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ある日の下校①

二条の屋敷を訪れてから数日後。

学校が終わり二条と一緒に下校していると、仕切り直しということで、私はまた彼の屋敷へ招かれる事になった。

今回はお婆様や二条の両親に出迎えられ戸惑った。

まぁ……香澄ちゃんは終始不貞腐れていたけどね。


二条にお茶をたててもらった後、見学で武道を見せてもらう。

彼らの息の合った組手、洗練された動きや型に見惚れてると、二条のお母様がやってみる?と声をかけてくれた。

その言葉に深く頷くと、二条の隣に並んで武道を習った。


それが思った以上に楽しくて、帰るや否や兄が居ない時間を見計らって、母に武道を学ばせてほしい、と直談判しにいった。

母は女の子がと渋っていたけれど、私の意見を尊重してくれると言ってくれた。

すぐさま二条へ連絡して武道を習わせてほしいと話許可をもらったつかの間、兄はどこからか情報を仕入れたのか……武道はダメだと猛反対。

しかしもう相手方に伝えてしまっている現状、今更取り消すとはできない。

兄はダメだの一点張りだったけれど、今更取り消せないと強く訴えると、最終的に不承不承で納得してくれた。


何とか兄の了承も取り、改めて彼の両親へ挨拶へ向かうと、二人は快く私を受け入れてくれる。

武道家の家系である二条の母は、女性が武道を習う事に大賛成のようだ。

さっそく道場へ向かい始めてみると、二条は小さい頃からの英才教育と持ち前の運動神経の良さで、私との実力は雲泥の差があった。


組み手なんてまだまだ先で、最初は基礎の型から学び始める。

一つ一つの動きを確認しながら型を作るのは、思っていた以上に体力を消耗した。

だけどそれがとても心地いい。

やっぱり体を動かすと気持ちいいんだよね!


二条は私が稽古場に上がると、必ず傍についてきてくれる。


彼の練習を邪魔してしまっている……そんな気持ちになると私は二条へ顔を向けた。


「私は大丈夫だから自分の稽古をしてね」


「気にするな」


彼はすかさず答えると、その優しさに心が温かくなった。

何だか申し訳ない気持ちでいっぱいだったけど、正直二条が傍にいてくれると心強い。


「ありがとう」


彼の言葉に甘える形になってしまうが、感謝の言葉を伝えると、彼はなぜか気まずげに視線を逸らせる。


「いや、まぁな。一条ならこれぐらいの練習で怪我はしないと思うが、念のためだ」


照れながらそう話す彼の姿に、なんだか胸がホワッと温かくなった。



―――――――――おまけ(二条視点)―――――――――


部屋の電気を消し眠ろうとベッドへ入ったその刹那。

プルルルル、プルルルル。

突然鳴り出した携帯電話の着信音に俺は布団から顔出し怠惰に手を伸ばす。

画面に表示された名前を確認すると動きを止めた。

一条 歩、こんな時間になんのようだ……。

プルルルルとなり続ける様子に、一瞬電源ボタンを押そうか悩む。

きっと彩華が道場へ通うことになったけんだろうと安易に想像がつく。

反対しろとでも言われるのか……。

俺は深く息を吐き出しおもむろに体を起こすと、通話ボタンを押した。


「はい、もしもし。こんな夜遅くにどうしたんですか?」


「彩華が君の道場へ通うことになったのは知っているかな?」


「あっ、はい、今日一条から連絡ありましたけど……」


「君は彩華が武道をすることに反対しなかったのかな?はぁ……まぁいい。君にこんな事を頼むのも癪なんだけどね、彩華の事を見ていて欲しいんだ。彼女はとってもお転婆だからね。もし万が一怪我でもさせたら……僕は全力で君を葬るから、覚悟しておいてね」


ブチッと電話が切られると、俺は電話を握りしめたまま寝転がった。

一条が武道を習うと言ってきた時、俺も怪我の心配をしたのは事実。

だけど一緒に居られる時間が増えると思うと、嬉しい気持ちが増さって反対できなかった。


「言われなくてもわかっている。彼女に怪我なんてさせない、俺が必ず守る」


天井へ向かって拳を突き上げると、俺はそのまま眠りについた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


中等部への進学が近づいたある日。

授業が終わりカバンをもって下駄箱へやってくると、二条が待っていた。


「悪い、言い忘れた。今日は道場休みだからな」


「えっ、そうなんだ残念……。じゃまた明日ね!」


何やら急いで帰ろうとする二条へ元気よく手を振ると、大きく手を振り返してくれた。


校門へやってくると、迎えの車が到着する。

乗り込み座席に体を預け、車窓からゆったり流れる景色を眺めていると、赤い橋で泣いている少女の姿が目に入った。


「車を止めて」


運転手へ向かってそう叫ぶと、止まったのを確認し、私はすぐさま外へと飛び出した。

どうしたのかと慌てる運転手をよそに、私は急いで橋まで向かうと、少女の泣き声が耳にとどく。

私はその少女へ歩み寄ると、前にしゃがみ込み、優しく頭を撫でた。


「大丈夫?怪我したの?どうして泣いているの?」


少女は突然現れた私に驚いた様子を見せると、ゆっくりと川の方を指さした。

指し示す先を目で追っていくと、そこには可愛らしい猫のぬいぐるみが、緩やかな波の上でゆらゆらと揺れている。

良く目を凝らしてみると、どうやら川の中央で何かに引っかかっているようだ。

猫のぬいぐるみはその場でプカプカ浮き、動く様子はない。

私は赤い橋の手すりから顔をだし、川を覗き込むと様子を確認してみる。

うーん、結構深そうだし、流れも緩やか。

最近体も鍛えているし、これぐらいちょろいわ!

