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祝・退院

その後母と父が見舞いに来た時、日華先輩の婚約話について話を聞いた。

何でも私が2度目の怪我をしてすぐ、婚約の打診があったらしい・・・。

日華先生は私の怪我の理由を母と父に話し、責任を取りたいと申し出たそうだが・・・一度婚約を断っている私と言う存在に母は私が納得しないと婚約できませんと言ったようだ。


なんてことだ・・・・。

私に一任するのはやめて欲しい・・・。

正直・・・高等部卒業すれば、誰とでも結婚する覚悟はできている。

だから今更自分で選ぶとか・・・そういうのは考えてもみなかった。

私は母と父に今一度高等部まで婚約の話は待って欲しいと頭を下げると、その旨先方にお伝えしておきます、と母は小さく笑いながら答えた。


数日後、日華先生が私の元へと診察に来ると、そろそろ退院できそうだねと話した。

肩の傷は少し残ってしまったが、よく見ないとわからない程度なので問題ない。

退院できることに嬉しく思う中、ここ数週間二条の姿を見ていない事にズキリと心が痛む。

以前までは一週間に一度は、華僑と会いに来てくれていたが・・・最近は華僑が一人で来るようになっていた。


華僑が来た時に二条について聞いてみるも、言葉を濁すようにはぐらかされてしまう。

香澄ちゃんにも二条について探りを入れてみるが、あんなヘタレなお兄様放っておいて大丈夫ですわ、とよくわからない返答が返ってくる。

詳しく聞こうと口を開くと、香澄ちゃんはこの話は終わりと言わんばかりに話を変え、もうすぐクリスマスですわねと嬉しそうに話すのだった。


二条の姿を見なくなり、寂しさ半分・・・ほっとする自分もどこかにいた。

避けていた理由を言うわけでもなく、自分勝手な行動をした私にとうとう愛想をつかしたのかもしれない。

それは胸が締め付けれる思いだが・・・乙女ゲームが始まる前に離れる事ができてよかったのかもしれない・・・。


ようやく退院した日、私は久しぶりに屋敷へと戻ると、女中たちの大歓迎を受けた。

心配をかけてごめんなさい・・・と皆に伝えると、お嬢様が元気になってくれて嬉しいと言葉を返してくれる。

そんな中、私はお兄様の部屋へ足を運ぶと、お兄様は私を目にするなりギュッと強く抱きしめた。


「迎えに行けなくてごめんね、彩華」


「いえ、お兄様・・・・心配をかけて本当にごめんなさい・・・」


「本当だよ、あのまま彩華が目覚めなかったら、どんな手を使っても二条家をつぶそうと思っていた」


物騒な言葉に私は苦笑いを浮かべると、


「いやいや・・・ダメよ、お兄様。香澄ちゃんは何も悪くないんだから・・・それと、日華先輩も悪くないからね!」


念のためそう伝えると、日華には十分罰はあたえてある・・・と黒い笑みを浮かべていた。

私はこれ以上追及してはいけないと心の中で悟ると、話を変えようと口を開く。


「ところでお兄様、二条は元気そうかな・・・?」


「二条か・・・あいつの事は放っておけばいい。彩華が気にする事じゃないよ」


お兄様は微笑みを浮かべながら私のおでこにキスを落とす。


「彩華、病み上がりだろう・・・早くゆっくり休みなさい」


はぐらかされ、それ以上の追及ができないまま、私はお兄様に連れられ自室へと足を進めた。





・・・・彩華が退院する少し前の学園では(華僑視点)・・・・


長い校長の話を聞き流しながら僕は二条君の様子を覗っていた。

最近の二条君はどこか元気がない上、一条さんのお見舞にもいかなくなった。

どうして行かないのか聞いてみるも、忙しいの一点張りだ。

そんなに忙しいはずがないと思うんだけど・・・・。

その前に・・・今までどんなに忙しくても彼女の見舞いを優先させていたじゃないか・・。


ようやく校長の話が後半に差し掛かると、僕は頭を上げる。


「では皆さん、冬休みの間羽目を外しすぎないよう、3学期の始業式に元気な姿でお会いしましょう」


そう締めくくられると、校長は壇上を下りていく。

僕はそっと二条君へ視線を向けると、彼は心ここにあらずの様子で静かに佇んでいた。


終業式が終わり、僕たちは教室へ戻ると、女子生徒達がわらわらと僕たちの傍へと集まってくる。

一条さんが入院してからこういうことは日常茶飯事だった。

今まで彼女が居る手前、二条君に話しかけられなかった女子達が目をギラギラさせて近づいてくる姿は恐ろしい・・・。

そんな僕も髪を切ってからは、なぜか女子達に囲まれるようになった。

僕はそんな現金な彼女たちの姿に嫌気を差しながらも、令嬢達を不快にさせない程度にやんわりと断りを入れていた。


「なぁ、華僑ちょっといいか?」


女の子たちの対応におわれる中、二条君の言葉に僕は振り返ると、いいよと小さく頷く。

女子生徒の甲高い声を背中に受けながら、横目に二条君に視線を向けると、どこか鬼気迫るような雰囲気に、僕は唾を飲み込んだ。


二条君に連れられるまま無言で校庭へと向かうと、人気のない場所で二条君は立ち止まった。


「華僑、お前は・・・・どうして一条が俺を避けていたのか知っているのか?」


彼の問いかけに僕は思わず言葉を詰まらせると、振り返った二条君から気まずそうに視線を逸らせる。

いや・・・これは聞かせないほうがいいと思っていたんだけど・・・。

だって二条君は誰が見ても彼女を溺愛していて・・・そんな彼に婚約するとの噂を消したいから避けていたのだと、言えるはずがない。

どうしようか頭を悩ませていると、真剣な瞳をした二条君と視線が絡んだ。


「華僑教えてくれ・・・・」


彼の懇願するような瞳に僕は深いため息を吐くと、


「聞いて、後悔するかもしれないよ・・・それでもいいの・・・?」


二条は力強く頷くと、僕は彼女から聞いた話を彼に伝えた。

彼は僕の言葉にひどく顔を歪めると、壁にもたれかかり低く項垂れる。


「またそれか・・・・」


頼りなく小さく呟かれた言葉は、肌に突き刺さるような冷たい北風にかき消されていった。


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