最上階の会場で(二条視点)
時は少し遡る。
このお話は彩華がまだ、パーティー会場へ到着していない頃。
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あぁー、今日はクリスマスイブだってのに、全く面倒だな。
だが明日は一条と……二人っきりではないが、まぁそこは仕方がない。
謎の男の正体もわかっていない今、焦りは禁物だ。
とりあえず、今日一日頑張るか。
俺は頬を叩きながら気合を入れると、スーツに袖を通す。
そのまま車の後部座席へ乗り込むと、帝国ホテルへやってきた。
西日が眩しいほどに差し込む中、夕暮れに染まる高く聳え立つビルを見上げていた。
今日はここで、藤グループ主催のパーティーが開催される。
藤グループとは、ここ数十年で急成長してきたベンチャー企業だ。
今のご時世、こういった企業が目立ってきた。
従来であれば格式のある条華家がこういった催しに参加することはなかったのだが、さすがにこれほど成長した会社を無視することは出来ない。
そこで当主の息子である俺が駆り出されたのだが……。
そういえば歩さんや華僑、それに日華はもう到着しているのだろうか。
そんな事を考えながら背広の胸ポケットから招待状取り出すと、俺はホテルの中へと入って行った。
ロビーへやってくると、そこは人でごった返していた。
何気なく参加者たちを見渡してみると、名のある企業の代表取締役や政治家、それに大物俳優に女優、更には世界的に有名なデザイナーや起業家の姿が目に映る。
業種、職種共に様々で、なんとも派手な集まりだ。
そんな彼らを横目に、俺は手早く受付を済ませると、会場内へ入って行った。
会場は軽く500人は収容できそうな程の広さ。
どうやら帝国ホテルの最上階フロアを全てを貸切っているようだ。
会場内にはBGMだろう、ゆったりとしたピアノとヴァイオリンのクラシックが流れ、天井にはキラキラと輝くシャンデリアが連なり、正面には舞台が用意されている。
クリスマスをイメージした装飾品の中には、有名な美術品がいくつも並び、高級感を演出していた。
中央には立食パーティー用に豪華食事がズラリと並べられ、メディアを通してみたことがある、有名なシェフが数人佇んでいた。
なんともまぁ、金がかかっている。
分家の条華家の姿もチラホラ視界に映る中、会場を進んで行くと、華僑の姿を見つけた。
「よっ、もう来てたんだな」
「二条君こんばんは。はい、歩さんや日華さんも来られてますよ。ところで思っていた以上に派手なパーティーのようですね。……懇親会程度の催しなのかと思ってました」
「だよな、俺もそう思ってたが。まぁ……藤グループもあちこちに顔を広げて手広くやって大変そうだよな。確か今は二代目が社長を継いでるんだろう」
華僑は俺の言葉に頷くと、近くを通りがかったウェイターからグラスを手に取った。
それに合わせて俺もグラスを手に取ると、乾いた喉を潤していく。
「ですね、初代は会長として頑張っているようですよ。それに……」
「あれ、二条も来てたんだ。こんばんは」
その声に顔をあげると、日華がドンッと背中へ乗りかかった。
グラスが激しく揺れ茶が零れそうになるが、何とか持ちこたえると振り返る。
「ちょっ、日華さん危ないじゃないですか」
「ごめんごめん。ところで彩華ちゃんを連れてきたりしてない?」
コソコソ耳元で囁かれると、俺は思いっきりに腕を振り上げ引きはがす。
「いやいや、連れて来られるわけないじゃないっすか。歩さんが許してくれませんよ。その前に俺が殺されます」
「ははっ、まぁそうだよねぇ……」
そう呟くと、日華は何かを考え込むように口を閉ざす。
そんな彼の様子に首を傾げ華僑へ向き直ると疑問を口にした。
「そういえば歩さんは?」
「歩さんでしたら、たぶんロビーかと。会場にいると女性たちが集まってきてしまって、鬱陶しいからと出て行ってしまいました……」
あー、それだとたぶん機嫌が悪いだろうな、これはそっとしておこう。
そうして暫くすると、会場内は先ほどよりも人が集まっていた。
ガヤガヤと声が響く中、会場内に流れていた音楽が止まった。
ふと腕時計へ目を向けると、もうすぐ開宴の時間だ。
歩さんはまだ戻ってきてないのか。
辺りをキョロキョロ見渡してみるが、彼の姿はなかった。