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「好き」だと伝えれていないけど。

作者: れをん。

小学校、中学校、高校、大学と小さい頃からずっと同じ施設だった女の子がいる。


その子はいつも車椅子で、慣れているのかほとんどのことは自身で成す子。


教室内では「〇〇ちゃんってすごいよね!」と意味の分からない褒め言葉が飛び交い、通路に出れば「あのこほんと邪魔」と蔑まれる。友達も知り合いもいないように見える女の子。


そんな車椅子の女の子と臆病な俺の物語――。



喋りかけたことも、喋りかけられたこともない。楽しそうに会話している姿など見たことない。いつも下を見ては受け答えするという。

周りはそんな彼女を「車椅子」と陰で呼んだ。もう、人間でなくなってしまった彼女には誰も声を掛けなかった。視界に入っていないかのように素通りしていく。存在しないかのように、当たり前に。


そんな彼女を見続けてきた俺はとうとう高校になって声をかけれたのだ。

彼女が教室を出て、玄関前で親を待っているときに。なんて声をかけたかって?

今でも明確に覚えているとも、なんたって初めての会話だったのだから。俺は彼女にこう問いをかけたのだ。


「キミ、苦しくないの?」


と――。

彼女は驚いた顔をしていた。まぁそれもそうだろう。声をかけてくる奴がいないのだから。いなくなったのだから。

今更、声をかける奴なんていると思われないだろう。だから、彼女は驚いた表情をした。

次に彼女が口を開いたときは、俺が驚いていた。

彼女はこう言うのだ。


「偽善ですか?」


と――。

問いを問いで返され、内容が思わない方向だった。自分に声をかけてくるにいい奴はいない。そう決めつけているのだろ。自分に声をかけてくる奴はいいフリをした奴だと……決めつけているのだろう。

俺でさえも後者だと確信できそうだ。聞いて欲しくはなかった質問だ。


「そう偽善。これまでずっとキミを眺めていた傍観者。偽善の何者でもないかもしれない。罪人だ」

「そうですか。それはきっと苦しかったでしょうに」

「なぜわかるの?」

「私がそうだからです」


その時に俺には理解出来なかった。その後は黙り込んで、親が見えたときだけ。


「またね」


と口にした。やはり彼女からの返事はなかったけれど。

それから彼女と会話することはなくなった。いや、何度かしたか。

親の迎えが少し遅れる時だけだけれどね。

そこらの会話もさほど初めての会話内容とは変わらない。彼女の対応にも変化はなかった。

彼女が気になり始めた俺は進路を聞いた。


「高校卒業後はどうするの?」

「大学に進学ですかね」

「へぇーどこ?」

「言ってどうなりますか?」

「どうにもならないから聞いてる。別に同じ大学に行くわけでもないだろうし」

「では言ったって仕方が無いです」

「担任に言うのと一緒だろうに」

「……福岡のほうの大学です。〇〇大学です」

「なるほどね。それ俺も行っていい?」

「ダメです」

「理由は?」

「理由があれば、まず言ってます」

「それ無いってことじゃん」



そんなことがあり、嬉しい事なのか彼女と同じ大学に進学することが出来た。

その時からだろうか、俺は彼女のことが好きになっていた。表立って彼女に「好き」だと伝えたことは無いけれど。

きっと彼女は気づいていたのかもしれないな。


大学に入り昼も同じくすることが多くなり、彼女は次第に……ちょっぴりだけだけど笑顔を見せるようになった。

口数も前よりかは増え、変な敬語も外れ今ではタメ口で、周りからは少し冷やかされたりもあるけど、その全てがいい様に思えるのだ。



大人になった俺達は二人暮らしを始めた。

俺は普通のサラリーマン。彼女は内職を。家事やらは俺がほとんどをする。それが日課。別に嫌でも何ともない。彼女との時間さえあればいいのだ。


そんな彼女がふと俺にいった。


「そろそろいいかな?」


それを理解するのは早かった。これまでラストで主人公の死ぬドラマを多く見ていたし、ボーっとしていることが多くなっていた。何を考えているのか分からない時があったりと――。


「どうやって死ぬんだい?」


そう聞くとためらいもなく口を開いたのだった。


「あなたに殺されたいの」


動揺なんて無く、来るだろうと思っていた。


「どうやってだい?」

「そうね……痛くない死にかた? とか」

「俺にはわからないよ」

「そっか……じゃぁどうしようか。死ぬ日まで待ったって時間の無駄だし」

「確かに。するどい刃で一刺しとか?」

「案外いいかも。身投げでもいいかもしれないね」

「それはダメだろ」

「だね」


俺は彼女に一ついい死にかたを提供してみた。


「死ぬ時が来るまで仕方なく生きてようか」

「それが一番いい死にかたかな?」

「わからない。でもいい死にかただね」

「ならそうするしかないのかな」



ああやって決断した彼女は今、安らかに俺の前で眠ってしまっている。

どんな感情を持ち合わせているのか。でもきっといい死にかただったのだろう。思ったよりいい顔をしているよう。


「さぁこれで生きる理由は達成された。俺もそちらに向かうからな」




そんなよぼよぼで背筋の曲がった老人は自宅にて安らかに眠っておりました。

片手には切れ味のいい包丁を――

片手には好きな人との思い出の写真を――。

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