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彼女たちの傍に居る為に(華僑視点)

上手く話せない僕だけど、二人は声をかけてくれる。

一条さんも二条さんも僕のどもった話し方に気を悪くすることもなく、自然に話を聞いてくれるんだ。

二人の存在は僕の中で大きくなり、次第に緊張せず普通に話せるようになっていった。


すると僕には手の届かない存在だと思っていた二人の色々な一面を見ることが出来た。

二条は何でも楽々にこなせているように見えて、かなりストイック。

彼女を大切にして、いつも傍で目を光らせているんだ。

過保護すぎじゃないかなぁと思っていたけれど、今となってはそうなる気持ちもわからなくもない。


一条は学園内で一条家のお嬢様を演じているんだって。

実際の彼女はお嬢様っぽくなく、とても気さくで話しやすい反面、少しお転婆なところがある。

そんな彼女をいつも止めに入るのが二条だった。

二人の掛け合いはとても自然で、見ているだけで楽しかった。

今まで二人は僕なんかに見向きもしない、完璧な存在だと思っていた。

でも実際はそうじゃない、ずっと遠くにいた二人の存在がこんなにも近くで感じられるようになるなんて――――。



ある日学校が終わり、帰り支度をしていると、彼女に声をかけられた。

まだクラスに残る生徒たちを気にしながら、小さな声で一緒に帰ろうと呟き笑顔を浮かべてくれたんだ。

僕は間髪入れずに頷くと、校門で待っているね、と彼女は教室を後にした。


校門へやってくるとそこには一条の姿だけ、二条はいない。

いつも3人だったから、彼の居ない場に僕はガチガチに緊張してしまった。

だけど彼女は緊張をほぐすように笑顔で優しく僕に話しかけてくれたんだ。


「ねぇ、今日休憩時間に読んでた本は何の本なの?面白い?」


「あっ、はい。えーと、今読んでいる本はサスペンスもので、先が読めない展開がとっても面白いです」


「へぇ~、そうなんだ。私ね、この前華僑君が読んでいた本を読んでみたの。そしたらとっても面白くて一気に読み切っちゃって」


少し照れた笑みを浮かべる彼女の姿に、僕の心臓は小さく音をたてる。


「あの、よかったら明日持ってきます。その……どっ、どんなジャンルの本が好きですか?」


「うーんそうだなぁ~、恋愛ものとかサスペンスとか、何でも好き。華僑君がオススメする本を読んでみたい」


こちらへ顔を向けはにかんだ彼女の笑顔に、なぜか胸が熱くなると心臓が大きく高鳴った。


彼女は勧めた読むと、いつも感想を話してくれる。

口下手な僕が話しやすいようにしてくれていると考えるのは自惚れかもしれない。

だけど本のことなると恥ずかしいぐらいちゃんと彼女と話が出来る。

初めて出来た友達。

ずっとこの関係が続けばいいのに……。


テスト前になると、二条の家に集まって勉強会なるものに誘ってもらった。

驚いた事に学年で敵なしの二人が、テスト対策に翻弄していたんだ。

二人はこんなに頑張って一位と二位を取っていたのかと改めて知った。


そんな二人の姿に、なぜか取り残されたような気持ちになる。

僕はダメな人間だからと自分に言い訳ばかりして、何もしてこなかった。

彼女たちの様子を長く伸びた前髪越しで見ると、二人の姿が遠のいていくような、そんな気がした。


そんなある日、たまたま僕は二条と二人きりになった。

前々から疑問に思っていたことを思い切って尋ねてみたんだ。


「あの……二条君はどうして僕が一条さんの隣に居ることに何も言わないのですか?」


二条君は初等部の頃ずっと、一条さんに近づく男を排除していた。

でも僕みたいなやつが、どうして彼女の傍にいる事を許されるのだろうか?


彼は意味がわからないとの様子で目を丸くし、こちらへ視線を向ける。


「どういう意味だ?」


「えっ、あの、初等部の頃、彼女に話しかける男の子たちに牽制してましたよね……?」


「あぁ、あれか……。まぁ牽制はしていたといえばそうだな。だが最後に手を下していたのは、俺じゃないぜ」


二条は何かを思い出したのか、小さく体を震わせると、フェンスの向こう側へ視線を戻す。


「それに、俺は一条から話しかける奴に何か言ったことはないぜ。それにさ、俺たちにすり寄ったりせず、対等に話せる奴って少ないだろう。だから華僑みたいな存在は、俺たちにとって貴重なんだ」


その言葉に僕は顔を上げると、前髪越しに照れた彼の横顔が目に映った。


対等……そんな風に思ってくれていたんだ

でも本当に対等なのかな……?

いや、僕は対等なんかじゃない。

彼らのような直向きさも、優しさも、何も持っていないんだ。

だって僕は何もしてこなかったから。

最初から無理だと諦めて、自分に言い訳ばかりして、顔を隠して隠れて逃げてばかり。

こんな自分じゃ対等なはずないんだ。


だけど二人の傍から離れるのは嫌だ。

初めて出来た友達、人と過ごす大切さを教えてくれた二人。

離れたくない。

なら僕が変わらなきゃ。

でも変われるのだろうか……こんな僕が……。

不安に僕はギュッと胸を掴むと、コンクリートの地面をじっと見つめる。


「僕は対等なんかじゃない……二条君たちに甘えてばかり。でもこのままじゃダメなんだ。僕は……変わらないと、いや、変わりたい……出来るかな……?」


「うん?変わる必要なんてないと思うけどな。まぁ~本当に変わりたいと思えば誰だって変われるさ、俺が変わったようにな」


彼の言葉に顔を上げると、励ますように僕の方を軽く叩いた。

その温かい手に、不安が消えていく。

うん、そうだ、変わりたい。

二人と並んで恥ずかしくない、そんな自分になりたい……じゃなくてなるんだ。


決心はついたけれど、人間すぐには変われない。

どうやって自分を変えていくべきか、悩んでいたあの日。彼女が僕の表情を見たいとそういった。

その言葉に僕は思い切って前髪を切ると、一気に視界が開けた。

翌日登校すると、なぜか女子生徒が僕を見て騒がしくなったけれど、そんな事どうでもいいと思えた。

彼女が僕の姿を見たら、どう思うのだろうか、そればかりが気になって。


ドキドキしながら待っていると、彼女が教室へとやってきた。

僕の姿に嬉しそうな笑みを浮かべてくれた。

いつも前髪越しで見ていた彼女の笑顔より、ずっと綺麗で気が付けば僕も笑っていたんだ。

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