私は少女の頭を撫で、泣かないでと笑顔を向けると、橋の手すりによじ登り、躊躇することなく川へと飛び込んだ。


ザッバァーンッ


「お嬢様!!!!!」


「おいっ!!!!」


良く知る運転手さんの声と、幼い少年の声が耳に届いた瞬間、私の視界は泡で埋まっていた。

私は水を掻き分けるように上へ上へと進むと、水面から顔を出す。


足をゆらゆらと動かしながら、水面を浮遊し辺りをキョロキョロと見渡すと、先ほど橋の上で見た猫のぬいぐるみが目に入った。

私は手で大きく水をかき、ぬいぐるみまで進んでいくと、絡まっていた水草から離し、ぬいぐるみを優しく抱きかかえる。

目を丸くして橋の下を呆然と見ていた少女と目があうと、私は空いている手で、大丈夫だと示すように手を振って見せた。



ぬいぐるみを抱えたまま岸へと泳いでいくと、叢へそっとぬいぐるみを置き、水の中から這い上がる。

少女は私の姿に慌てて川岸まで滑り降りてくると、私は少女へ猫のぬいぐるみを手渡した。


「おねぇちゃん、ありがとう!」


少女は満面の笑みを浮かべると、ぬいぐるみを大事そうに抱える。


「家に帰ってお母さんに洗ってもらうんだよ」


私も少女に笑顔を返すと、真っ青な顔をした運転手さんが堤防を滑りおりてきた。


「おッ、お嬢様!!!!」


彼は今にも泣きだしそうな顔で私を軽々と抱き上げると、堤防をすごい速さで駆け上っていく。

私は彼に抱かれながら運転手の肩越しに少女に手をふると、おねぇちゃん~~~ありがとう!!と少女は嬉しそうに大きく手を振り返してくれた。


運転手は必死なのだろう、走る振動でグラグラと体が揺れる。

私はモゾモゾと体をくねらせると、ゆっくり体を起こした。


「ねぇ、お兄様には内緒にして、お願い。……また怒られちゃうわ」


運転手はその言葉に目を泳がせると、善処します……と弱弱しく呟いた。



屋敷へ着くと、またも運転手に抱き上げられたまま部屋へ運ばれ女中へと引き渡される。

水浸しになった私の姿に驚愕した表情を見せる女中は、私を慌てて抱き上げると、浴槽の方へと一目散に走っていく。

うーん、自分で歩けるんだけどな。

あぁ、そうか!私が歩くと廊下が水浸しになっちゃうか。

そんなどうでもいい事を考えながら女中に体を預けていると、脱衣所へ降ろされた。


水が滴り落ちる服を脱がされると、ふっかふかのバスタオルで包まれる。

揉みくちゃにされる中、女中に背中を押されるままに、私は浴槽へ向かうと温かいお湯で体を洗い流される。


もみくちゃにされながら女中は私の体を洗い流すと、そのまま私は湯船へと浸からせた。


「お嬢様のお転婆にはいつも驚かされますわ。はぁ……しっかり暖まって下さいね」


女中は心配そうな表情で優しく諭すと、綺麗な礼をし外へと出ていった。



部屋へ戻ると、なんだか鼻がムズムズする。

暑いといっても、もう9月だしなぁ~。

今日は早く休もう。


クシュン、クシュンとくしゃみを繰り返すと、なんだか寒気がしてくる。

風邪を引いたらお兄様にバレちゃう、布団の中で温まろう。

寝着を整え布団へ潜り込むと、襖の向こうから入るよ、と兄の声が聞こえた。

慌てて体を起こすと、心配そうな表情をした兄が私の前にしゃがみ込む。


「彩華……川に飛び込んだんだって?」


うっ、あの運転手、もうしゃべっちゃったのね。

まずいと思った私は、咄嗟に布団の中へ潜り込むと、兄は深いため息が耳にとどく。


「はぁ……、あまり心配させないでくれ。彩華が川へ飛び込んだと聞いて、僕の心臓は止まりかけたんだよ」


心配そうなその声に、私は布団からちょこんと顔を出し目線を上げると、ごめんなさい謝った。

すると兄は少し怒った様子で私の顔を覗き込む。


「彩華、そのお転婆もほどほどにしなさい。もうすぐ中等部になるんだからね」


私はコクコクと頷くと、兄は布団ごと私を優しく抱きしめ、頭にキスをおとす。


「はい……心配かけてごめんなさい……」


「彩華の優しいところはとても良いことだと思う。だけどね自分を犠牲にして助けるなんて、何の意味もないよ。それだけ覚えておいて欲しい」


私はコクリと深く頷くと、布団へ潜り兄の言葉の意味をじっと考えていた。

おまけ


プルルルル、プルルルル。

突然鳴り出した携帯電話の音に俺は怠惰に手を伸ばし、着信の名前を確認すると、俺はその場に固まった。

一条 歩・・・・。

こんな時間に一体何の用だ・・・、もしかしたらあいつが武道することがもう耳に入ったんだろうか・・・?


「はい、もしもし・・・こんな夜遅くにどうしたんですか・・・?」


「彩華が君の道場に通う事は知っていたのかな・・・?」


「・いや・・・・っっ、はい・・・・」


「はぁ、まぁいい・・・君にこんな事を頼むのも癪なんだけどね、彩華が道場に居る間、彼女の事を見ていて欲しい。彼女はとってもお転婆だからね・・・もし万が一怪我でもさせたら・・・僕は全力で君を葬るからね・・・」


電話越しに聞こえるドスの聞いた声に、二条は体を震わせると、


「わかりました・・・・」


と弱弱しく返事を返した。

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