言いわけは
金城はIT関係の社長令嬢だ。
タイプではないが容姿も整っているし、ミスコンで優勝との箔もある。
婚約者や恋人もいない、うってつけだった。
連れを通じてあいつにパートナーを頼みにいったら、その条件としてあんたを攫えって依頼を受けたんだ。
あんたの写真を見せられ、ミスコンに参加させるなってな。
今年の出場者を品定めして、あんたに目を付けたようだ。
あいつはどうしても二年連続優勝って肩書がほしいみたいだったからな。
それであんたを攫ったら、まさかとんでもない大物だった。
きっと金城も知らなかっただろう。
あんたの情報は機密情報並みに管理されている、ただの金持ちじゃまず調べられない。
公の場に出ない幻の令嬢。
家族の愛を一心に受ける箱入り娘。
俺なんかが会える相手じゃない。
だからこのチャンスを逃すわけにはいかないと思ったんだ。
あんたの兄や兄貴に知られれば全力で邪魔をされる。
それに都市計画は俺の兄貴が一条歩と交渉して、共同開発をしていた。
だからあんたとの関係を知られるわけにはいかなかった。
あんたを脅して、兄の居ない日を見計らって連れ出した。
変装させて護衛を撒いて、盗聴器も処分して色々大変だった。
カモフラージュとして金城と会い、今日の夜会へ誘った。
快く受けてくれたが、当日にドタキャンだ。
まぁそれは想定内だったがな。
兄貴は確実に勝つ方法を選んでくる。
連れて行くパートナーを奪えば勝てる、兄貴の考えそうなことだ。
本来なら当日パートナーとして呼ぶだけで、あんたと会う必要なんてなかった。
だがあんたがどんな女なのか、純粋に興味があったんだ。
一条家の令嬢と話す機会なんてこの先にないだろう、だからあんたを知りたかった。
天斗は深く息を吐き出すと、姿勢を正しこちらへ顔を向け、真っすぐに私を見つめた。
「リスクを冒してまでやったが、十分に価値はあった。こうやって話しを聞いてもらえるほどには、信用してくれたみたいだしな」
真意を確認するように彼を見つめ返すと、瞳にはっきりと私の姿が映り込む。
「という訳だ。あんたの兄も今日ここへ来ていることは知っていたが、バレる可能性がある以上話せなかった。利用して悪かったな。あんたを爺に会わせた事で、俺の案が採用される。さっきも言ったが、写真は消してあるから安心してくれ。これ以上巻き込むつもりはない」
天斗はそう話すと、再度深く頭を下げる。
その姿に嘘をついているとは思えなかった。
現に彼の言った通り、一条家という名は利用したが、家に迷惑はかかっていない。
写真のデーターも消し、約束通り全てを話してくれた。
「そんな事情があるのなら、先に話してくれればよかったのに……」
「ここまで巻き込んでおいてあれだが、ビジネスには巻き込みたくなかった。兄の都市計画が進んで、助かる奴も幸せになる奴も大勢いる。それをわかったうえで、一個人を助けるために動くのは間違っていると理解しているからな。とりあえず事は成った。土地の権利書は俺の物。俺が罰を受けようとも、計画は俺の部下が進めてくれるだろう」
弱弱しく笑った天斗の姿に、何も言えなくなる。
一条家を利用してまで、助けたかった人。
利用された私には何の関係もないけれど、他人事だとは思えなかった。
どうするべきなのか俯き黙り込んでいると、おもむろに天斗が立ち上がる。
「覚悟は出来ている。あんたの兄がどう動くのか正直怖いけどな、だが俺の兄貴もやり手だ。きっと上手くやってくれるだろう。藤グループと一条家の関係は大丈夫だ。面倒な事に巻き込んで悪かったな」
彼は髪をクシャクシャと乱すと、ネクタイを緩めボタンを外した。
いつもと同じニヤリと口角を上げ私の肩を軽く叩くと、背を向け扉へと向かって行く。
そのまま部屋から出ると、私は一人取り残された。
私はどうすればいいのかしら……。
彼の話を聞いた今、天斗をどうこうしようとは思わない。
出来れば穏便に済ませたいわ。
そのためには、まずお兄様をなんとかしないと……。
今日は夕方に帰ると言っておきながら、こんな場面を見られるなんて……。
それに今までのことを振り返ると、追及されることは間違いない。
大分怪しい行動をしていた自覚はある。
あぁ~本当にどうしよう。
彼の話を利用して、協力していたと話そうかな。
でもそれだとコソコソ隠れて会っていた理由を問われるだろう。
都市計画にお兄様が噛んでいれば、話さない理由はないし、こんな手間をかけなくても何とか出来たかもしれない。
それにどこで知り合ったのか追及されると答えられない……。
誘拐され花蓮の下着姿の写真を撮られ脅されたとは言えないもんね。
言えばお兄様は全力でつぶしにかかる……、うーん。
あれやこれや良い案がないか模索していると、ガチャと扉が開いた。
天斗が戻ってきたのかと顔を上げると、扉の前にいたの彼ではなかった。
どうして……ここに……?
真っ赤に染まった目を見開き、憎しみのこもった瞳で私を見下ろすと、立花さくらが不敵な笑みを浮かべていた。