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彼女のとった行動は

次の日、いつものように学園へ向かうと、門の前に二条の姿が見える。

私はおはよう、と手を振ると、ヒョコッと彼の隣から香澄が顔を出した。

彼女は私の姿を見据えると、瞳に怒りを浮かべながら私から引きはがすように、必死で二条の腕を引っ張っている。

私はそっと手を下すと、苦笑いを浮かべながら、先に教室へ行ってるねと、そそくさとその場から逃げ出した。


香澄は入学して暫くすると、私を監視するかのように、見張り始める。

彼女自身うまく隠れられていると思っているようだけど……。

そっと後方に目を向けると、木の陰に慌てて隠れる香澄の姿。

横目に映るギラギラとした彼女の瞳に小さくため息をつくと、知らないふりをしつつ歩き始めた。


あからさますぎるし、視線が痛い、怖いし、どうしてこんな事になっているのかな。

背中に突き刺さる鋭い視線に、私のHPはジリジリと削られていく。

はぁ……こうも毎日毎日、何とかならないだろうか。

だけどここで彼女に話しかけても、無視されるか、逃げるか、はたまた怒らせてしまうだけ。

さて、どうするべきか……。


思いつく方法は一つだけ。

うーん、寂しくはなるけど、これもいい機会。

二条に近づくのをやめよう、これが一番の解決策。

私が監視されいるのは、間違いなく二条との仲が原因。

彼から離れることで、彼女の監視の目が少しは和らぐ、そう信じたい。


それに学園内で噂される、私と二条の婚約説も収まらせるいい機会にもなるだろう。

婚約説がなくなれば、香澄ちゃんの当たりも少しは治まるはず……。

正直とてもつらい、だけどこの先彼がヒロインを好きになってしまうのなら、今からでも少しずつ距離を置いた方がいいのかもしれない……。

そう結論付けると、私は立ち止まった。


あっ、その前に……二条に借りてた本返さないと。

うーん、でもなぁ、そうだ、華僑君にお願いしようかな。

私はさっそく教室から借りていた本を持ち出すと、彼らの教室へと向かい、二条に見つからないように、こっそり華僑を呼び出した。

二条に返してくれない?とお願いすると、華僑は訝しげに眉を寄せる。

その様子に、私は察すると、彼から苦言が飛び出す前に本を手渡し、逃げるようにその場を後にした。


それから私は二条と顔をあわさないように気を配りながら、華僑伝いに一緒に帰れない旨を伝え、昼休みのご飯も別々にしていく。

加えて二条と会わないように登校時間、下校時間をずらし、何か言いたそうな華僑を何とかかわしながら、学園生活を送っていた。


離れると決めたのは自分。

だけど一抹の寂しさがおとずれると、自然と深いため息が漏れる。

少し距離をとっただけでこんなに苦しいなんて……。

本当に高等部に進学し、二条の傍にヒロインが寄り添う姿を目の当たりにしても、私は私で居られるのだろうか。


そうやって二条を避け続けていると、ある日を境に香澄からの監視の目がなくなった。

私はほっと息をつき、大きく背筋を伸ばす。

まぁ、もう少し様子を見ようかな。

また監視されたらたまらないし。


授業が終わり、教室から逃げるように出ると、校舎裏へと足を運び皆が下校するまで待っていた。

今はその場しのぎの言い訳でやり過ごしているけど、そろそろ何か上手い言い訳を考えないとね。

先日はばったり出会ってしまった華僑からの問い詰めにあい大変だった。

自分勝手な事をしていると百も承知だけど、香澄のことや、この先始まる乙女ゲームのこと。

二条は香澄を大切にしているのを知っている、それにゲームの話をするわけにいかない。

婚約の噂話を失くしたいと話せば、前回の一件がある以上彼を傷つけてしまう。

だから私が二条を避けている理由を、本人にはうまく説明出来ないんだよね。


上手い言い訳を考えながら一人校舎裏でぼうっとしていると、目の前に人影が現れた。

誰だろうと思い顔を上げてみると、そこにいたのは二条。

驚きのあまり変な声が飛び出し、逃げようとするが、その前に彼の腕が私を捕らえた。

下校する生徒たちの声が小さくなる中、二条は私を校舎の壁へと追い込むと、逃がさないと言わんばかりに壁に手を突き私を見下ろす。


「一条、最近俺の事避けているんだろう?」


「えっ、いやいやいや、そっ、そんなことないよ、ははは」


私は誤魔化すように笑うと、二条は顔を歪める。


「あれだけ露骨に避けておいて、気が付かないはずないだろう」


掠れたその声に思わず息を呑むと、私は頭を垂れ黙り込んだ。


言い訳はまだ思いついていない。

早く、早く、何かうまい言い訳を考えないとッッ。

脳内をフル回転させながらじっとしていると、二条の顔が目と鼻の先まで近づいてきた。


「俺、何かしたか?それなら言ってくれ、こんな避け方されたら、たまったもんじゃない……ッッ」


彼の吐息が鼻にかかり、私は思わず顔を上げると、今にも泣き出しそうな顔をした彼と視線が絡む。

あまりにも純粋なその瞳に、私はゴクリと喉を鳴らすと、その場で動けなくなった。


「一条お姉様あああああああああ」


突然の声に、二条は慌てて私から距離を取ると、声のする方へと顔を向ける。

香澄は駆け足でこちらへやって来ると、私と二条を引きはがすよう間に割り込んだ。


「もう~ずっと待ってたのに!お姉様がなかなか来ないから、待ちくたびれちゃったわ!」


可愛らしい笑顔を浮かべ彼女は私の腕に絡むと、早く行こうとグイグイ引っ張っていく。

ちょ、待っていた……?

会う約束なんてした覚えはないし、彼女は私を嫌いなはず……。

恐々香澄へ顔を向けると、彼女は二条に見えないよう背を向け、鋭く私を睨みつける。

蛇に睨まれた蛙のように怯えていると、半ば強引に香澄は私を二条から引き剥がしていった。

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