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昔話

私はまた彼の向かいのソファーへ腰かけると、天斗を見つめる。

彼はネクタイを緩めると、膝に肘をつき彼の瞳に私の姿がはっきりと映った。


「長くなるが、最後まで聞いてくれるか?」


いつもの彼とは違うしおらしい態度に、私は素直に頷くと、物思いにふけながら話し始めた。


昔の俺はさ、兄貴とは違って家に縛られるのが大嫌いで、ああしろだの、こうしろだの、親の言いなりになるのが我慢ならなかった。

勉強なんて、家なんて、そうやって毎日いらだって、喧嘩吹っ掛けたりしてさ。

親のコネでいい中学に入学させられたが、問題を起こしてすぐに退学した。


兄貴はロボットみたいに親のいうことを何でも聞く優等生。

対して俺は反発ばかりするバカ息子。

グレて問題ばかり起こして、何度もみ消してもらって、母親に泣かれた。

親父は俺と話をする気もないみたいで、居ない者として扱ってた。

次第に家に居づらくなって、高校へ進学せずに俺は家を出たんだ。


あの頃の俺は幼くて何もわかっていないバカだった。

一人で生きていけると思って家を出たが、世間そう甘くない。

金を稼ぐ手段も、住む場所もない、だから悪いやらとつるむようになった。


カツアゲ、脅迫、窃盗、詐欺に、悪さばっかりしてた。

だけど命令されるのが嫌いだとか、甘ちゃんだった俺が、グループ内で上手くやっていけるはずない。

案の定そいつらと揉めてボッコボコにされて、放り出された。

行く当てもなくさまよっていたあの日、ある老夫婦に出会ったんだ。


傷だらけの見知らぬ俺にさ、声をかけてくれて怪我を治療してくれて、飯まで食べさせてくれた。

金髪で目つきも悪かった俺に、何も聞かずに世話してくれたんだ。

皺皺の顔を見てるとなんか泣けてきて、俺は何やってんだろうなって。

情けなくてなって、生まれて初めて人前で泣いた。


二人は居たいだけここに居ていいと優しい言葉をくれた。

数日世話になって、俺みたいなクズの話を真剣に聞いてくれて、それがすげぇ嬉しくて。

不満不平を吐き出して、その度に導いてくれる二人に、自分の幼さと未熟さをそこでようやく理解した。


やり直したいと話すと、二人は一度家に帰れと諭してくれた。

大見得を切った手前帰るなんて、ずっと変なプライドがあった。

だけどそれも二人のおかげで一歩踏み出せたんだ。


悪い奴らと縁をきって、けじめのために丸坊主にして数年にぶりに家に帰った。

久しぶりに家に帰ったらさ、誰も俺の心配なんてしてなかった。

居心地の悪い空間、当然だよな、覚悟はしていた。

これからは腐らずに、そう二人約束したから、一からやり直せた。


中等部の勉強に通信で高校へ通って、親の下で働いた。

下っ端で雑用ばかりだったけど、それで十分だった。

兄貴はその頃、親父の右腕として仕事してて、俺とは天と地ほどの差があったんだよな。


無事に高校を修了し、兄貴と同じ大学へ入学して、久しぶりに世話になった老夫婦に会いに行った。

親の金じゃなくて自分で稼いだ金で新調したスーツを着た。

数年ぶりに訪れたそこは、ガラリと雰囲気が変わって驚いた。

家を訪ねると、玄関前にスーツ姿の男が3人。

よく見ると、そいつらは兄貴の部下として働いるやつだった。


身を隠し盗み聞きしてみると、どうやら老夫婦に退去命令をしていた。

家に戻って兄貴の仕事資料を漁ってみると、都市計画を進めていてる事実を知ったんだ。

でっかいショッピングモールを作るんだってさ。

資料に記されたその場所が、俺の世話をしてくれた老夫婦の家の真上だった。


それ知って俺は二人に会いに行った。

自分の素性は教えてない、スーツ姿の俺を自分の子供みたいに喜んでくれた。

礼を言って世間話してると、都市計画の話と、立ち退きを必死に拒否していると聞いたんだ。

長年住んだ場所を離れたくない、当たり前だろう。

恩を返したい、だけど俺に都市計画を中止させる力はなくて、ダメもとで親父に頼み込みに行った。

兄とは家に戻ってから一言も話したことない。

兄は俺を見限っているのか、興味がないのか、顔すら合わせてくれない。

だけど親父に話してみるとさ、兄が一人で考えたもんで、何もできないと門前払いだった。


だけど諦めきれなくてさ、無い知恵を必死に振り絞って、俺は都市計画に変わる新たな企画書を持っていったんだ。

次は親父にじゃなくて、会長である祖父に。

親父よりもまだ話がわかるかもしれない、そう思ったんだ。

周りの奴らに頭を下げて、会長に繋いでもらって、色々調べて兄さんに並ぶ企画案だ。

それを爺に見せたらある条件をだされた。


「ほう、天斗が真面目に勉強していると聞いていたが、こりゃ面白いの。じゃがすでに都市計画は進んでおる。それを無料でとめるのは無理じゃ。金は要らぬ儂は楽しみたいだけなんじゃ。そうじゃの~来年の12月24日、藤グループの懇親会が開かれる、そこで良い女をパートナーとして連れてきた案を通そうじゃぁないか。儂が納得する女性をな」


そんなふざけた条件をだされた。

期限は約一年、ふざけるなと怒鳴りたい衝動を必死に抑えて俺はその提案をのんだ。

兄は俺なんかに負けるはずないだろうと思ったんだろうな、文句も言わずに了承して都市計画を進めていた。


改めて条件を考えるとさ、悪さばっかしていた俺に良いパートナーなんているはずがねぇ。

逆に兄は業界に顔が広くてさ、選り取り見取りだ。

俺に出来ることは退学したサクベ学園で探すぐらい。

そこで最初に目に留まったのが、金城だった。

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