軍師になれる逸材を魔王軍へ引き抜く任務を受けた俺
魔王様に使え始めて何年になるだろう。
この世界の常識がわからない転生者のこの俺を
魔王様は何の偏見もなく重用してくれる。
今回の仕事は、在野に潜伏するある人材をスカウトすること。
この人材、"混沌者"という二つ名をもつ者だ。
彼が戦場に現れると、どんなに自軍が有利であっても
戦況をくつがえされて撤退せざるを得なくなる。
という厄介な人物だ。
故に(我々にとって)戦場に混沌をもたらす者という
意味で"混沌者"と呼ばれている。
そんな彼が仕えていた国から離れて野に下ったという噂を
聞き、ではスカウトしてこいってなったわけだ。
彼は知恵者、いわば軍師的なポジションになれる人材。
たぶんだけど
ゲームで言えば、スキル鬼謀とかスキル神算とかスキル軍師
とか持ってるんだろうな。
そんな"混沌者"のスカウトだが
実はもうすでに2回ほど訪問して2回とも断られてる。
1回目は、全力で魔王軍に入るメリット、魔王様がどれだけ
あなたを重要視しているか?ということなど、長時間説得したけど
あっさりと
「お断りします」
と断られた。
一切悩む素振りなく、あっさりと断られると
心折れるし、きれーすっぱりと諦めがつくもんだねぇ。
で、やる気が半分に減ったんだけど同僚に一回くらい断られたからって
諦めるのは情けないって煽られたから2回目にまた"混沌者"さんの
とこへ行った。
そしたら不在でやんの。
お留守番さんがいたんで、俺が来たことを伝えてくれって
言ったら後日手紙が来た。
色々と難しいことが書いてあったんだけど要は
「お断りします」
の一言で表現できる内容だった。
もはや、やる気ゼロどころかやる気マイナス状態で今に至る。
ぶっちゃけもう行きたくないんだけども
同僚で友人でもあるダークエルフの娘、ボニーが
「行きなよ!仕事だろ!次こそはちゃんと顔をあわせなよ!」
なんて煽る。
―娘といっても150歳。俺からしたらおばあちゃん的年齢だ―
―そんなおばあちゃん目線でしか見られない奴に言われても―
俺の答えは一つだ。
「いやや」
「魔王様に怒られても良いのかい?行きなったら!」
「いやや、2度あることは3度あるっていうくらいだから無駄や、いやや」
「何いってんだい!3度目の正直って言うだろう!」
「だから3度目の正直できれいさっぱりお断りされるんだから、いやや」
「何わけわかんないこと言ってんだい!さっさと行きな!」
とボニーにケツを蹴られて見送られた。
それで、"混沌者"の家に3度目の正直ということで向かっている。
はっきり言ってやる気無い。
どんなに知恵者といったって、どこにも所属してない、いわば無職だ。
そんな奴を3回も説得に行くって馬鹿らしいったらありゃしない。
3回もだよ?3回も。知恵者を3回も・・・。
3回。3顧。ん?三顧の礼。
昔学校の授業で習った。
古代中国で、知恵者を迎えるにあたり2回断られて
3回目の訪問でやっと迎えることができた
って、それを三顧の礼と呼ぶって。
知恵者。
三回目。
・・・キタコレ!来たんじゃない!奥さん!
そんなこんなで"混沌者"の家に到着しドアをノックする。
しばらくして出てきたのは、前回居たお留守番の小僧。
また、おらへんのかーい
と思ったら
「すいません。我が主人はお昼寝しております」
だってさ、昼間っから昼寝って良い身分じゃのう!
ふざけてんのか!って一瞬ちょっとイラッときたけど
ちょっと待て。
三顧の礼、俺の記憶が確かなら
3回目昼寝してたはずだ。
で、起こしましょうか?っていうのを
お疲れのところ悪いから待たせていただきます。
って言って、知恵者が目覚めて
これはご無礼を!ってなって、それから話がはずんで
迎えることができたんだよ。
知恵者。
三回目。
三回目はお昼寝中。
キタコレ!間違いねーよ!奥さん!
ということで、お留守番の、起こしましょうかの言葉を待つが
この小僧、何も言いやがらねー。
仕方ないから
「お疲れでしょう、起こしてしまうのは悪いですから
待たせていただきます」
って自分で言ってもーた。
そしたら小僧何を勘違いしたのか、俺を
"混沌者"が寝てる寝室に通しやがった。
眼の前にはスースー寝息を立てている混沌者がいる。
おいおいおいおいおい。
ん?ちょっと待てよ
確か、俺の記憶が確かなら、寝室で待つパターンもあったな
実は知恵者は眠ってるフリしてて起こす的な無礼を働かないか
探ってるってパターン。
知恵者。
三回目。
昼寝中。
寝室で待つ。
キタコレ!ねー奥さん!
もう起きるかな?もうそろそろ起きても良いんじゃない?
大丈夫よ、無理に起こすような無礼なことしないから。
まだかなー?まだかなー?
もうそろそろ起きても良いんじゃないかなー?
なんで起きないのかなー?
ってガッツリ3時間後"混沌者"が起きた。
寝たふりじゃなくって本当に寝てやがった。
ふわっと起きた"混沌者"が俺の姿を見るや否や
ビクッとした。
まぁ確かに寝起きに、顔は知ってるけどそれほど親しくない男が
眼の前に居たら驚くわな。
「え?ずっとここで待ってらしたんですか?」
"混沌者"が困惑した表情で俺に聞く。
「ハイ、ここで3時間ほど待たせていただきました」
俺はしたり顔で答えてやった。
さーこい、さー三度目だ、三顧の礼だ。
「キモッ」
"混沌者"の小さな声が一瞬聞こえたきがしたが
何て言ったか聞こえなかったので聞き流しといた。
「そ、それでご用件は?」
「ハイ、魔王軍にぜひお入りいただきたいと思いまして!」
「お断りします」
早々に家を追い出された。
最弱骨が魔王軍でなりあがる連載小説も書いています。
テイストは似た感じなのでよろしければ
こちらも
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