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婚約は (二条視点)

もうすぐ彩華のお披露目が開かれる。

その数か月前、俺と一条の正式な婚約話を父から聞いていた。

彼女のお披露目会で正式に発表する予定だと。

俺は間髪入れずに頷くと、父さんは嬉しそうに笑ってくれたんだ。


これでやっとあいつと婚約できる。

最初に出会った時絶対ありえないと思ってたんだけどな……。

彩華のことを考えると胸の奥が熱くなり、脳裏に彼女の笑顔が浮かぶ。

絶対に大切にする、そう心に刻み込んだ。


しかし数週間後、婚約が延ばされたとの報告を受けた。

破棄ではなく先送りなのだと。

俺は信じられない思いで、しばらくその場から動くことができなかった。

どうして、なんで……あいつとの仲は良好だった。

あいつと中が良い男子俺だけで、まぁ……俺が牽制しまくっているというのもあるけどな。


まさか好きな奴でもできたのだろうか……。

可能性としてはあの義兄。

あいつは絶対彼女の事が好きだ。

俺も彼女の事が好きだからわかるんだ。

でも彼女が兄として慕っている以上、あいつがこの関係を崩すとは思えない。

ならどうしてなんだ……?

考えれば考えるほど深みにはまっていき、気落ちしていった。


婚約が延期されたとの報告後すぐに、一条家が主催する彼女お披露目会の招待状が届いた。

当たり前だが彼女のパートナーとしてではなく、俺はいち招待者。

本来であれば俺が彼女のエスコートをするはずだったのに。

あいつに直接確認しないと、なぜ断ったんだって問い詰めてやらないと。

しかし彼女はお披露目会の準備で忙しく、会うことは出来なかった。


そうしてお披露目会当日、香澄は行きたくないと駄々をこね留守番。

香澄とのやり取りで疲れた俺は、到着してすぐに会場から少し離れたロビーで休憩していた。

会場付近にいると、二条家に媚びを売りたい奴らが、鬱陶しいぐらいまとわりついてくる。

俺は一息つくように柱の陰でソファーに座り込んでいると、ふと聞きなれた透き通る声に顔を上げる。

柱の陰からこっそり顔をのぞかせると、そこには真っ白なワンピースを纏った一条の姿があった。

声をかけようと体を起こすと、どうやら誰かと話している様子だ。


気になり柱から身を乗り出すと、そこにはブロンドヘヤーの少年と楽しそうに笑う彼女の姿が目に映る。

フランス語で会話するぞの様子に、胸がムカムカしてくる。

誰だよあいつは……クソッ。

苛立ちながらも声を掛けることが出来ず二人の様子を窺っていると、少年は徐に立ち上がり、彼女をそっと抱きしめる。

その光景に唖然としていると、彼女は恥ずかしそうな表情で少年を抱きしめ返していた。


はぁ!?なんだよこれ、まさか……まさか……一条はあいつの事が好きなのか?

だから俺との婚約の話を断ったのか?

そんなはず、あんなやつ見たことない、一体誰だ?

信じたくないそんな思いで二人から目を逸らせると、柱に強く握りしめた拳を打ち付けた。


結局彼女と話せないまま、お披露目会が始まった。

彼女は紅色の着物に、珍しく髪をアップにまとめている。

いつもと違い化粧もしているのか、大人っぽいその姿は綺麗でしばらく見惚れていた。


司会者の合図とともにパーティーが開くと、来賓者たちは一条家の元へ集まった。

俺たちもそれに続くように一条家の席へと足を運ぶと、ふと先ほどみたアベルが彼女と話す姿が目に映った。

その少年は周りを牽制するように彼女の手の甲へキスを落とす。

彼女が頬を染める姿に、目の前が真っ暗になった。


彩華に触るな……彼女は俺のだ……誰にも渡さない。

怒りとも似た強い気持ちに、俺はじっと二人を睨みつけていると彼女の瞳と視線が絡む。

純粋なその視線に俺は思わず目を逸らせると、逃げるようにロビーへと足を進めた。



ロビーはひんやりとした心地よい風が吹き、カッとなった気持ちが落ち着く。

渡したくない、彼女は俺のだ、嫌だ嫌だ……そうどれだけ思おうが、選ぶのは彼女だ。

そう彼女が選ぶ、わかっている、だけど受け止められない。

俺は拳を強く握りしめると、高層階から見える街並みに目を向けた。


どれぐらいそうしていただろう、足音が聞こえたかと思うと、彼女の香りが鼻孔を擽る。

その優しい香りに俺は泣きそうになるのをぐっとこらえた。

呼びかけに返事もしない俺に、彼女は何も言うことなく、静かに隣で窓の外を眺め始める。


聞きたいことは沢山ある。


なぁ、どうして俺との婚約話を断ったんだ?


なぁ、あいつを選んだのか?


それなのにどうして俺を探してくれたんだ?


何とも言えない複雑な気持ちに狼狽する。

聞くと意気込んでいたはずなのに、いざ前にすると聞けない。

けれどここで聞かなければ、俺は前に進めない。


意を決して彼女へ問いかけてみると、よくわからない返答が返ってきた。

俺たちはまだ子供だからだと。

そんな彼女に苛立ち、次から次へと俺の気持ちが溢れ出していく。



だけど彼女には伝わらない。

俺がこの先心変わりするかもしれない、そんなの事ありえるはずがない。

こんなにもお前が大事なのに、これから先もそれは変わらない。

お前に敵うやつなんているはずないんだ。


彼女を真っすぐに見つめると、悲し気な瞳に胸が痛む。

それでも引き下がれなかった。

高等部卒業まで俺が彼女を好きだったら、俺と婚約すしてほしいとそう伝えた。

変わるはずなんてない、少しでも俺という存在を彼女の中で繋ぎ止めたかった。

俺はそっと彼女を抱きしめると、彼女は頷き体を預けるように胸の中に顔を埋める。

その姿が愛おしくて、俺は一刻も早く大人になりたいと強く願った。


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