立たずばかり。
なのに、なのに。
あの子のことで聞こえてくる話は、当たり障りのない話や仲良くやっているといった話ばかり。
今度こそ、あの子に絶望を味わわせてきてよ。
この間会った小さな男の子まであの子の味方だった。
アッシュ君に会った次の日、運命的に廊下をてくてくと歩いていく彼を見かけた。
声をかけようと追い掛けるが、間に合わず扉の中に消えていった。
出てくるを待ち伏せていたのに出てきたのは、あの子だった。
裏切られた気持ちで一杯で目の前が真っ暗になった。




