思い悩む先に
あの一件から私は、緩んでいた心を叱咤し、気合を入れなおしていた。
机の落書きはなくなったが・・・・敵は何を仕出かしてくるかわからない。
それにしても怪我をさせてでも、私を虐める理由は一体なんだろうか・・・。
うーん・・・二条と華僑君の事だろうとは安易に想像できるが・・・だからこそ学園内では彼らと会わないように気を配っているのに・・・。
朝は一人で早く登校している上、下校は彼らと会わない様、チャイムと同時に校門へ走り、車で帰っている。
学園内で、二条と華僑と一緒に居る姿は、そんなに見られていないと思うんだけどなぁ・・・。
クラスでは常に一人だし、友達もいない上、話す相手もいない。
うーん・・・まぁ、マンションに戻れば彼らとは普通に交流しているが・・・そんな事を知っている生徒は、さすがにいないはずだし・・・。
モヤモヤする中、うんうん頭を悩ませながら校庭を歩いていると、ふと危ない!!!との声に私は慌てて立ち止まった。
その瞬間、目の前に大きな影が通り過ぎたかと思うと、
ガシャーンッ
大きな音とともに何かの破片が散らばった。
咄嗟に手でガードし、身を守るが、破片の一つが私の頬を掠め、血が流れる。
嘘でしょ・・・ここまでする?
ってこれはさすがにダメでしょ・・・、当たったら死んじゃうよ!?
私は花瓶が降ってきた方へすぐに顔を上げると、バタバタと走り去る足音に、女子生徒達の笑い声が耳に届いた。
うーん、あそこは3階・・・、やっぱり嫌がらせをしているのは1年生なのかな・・・。
ふとヒラヒラと一枚の紙が下りてくるのが見えると、私は慌ててその紙を捕まえた。
恐る恐る紙を開くと、そこには【さっさと学園をやめろ、尻軽女!!!】と書かれている。
学園をやめろ・・・・尻軽って・・・うーん。
「おぃ、大丈夫か!!!」
後ろから消えた声に、私は慌てて紙をクシャと握りしめ振り返ると、そこには二条の姿があった。
二条は私の傍へ来ると、私の頬に手を当て、今にも泣きそうな表情を浮かべる。
「あぁ、ごめんね。声をかけてくれてありがとう。ちょっとぼうとしていて」
「一条・・・・」
まずいな・・・二条と二人・・・こんなところを見られたら、また変な噂が広がりそう・・・。
そう頭によぎると、私はサッと二条の手から逃れるように体を離す。
「あー!今日は風も強いからそれで落ちたのかもね!ほんと、当たらなくてよかった。私、ちょっと保健室へ行ってくるね」
私は早口でそう話すと、二条から逃げるように背を向ける。
すると二条は私の腕を強く掴むと、私の体は後方へガクンと傾いた。
バランスを崩した私を二条は、抱き留めるように私の体を支える中、私は慌てて身をよじるが、肩に置かれた手に力が入ると、身動きが取れなくなった。
「一条、どうして・・・・」
耳元で囁かれる言葉に私は体の力を抜くと、徐に口を開いた。
「・・・・心配してくれてありがとう。本当に何でもないから・・・だから離して」
そう訴えかけ、二条の手を振り払うと、私は振り返ることなく保健室へと走っていった。
保健室には誰もおらず、自分で消毒し、頬に絆創膏を張りながら、ふと先ほどの事が蘇る。
うーん、振り払ったのはやりすぎちゃったかな・・・。
今日マンションに帰ったら謝ろう・・・。
でも理由を聞かれたらどうしようかな・・・、変な噂が立って、嫌がらせを受けているとは言えないし。
それにしても、ここまでするほど・・・敵視されるような事は、していないと思うんだけどな・・・。
・・・・私がサクベ学園にいるから・・・?
まさかよく小説とかでよく目にする、転生者にありがちな・・・なぞの強制力が働いて、私をこの学園から追い出そうとしているとか・・・。
いやいや、それは考えすぎでしょ・・・・それがあるなら、彼らがこの学園に来ることを阻止しているだろうしね・・・。
でも万が一そんなものが、存在しているのなら・・・・余計にやめるわけにはいかない・・・。
はぁ・・・そろそろ自分で動き出すべきかな・・・。
でも主犯を見つけて、直接言ってもな・・・火に油を注ぐ結果になるだろうし。
かといって一条家の力を使ってってなると・・・自分の事がばれちゃうしなぁ・・・。
教師に頼る・・・・?
いやいや、さすがに先生は、私が一条家だと知っているだろうし・・・。
嫌がらせをされているなんて言えば、大事になっちゃいそう・・・。
どうするべきか・・・答えが出ないまま、授業が終わりすぐに学園を出ると、私は習い事へ向かう為、車へと乗り込む、
習い事を終え、そのまま外で簡単な夕食をすませると。、マンションに到着した頃には、日が沈み、辺りは暗くなっていた。
私はマンションのエレベーターを降りると、そのまま二条の部屋へと足を向け、二条の部屋のインターフォンを押した。
インターフォンから二条の驚いた声が聞こえたかと思うと、ガチャリと静かに扉が開く。
扉の前にはラフな黒のTシャツ姿の二条が、なぜか焦った様子を見せていた。
「一条どうしたんだ?何かあったのか?」
「ううん、あのね、二条・・・今日はごめんね・・・私、助けてもらったのに、冷たい態度をとっちゃったかなって思って・・・それで謝りたくて・・・本当にごめんなさい」
「そんな事か・・・気にするな。それよりも、顔の傷は大丈夫か」
二条はそっと私の頬へ手を伸ばしたかと思うと、触れるか触れないかの距離で止まった。
「うん、只のかすり傷だしね。心配かけてごめんね・・・・ありがとう」
私はニッコリ二条に微笑みを浮かべると、また明日ね!と手を振り背を向けた。
「一条!!!」
二条の声に徐に振り返ると、彼は真剣な瞳で私を見つめていた。
そんな彼の様子に首を傾げながら続く言葉を待っていると、彼は何でもないと呟き、扉は静かに閉まっていった。
私は二条の様子に疑問を感じながらも、そのまま自分の部屋へと足を向けると、ピピッと機械音と共に、ガチャリと扉のロックが外れる。
メイドはすでに帰っており、兄は父の仕事の手伝いの為、部屋の中は真っ暗だった。
私はそっと部屋の電気をつけると、ドサッとソファーの上に座り込み天を仰いだ。
よかった、今日はお兄様が居なくて・・・。
この絆創膏を見られれば、きっとどうしたのかと・・・余計な心配をかけてしまう。
次、お兄様に会う前には・・・治っているといいなぁ・・・。
私はそっと頬から絆創膏を取ると、小さな瘡蓋に指を添わせる。
チリチリと鈍い痛みを感じると、私はそっと立ち上がり、救急箱を探しに行った。