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香水の香り(二条視点)

ガチャッと扉が開くと、もうお手伝いさんは帰っているのだろう、部屋に人の気配はない。

歩さんも今日は仕事で出ているはず。


「どうしたの香澄ちゃん、こんばんは。あれ二条も?」


その問いかけに香澄は俺の腕をグイッと引っ張ると、一条の前へと引っ張っていく。

するとふと柑橘系の変わった匂いが鼻孔を掠めた。


「うん一条、何か香水でもつけているのか?」


そう何気なく問いかけてみると、彼女は慌てた様子で後退り苦笑いを浮かべて見せた。


「へぇ!?あー、ちょっとね。それよりも、えーと……二人ともどうしたの?」


目を泳がせる彼女の様子に、明らかに何かを隠しているとわかる。

そんな姿に苛立ちを感じる中、香澄が横から割って入ってくると、一条の体へと鼻を寄せた。


「クンクン、う~ん、これってこの国発祥の香水専業メーカーの香水じゃない?確か藤グループの……」


香澄の言葉に、一条は感心した様子を見せると、ニッコリと笑みを浮かべて見せた。


「香澄ちゃん詳しいのね。匂いだけでどこの香水かわかるなんて!」


「でもこの香水、確かメンズ用だったと思うんだけど。ねぇ~お姉様どういう事?」


香澄はグィッと一条の体に抱きつくと、不貞腐れた様子で頬を膨らませた。


「えっ、あーそうなんだ。えーと、その……」


香澄の追及に一条は口ごもると、気まずげに視線を逸らせる。


「お姉様、私見たのよ。さっきお姉様知らない男一緒に居たでしょ!その時に付いたんじゃないの?こんなに匂いがつくなんて……もうお姉様!」


一条の戸惑う様子に怯むことなく、香澄ははっきりそう口にすると、彼女は困った様子を見せる。


「あー、それは……えーと、あっ、そう、見間違いよ」


「そんなはずないわ。あれは間違いなくお姉様だったわよ!なんで嘘つくのよ~!」


香澄はギュッと一条の体へ抱きつくと、彼女はあやすように香澄の髪を優しく撫でる。

俺には聞こえないようにしているのか、そっと香澄の耳元へ顔を寄せると、コソコソと何かを話し始めた。


「ごめんね香澄ちゃん。でも色々と言えない複雑な事情があるの。だからこれ以上聞かないでくれないかな。後……お兄様にも黙っていてほしいの。もう少しで終わると思うから……。全てが終わったらちゃんと話すわ」


そう話すと、香澄は渋々と言った様子で彼女を見上げた。


「わかった、約束だからね。それよりも今日は別の用事できたの」


香澄は一条から体を離し、俺の方へ顔を向けると、早く言いなさいよ、と目で訴えてくる。

色々な複雑な気持ちが込み上げる中、彼女を他の男に奪われたくない。

そう強く思うと、俺は一条の手をそっと握りしめた。


「一条、クリスマスは空いているか?」


「クリスマス?えぇ、ちょうどよかった私も二条に声をかけようと思っていたの」


優し気な笑みに見惚れる中、俺は瞬きを繰り返すと、深く息を吸い込んだ。


「ならクリスマス俺と過ごさないか。また前みたいに食事でも……」


そう言葉を続けていると、後方が何だか騒がしくなっていく。


「ちょっと~いい雰囲気なんだから邪魔しないで!」


香澄の声に何だと思い振り返ると、そこにはニッコリと笑みを浮かべた歩さんが佇んでいた。

隣には阻止しようとしたのだろう、香澄が必死に歩さんの袖を引っ張り引き戻そうとしている。

歩さんはそんな香澄を冷たく見据えると、パシッと手を振り払った。


「こんばんは、二条。その話、僕も一緒に参加してもいいかな?」


「あら、お兄様おかえりなさい。うん、もちろん!それならみんなを誘いましょう!場所はどこが良いかしらね」


一条は楽しそうな様子で、香澄の元へ向かうと、クリスマスパーティーについて話し始める。

そんな中、俺は歩さんから距離を取るように後退ると、ガシッと肩を強く掴まれた。


「彩華と二人でクリスマスなんて……許さないよ」


「あっ、はい、すみませんでした。それよりも歩さん少しいいですか?」


俺は歩さんを連れて外へ出ると、一条と香澄から離れる様に廊下を進む。

二人の声が聞こえなくなり、辺りに人がいない事を確認すると、ゆっくりと立ち止まる。


「さっき香澄から聞いたんですが……一条が男と一緒に車から出てきたそうっすよ。歩さん何か知ってますか?」


「はぁ……知っているよ。っで男の顔は見たのか?」


歩は今にも人を殺しかねないような殺気を見せると、俺を冷たく睨みつけた。


「知っているなら……あっ、いや……男の顔ははっきりと見てないって言ってました」


「チッ、全く使えない妹だね」


苛立つ歩を前に、辺りの空気が一気に冷たくなっていく。

そんな中、俺は恐る恐るに視線を上げると、窺うように口を開いた。


「知っていたのなら、どうして歩さんは何もしてないんですか?」


そう問いかけてみると、殺気が先ほどよりも強くなる。

ゾクゾクと背筋に悪寒が走ると、彼は冷めた笑みを浮かべていた。


「何とかしたいのはやまやまだよ。可愛い彩華が変な男に引っかかっているんて耐えられないからね。だが相手は僕をとても警戒している。見つからないようありとあらゆる手段で彩華を連れ出しているんだ。どこで情報を得ているのか……彩華が出かけるときは、いつも休めない重要な仕事が入っているときばかり。今日もそうだ、藤グループとの外せない商談があった。出かける彩華に護衛をつけても、彩華を変装させて護衛を巻かれ、彩華に内緒でコッソリGPSをつけてみたが、それもすぐに見破られた。連絡を取り合っているだろうスマホはホームレスから購入したのだろう、身分証で購入されていて、買った本人はわからない。男に結び付く手がかりが何もないのが現状だ。彩華に聞いても教えてはくれなかったしね。はぁ……彩華がどう思っているのかわからないが……次は必ず突き止める」


「俺も協力します!一条に男なんて……あれほど婚約しないと言っていたのに……ッッ」


「当たり前だ、次はいつ会うのか……その時が勝負だ」


力強い歩の言葉に、俺は深く頷くと、ガシッと硬い握手を交わした。

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