砂浜に響いた悲鳴
意識し始めると、彼の逞しい腕に、しなやかな体に思わず目がいってしまう。
どんどん顔に熱が集まってくると、心臓が激しく波打ち始めていた。
「一条……」
呼ばれた声にふと顔を上げると、情熱的な瞳と視線が絡む。
私はそんな彼の様子にゴクリと唾を飲み込むと、目を逸らせなくなった。
「俺は……」
「きゃっ!!!!!!二条様が……彩華様を押し倒しているわ!!!破廉恥!!!」
突然の金切り声に、二条は慌てて体を起こすと、私から飛び退くように後ずさった。
花蓮の悲鳴に皆が集まってくると、二条は焦ったように声を張り上げる。
「違う!!!押し倒してなんかいねぇ!!」
「じゃ今のは何なのよ!!ほら見て、彩華様が怯えているじゃない!!」
「えっ!?違うの……今のはっ……!」
私は必死に胸の動悸をおさえながら呼吸を整えていると、日華先輩と華僑君が私の傍へと走り寄ってくる。
二人は私に大丈夫?と声をかける中、兄は砂浜に座り込む、二条の前に立ちはだかってた。
「二条……覚悟は出来ているんだろうね……?」
兄の凍てつくような声色に、二条は小さく悲鳴を上げると、必死に弁解を繰り返す。
「違うですって歩さん……ちょっとつまずいただけなんです!!!本当なんですっ!!信じて下さい!!!」
「言い訳はいい……二条、こちらへ来てもらおうか」
「待って、待って下さい!本当なんですって!なぁ一条……?」
二条は私へ顔を向けるや否や、兄は二条を腕を掴むと、問答無用に砂浜の上を引きずっていく。
「お兄様、待って!本当に違うのよ!」
兄を止める為立ち上がろうとすると、それを阻止するかのように華僑君が私の腕を捕えた。
振り払う事も出来ず、引きずられていく二条と私の腕を掴む華僑君を交互に視線を投げる中、二条の小さな悲鳴が耳に届く。
二条はそのまま近くにあるビーチバレーのコートに連れられると、兄は二条をコートの中へと放り投げた。
「うわっ!?……ってここは……ビーチバレー……?」
困惑する二条を余所に、兄はどこからかバレーボールを取り出してくると、二条とは反対側のコートへ立った。
それにつられるように日華と華僑、奏太君まで兄の傍に並ぶと、二条はまた小さく悲鳴を上げる。
「あっ歩さん……!それはビーチバレーのボールじゃないと思うんですけど……!!」
「うん?華僑君、これってビーチバレーのボールじゃなかったかな?」
「いえ、それでいいと思いますよ」
「おいっ、華僑!!」
「煩いですよ、僕は女の子を無理矢理押し倒す様な、友達はいませんので」
「だから、違うんだって!!!!」
二条が呼ばうのを気にする様子も見せず、兄は容赦なくボールを高々と上げた。
バシーンッ!!!!
砂浜に硬いバレーボールが撃ち込まれると、二条は慌てて体を起こしボールを避ける。
1対4の無慈悲なビーチバレー……?が始まると、次々と打ち込まれるボールに、二条は泣きそうになりながらも、必死に避け続けていた。
私はそんな二条の様子に、慌てて立ち上がり、兄の傍へと駆け寄っていった。
「お兄様本当に違うのよ、私が倒れそうになった二条を支えられなくて……一緒に砂浜に倒れ込んでしまっただけなの!」
「彩華、わかっているよ。でも君を押し倒した事は事実だ。彼にはそれ相応の罰を受けてもらわないとね」
お兄様の言葉に、私は待って待って!と声を張り上げる中、また強いスパイクが砂浜の上に打ち込まれる。
バシーンッ!!!
ひぇ……、これは本当に二条が危ないわ……!
その後も必死に違うと訴えかけるも、兄は危ないからと私はそっとコートの外へ追いやっていく中、日華先輩がボールを高々と上げていた。
「だから違うんだって!!!!……うわっ!?あぶねぇっ……!」
「問答無用……次、北条行け!」
バレーボールが奏太君の手に渡ると、彼はしっかりとボールを握りしめる。
「はい、彩華さんの敵は俺の敵ですからね。手加減はしませんよ……とりゃぁっ!」
バッシーンッ!
殺伐とした雰囲気の中、私はコートの外へ追い出されると、後ろから花蓮と香澄が走り寄ってくる。
「怖かったでしょ彩華様、大丈夫?」
「えっ、違うのよ。二条が転びそうになったところを支えようとして、倒れてしまっただけなのよ!」
「でも、押し倒されたことには変わりないのでしょ?」
「えっ!いや……えーと……、だから押し倒されたわけじゃ……」
花蓮は私の言い淀む様子に、有無を言わさないとニッコリ笑みを浮かべると、あちらでゆっくりしましょう、とパラソルを指さしながら私の手を引いていく。
花連の笑顔を横目に、大人しく連れられていると、香澄が私に寄り添ってきた。
「う~ん、私はお兄様を応援しているけど……さすがに押し倒すのは頂けないわ。今回は私も……気に食わないけど……一条さんの罰を受ける事に賛成よ」
香澄は私の腕に絡みつきながら、ニコニコととんでもないことを口走る。
そのままパラソルの中へ入ると、無慈悲にスパイクを打ち込まれ、半泣きになる二条の姿を只々見つめていた。




