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翌日、クロトアはとランチをしたとき、この話をした。彼も気がついていたようだ。

「殿下には伝えたのか?」

「ああ、あれは魅了の魔法だとはっきりと伝えたがな。やきもちを焼いているんだなの一言で一蹴されたよ」

クロトアはため息をつく。

「俺は防御魔法を使っているから、この通り無事だがな。これからが大変になるぞ」

「どういうことだ?」

「エドは執務が手に着かなくなってきている。このままだと、今期の試験で成績を落とすだろうな」

「どうにかならないのか?」

「引き離すのが一番だが、同じ学園内で生活している以上、それは難しい。かといって、魅了の魔法をつかっているという証明ができない」

「僕が証言すれば済むことじゃないのか?」

「証言ではダメなんだ。それに、魅了の魔法を使えば多くの者に慕われるから多くの人間に囲まれていていいはずなんだが、アルマの側にいつもいるのはミシェル・モーガンぐらいなものだ。取り巻きができていない以上、魅了の魔法を使っていると証明することは難しい。それに、アルマの魔法はただの魅了の魔法ではないようでな。特定の人間にしか作用しないようにコントロールされているようだしな」

「アルバート殿は大丈夫なのか?」

「彼は護衛だ。常に防御の魔法を使っているから、問題はない。逆にそのせいで、アルマの魅了の魔法に気づけなかったらしい。とにかく、俺たちはできる限り二人きりにさせないようにして、エドに回復魔法をかけ続けてみるさ。友人を廃人にするわけにはいかないからな。お前は、あいつの代わりに書類に目をとおして、重要案件ごとにまとめておいてくれ。仕事を押し付けてすまないが頼む」


 クロトアの言った通り、ついに殿下は執務も生徒会の仕事も放棄した。そして、身代わりのようにアリエス様を僕の補佐として付けた。

「アリエス様、雑用をしてくださった上に、今回はそれ以上のことをお願いしてしまい申し訳ありません」

「雑用は殿下の命令ですから。それに今回は仕方ありませんわ。それから、クリストファー様。わたくしに様なんてつけなくてかまいませんわ。わたくしは後輩ですもの。それに殿下がいないのですから、アリエスと呼んでいただいて問題ないですわ。わたくしもそのほうが気が楽です」

 アリエスはやさしく提案してくれた。要するに気を遣うなと言ってくれたのだ。僕はその日から様をつけるのをやめた。これから、殿下の執務と生徒会の行事を二人でこなさなければならないのだ。気遣いをしている場合でもなかった。

 僕らは多忙を極めていた。そのせいだろう。僕はとうとう幻覚をみてしまった。

「クリストファー様、助っ人を手に入れてまいりましたわ」

 明るいアリエスの声と同時に、一人の少女が部屋に入ってきた。

「ああ、とうとう幻覚がみえるようになったよ。僕の可愛いお姫様が見える」

「幻覚ではなくってよ。しっかりしてください」

 アリエスにゆさぶられ、ルーシェが僕の手を握ってくれた。

「はっ、ルーシェ!」

「はい、本物でございます。お手伝いにまいりました」

「でも、試験前で大変だろう?」

「大丈夫ですわ。それより、わたくしにできることがありますでしょうか?」

「ありますわ。こちらの書類に穴をあけて表紙をつけて紐でまとめていただきたいの」

「右横に穴をあけて本のようにすればよろしいんですね」

「ええ、そのとおりですわ」

「慌てずにゆっくりでいいからね」

 僕はそう言葉をかけるしかなかった。とにかく書類に目を通すので手いっぱいだったのだ。それにルーシェが側にいると思うと、元気がでてきた。

 ふいに、ルーシェが鉄の板きれはないかたずねてきた。

「鉄の板?鉄の定規ならあるけど、どうするの?」

 僕らはきょとんとするばかりだ。

「魔法を使って穴をあけますの。この定規なら丁度良いですわね」

 ルーシェは分厚い束になった書類の右端に定規を置いて、えいっと押し付けた。定規を外すと穴が二つあいている。僕らは驚きを隠せなかった。

「攻撃魔法は授業以外禁止ですけれど、書類に穴をあけるのですから問題ないですわよね」

 ルーシェは恐る恐る僕らに尋ねる。もちろん、僕らはうんうんと縦に首を振った。それから、僕たちは黙々とそれぞれの作業をこなした。気がつけば、日が沈んでいる。生徒会室は暗くなると自動で明かりがつく魔道具のランプが設置されているので、日が暮れても誰も気がつかなかった。

「あの、一通りおわりましたけれど……」

「え?終わったの?」

 アリエスが驚いてテーブルを見渡す。そこには紙束ではなく、きちんと表紙のついた冊子状の書類が並んでいた。

「ルーシェ様、明日もお願いできますか」

 アリエスはがっちりとルーシェの手を取った。ルーシェは嫌な顔一つせず、にっこり笑ってお手伝いさせていただきますと言ってくれた。

「じゃ、今日はこれであがれるね。三人で夕食にしようか」

 そういうとルーシェがきょとんとした顔をした。

「大丈夫だよ」と僕は微笑む。そして僕はルーシェの温かな手をとると生徒会室をでて学食へと向かった。もちろん、アリエスもいっしょだ。

「こんな時間まで学食が開いているなんてわたくししりませんでしたわ」

 きょろきょろと周りを見て驚いているルーシェは、小動物のように愛らしい。

「学園側の配慮ですわ。婚約者との夕食を楽しみたいという要望もあったとか聞いておりますわ」

「寮の食堂からケータリングしてるんだよ」

 ルーシェはなるほどと納得したようにうなずいた。できれば、僕もルーシェを誘って夕食をたべたかったのだが、なかなか言い出せないでいた。

「それにしても、生徒会のお仕事はたいへんなのですね」

 ルーシェはふっとため息をつく。やはり疲れたのだろう。

「今は危機的状況だからね」

 僕は事情を話せないので、苦笑するしかなかった。だが、アリエス様は眉間にしわをよせ、怒りをあらわにしている。

「本来なら殿下とクロトア様が書類に目を通して、クリストファー様がサポートし、わたくしは雑用としてお手伝いをしていましたの。でも、近頃は殿下もクロトア様も職務放棄状態なのです」

 アリエス様は眉間にしわを寄せたまま、深いため息をついた。僕は横に首を振ったた。

「あら、ごめんなさいね。わたくしったら……」

 アリエスは恥じ入るようにルーシェを見た。

「とにかく、一年の辛抱だよ。アリエス」

「正直、耐えられそうになかったのですけど、強い味方ができましたわ。これからもよろしくね。ルーシェ様」

「はい、わたくしにできることがあるのなら、がんばってお手伝いさせていただきます」

 こうしてルーシェは僕たちの心強い味方となってくれた。

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