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婚約者候補

兄と母との交流を深め、気がつけば3年の月日が流れていた。

母はこの3年で時々笑顔を見せてくれるようになったの。

部屋に茶菓子用意して、私を待っていてくれるまで仲良くなった。


兄はこの3年で立派なシスコン化してしまった。

ご飯を食べるのも、習い事へ行くのも、どこいくにも兄の付き添いが必須。

朝私の部屋に起こしに来るのは女中だったんだけど、いつの間にか兄が私を起こしに来るようになった。

次第にスキンシップも増え、寝るときも起きる時も兄は軽くキスをする。

欧米かッッとツッコミを入れたいんだけど、キスをする兄の嬉しそうな顔を見ると、何も言えなくなってしまった。

まぁ今ではキスにも慣れて、頬にキスを返す余裕もあるんだけどね。


そんな兄は基本優しい反面怒ると怖いというのがわかったの。

兄の怒り方は怒鳴ったりするのではなく、笑顔で理詰めにされるから厄介だ。

屋敷を勝手に抜け出して、公園で走り回って怪我をして帰ったあの日は本当に恐ろしかったなぁ。

もう二度と一人で外へ行かないように!と子供ながらに誓約書を書かされたのは良い思い出だ。

そんな私はお金持ちが通う名門学校の初等部へと入学し、平穏な生活を続けている。


初等部へ入学し暫くしたある日、私の屋敷へ二条家の長男がやってきた。

彼は私と同じ10歳で、端正な顔立ちに、やんちゃな印象を抱く少年だ。

しかしさすが名家の息子、姿勢や所作は子供ながらにして洗練されている。

さすがだなぁ、前世でこんな少年見たことない。


その隣にはこれまたイケメンの30代前半ぐらいのスーツ姿の男が徐に口を開いた。


「この度はお時間を頂き、こうしてご対面できる機会に感謝いたします。私の息子、二条家長男の二条 敦です」


紹介された彼は美しくお辞儀をすると、おもむろに面を上げた。

金持ちでイケメン、さらに私と関りがある。

すっかり乙女ゲームの事を失念していたけど、この子もしかして乙女ゲームの攻略者の一人……?

そんな事を考えながら、大人たちの込み入った話に耳を傾けてると、どうやら彼は私の許嫁候補になるようだった。


うーん、この展開ますます乙女ゲーの攻略者説が濃厚になってくる。

私は心の中で深いため息を吐くと、冷たい視線を浮かべる彼に視線を向けた。

初めて会ったはずなのにこの敵意のある眼差し……どうしてなの……。

はぁ、彼も迷惑そうだし、さっさと婚約話が流れるといいけど……。


両家の簡単な挨拶をすませ、両家の両親が席を外すと、私と彼二人だけ部屋に取り残された。

えーと、とりあえず話しかけたほうがいいよね……?

私は少年に笑顔を向けると、当たり障りのない世間話をしてみるが、もちろん返事はない。

彼は見下した表情を浮かべると、氷のような冷たい視線で私を睨みつけた。

おぅ、あたりがきついなぁ。

母もお兄様もそうだったけど、乙女ゲーム世界にいる人はこんな人ばっかりなのだろうか……?


「俺はお前の許嫁になるつもりも、お前と仲良くするつもりもない」


お前呼び……まぁまぁまぁ……。

彼の様子にどう対処していいのか迷っていると、彼は私を部屋へと残したままどこかへと去って行った。

これは放っておいたほうがいいよね。

家族じゃないし、攻略対象者なら関わらない方が良い。

私はそんな少年の背に深いため息を吐くと、そっと襖を閉めた。


部屋に取り残された私は、辺りをキョロキョロと見渡し、誰もいないことを確認すると、そっと庭へと飛び出した。

今から母のところへ戻ってもあれだし、えーと、確かこの辺に隠した……あった!

私は床下にあるサッカーボールを取り出すと、最近はまっているリフティングを始めたのだった。


前世でスポーツが好きだった私は、基本的に体を動かすことが好きだ。

この家にはゲームもなければ、スマホも持たせてもらえない。

あるのは子供用の簡易な携帯だけ。

兄に誓約書を欠かされた私は外に出ることもできないし、まぁ自業自得だけど。

ちょっと心配しすぎな気もする。


そんな現状、この家でじっとしているなんて耐えられるはずがなかった。

学校で発散できればと考えていたけれど、名門の初等部ではあまり体育に力を入れておらず、周りには普通の小学生のように走り回るようなタイプはいない。

まぁお嬢様ご子息が集まる学校だししょうがないけどね。


そんな中一人ではしゃぐこともできない私は兄のいない隙を見て、家でコッソリ筋トレを始め、広い庭で四苦八苦しながら手に入れたボールを使ってよく遊んでいた。

もちろん兄には内緒でね。

はぁ、もっと運動したい、走り回りたい。

今度思い切って、母に武道をやりたいと言ってみようかな。

うーん、母はなんとかなるとしても、お兄様がねぇ、絶対止めに来るだろうな……。


上の空でボールを蹴っていると、ボールが縁側の方へと飛んでいく。

あっ、やってしまった!

私は慌ててボールを追うように視線を向けると、縁側に佇む二条の姿が視界に映った。

ボールがスローモーションのように縁側へ落ちていくと、彼は軽やかな身のこなしでそのボールをしっかりと受け止めた。


「お前……何をやっているんだ?」


彼の言葉に私はニッコリ微笑みを浮かべると、軽く頭をかいた。


「暇になっちゃったから、リフティングをしていたの」


「はぁ!?リフティングってお前……一条家のお嬢さんだよな?」


私はキョトンとした表情を浮かべると、当り前じゃないとばかりに深く頷く。

二条はそんな私の様子に、足でボールを蹴り上げ高々とあげた。

私はそのボールを目で追うように焦って手を伸ばすが、その手が届く前に彼の足へと落ちる。


「名家のお嬢様が、こんな遊びをするなんて考えもしなかったな」


二条はニヤリと微笑を浮かべながら落ちてきたボールを蹴ると、華麗なリフティングを披露し始める。

すごいッッ!

私は彼へキラキラした瞳を向けると、教えてください!!!と勢いそのままに頼み込む。

すると彼は先ほどの冷たい眼差しではなく照れた表情を浮かべたかと思うと、サッカーボールを私へ投げ、ぶっきら棒に教えてくれたんだ。

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