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夢か現実か

憎悪が徐々に心を支配していくと、紅の瞳を真っすぐに見つめ返す。

私の大事な場所を奪い返さないと。

あの女に鉄槌を、許さない――――――――――。

拳に力が入り爪が肉をえぐるとポタポタと床へ落ちていく。

足元に血だまりが広がる中、立花さくらの声が頭に響いた。


「あなたの場所はどこにもないわ。憎いでしょ悔しいでしょ。記憶がなくたって、その感情は覚えているはずよ」


お兄様の腕に絡みつく立花さくらの姿。

そんな彼女を嫌がる様子のないお兄様は、ニッコリ優し気な笑みを浮かべて、彼女の頭を優しく撫でた。

嫌、やめて、離れて。


「そこは……私の場所よ!!!」


感情のままに叫ぶと、辺りがシーンと静まり返る。

自分の声が反響し頭に響く中、立花さくらがゆっくりとこちらへ近づいてきた。


「ここは私の場所。あなたはもう用なしなの」


怒りで我を忘れ飛び掛かると、彼女はヒラリと後ろに跳ね、嘲るような笑みを浮かべる。

なんで、なんで!!!

ギロリと彼女を睨みつけると、視界がグラリと揺れ真っ赤に染まった。

彼女が憎い……憎い……。

私は彼女を真っすぐに見据えると、血だらけの手を首へと伸ばす。

細く白い首を掴みギュッと力を込めると、ふと映像が頭を掠めた。


苦しむ彼女の姿、

紅い景色を見つめていると、突然既視感に襲われる。

私はこれを……知っている気がする。

ずっと前に、そう……これは。


(ダメ、ダメよ、あなたは私とは違うわ)


頭に響いた声にハッと目を開けると、目の前に紅の瞳が映った。

首を絞める手は緩んでおらず、呼吸は出来ない。

今のはなに……夢なの?

夢だとしても、あまりにリアルで体が勝手に震えだす。


悪役令嬢のようにはならないとそう思っていた。

私は違うのだと言い聞かせて。

そのために頑張ってきたのに……。

立花さくらを守ろうとする彼の姿を見て、心が闇に落ちてしまった。

立花さくらを許せない、そんな感情に囚われてしまった。

今のは夢なのか現実なのか、自分が自分でわからない。


恐怖と混乱で涙が浮かぶと、立花さくらが小さく微笑んだ。


「いい顔だわ」


彼女の笑みにまた既視感を感じた刹那、バタンッと大きな音が鳴ると、天斗の声が頭に響く。


「おい、お前何をしている!」


天斗は立花さくらを引きはがすと、私は空気を求めるように深く息を吸い込んだ。

そのままグラッと体が傾き崩れ落ちると、視界がグルグルと回る。


「はぁ、ゴホッ、ゴホッ、はぁ、はぁ、はぁ……ッッ」


蹲り痛む喉を押さえていると、天斗の力強い腕が首を持ち上げ私の体をそっと支えた。


「おい、彩華しっかりしろ、大丈夫か?一体何があったんだ?」


天斗の質問に応える余裕はない。

私は震える手を持ち上げ天斗に縋りつくと、立花さくらへ顔を向ける。

彼女は紅い瞳でこちらを睨むと、おもむろに口を開いた。


「なんで……なんで、どうして彩華ばかりなの?天斗様は私を選ぶはずなのに……なぜその女を選んだの?そこは私の場所でしょ?あなたが私を連れ出さないと、彼に会えないじゃない!!!」


さくらは絶叫すると、騒ぎを聞きつけたのだろうか、何事かと外から人が集まってくる。

警備員が部屋に駆け付ける中、視界に兄の姿が目に映った。

お兄様……。

求めるように手を伸ばし兄と視線が絡むと、その後ろから二条、華僑、日華が現れる。

警備員をかき分け進んでくる彼らの姿を茫然と眺めていると、天斗の怒声が響いた。


「うるせぇなぁ!黙れ!なに訳のわからねぇこと言ってやがんだ。頭おかしいんじゃねぇのか?俺はお前みたいな女は知らねぇよ。おい、そこのやつ、さっさとこの女を捕まえろ!!!」


警備員は警棒を手に部屋に入ってくると、彼女はヒステリックに叫んだ。


「なんで!!!出て行くのは彩華よ。私じゃないわ!!!」


耳を劈く声に、警備員たちが怯むと、彼女はその隙に走り出し、控室の窓をこじ開ける。

ビル風が部屋に流れ込み、カーテンが激しく揺れる中、立花さくらは迷うことなく窓際へ足を掛けた。


「彩華覚えてなさい、このままですむと思わないでね」


捨て台詞を吐くと、躊躇することなく窓の外へ飛び降りた。


嘘でしょ、ここは最上階よ。

痛む首を押さえながら何とか立ち上がり、ふらつきながら窓へ手を突くと、強い風に髪がたなびく。

恐る恐る下を覗き込こむと、そこには何もなく立花さくらの姿は霧のように消えていたのだった。

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