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持ちかけられた取引

男の背が遠ざかっていくその姿に、私は慌てて顔を上げると、口を開けた。


「待って!誰に……頼まれたの?」


何とか引き留めようと声を上げると、彼は立ち止まり徐に振り返る。


「それは教えてやれねぇなぁ。まぁ、ミスコンなんて俺にとってはどうでもいい。俺はそいつとある取引をしただけだ。あんたをミスコンに出場させなければ、いいだけの楽な仕事。だから大人しく座っとけ。手荒な事はしたくないと最初に言っただろう」


「取引……?待って、見返りは何?もしかして私が代わりになれるかもしれないわ。だから……解放してくれない?」


そう男に提案してみると、彼はクツクツと笑い始めた。


「ほう、この場で俺に取引を持ちかけてくるなんて度胸が据わった女だ。だが一般人のお前に何が出来るんだ?それよりもこんな状況になってまで、ミスコンってやつに参加したいのか?ははっ、あんな見世物になりたがる奴の、気が知れねぇなぁ」


「……ッッ、なりたいわけじゃないわ!こっちも色々事情があるのよ!参加しなきゃ……友達が……ッッ」


私はそこで言葉を詰まらせると、二人の姿が頭を掠める。


「なんだ?あんたも訳ありか」


男は興味深げに私をじっと見下ろす中、こちらへ戻ってくると、私の顎へ手を伸ばした。

そのままクイッと顎を持ち上げると、彼の瞳に私の姿が映し出される。


「あんたみたいな別嬪さんが出場すれば、優勝間違いなしだっただろうなぁ」


私は彼の手から逃れるように首を振ると、キッと男を睨みつける。

身をよじらせ男からまた距離を取ろうともがくと、胸元から学生証が落ちた。

あっ、まずい。

脚で慌てて学生書を隠そうとするが、その前に男が拾い上げる。


「うん、あんた一条 彩華って言うのか?この名前……どこかで聞いたことがあるな……」


彼は学生書を眺め考え込む中、私は口を閉ざすと、足元へ視線を下した。

どうしよう……さっきの感じだと、私を一条家の者だとは知らなそうだった。

でもここでばれて……家に迷惑がかかったらどうしよう……。

いや、攫われた時点で、迷惑はかかってるか……。


「いちじょう……あやか、まさか……」


男は学生書を持ったまま慌てた様子で部屋の外へ飛び出すと、扉を開けたままに去って行く。

開け放たれた扉に、私は脚に力を入れ何とか立ち上がると、慎重に扉の方へと近づいていった。


そっと部屋の外を覗いてみると、どうやらここは2階のようだ。

下には工場のレーン機械がズラリと並び、数人の男たちがたむろっていた。

横へ目を向けてみると、下へと続く階段が一つ。

その階段の奥には私の部屋と同じような扉が見える。


花蓮さんはあそこにいるのかしら……?

扉から乗り出す様に体を外へ出すと、男が階段を駆け上がってくる姿が目に映る。

その姿に私は慌てて部屋の中へ戻ると、先ほど座っていた場所へと戻って行った。


「なぁ、あんた条華族のトップ、一条家の娘なのか?」


あぁ……まずい……どうしよう……。

彼の問いかけに何も答えず俯いていると、男は苛立った様子をみせる。


「正直に言え。話さねぇなら、もう一人の女のところへ行くまでだ」


背筋がゾッとするような冷たい声に、私は慌てて顔を上げた。


「待って、そうよ。私は一条家の長女、一条 彩華」


そうはっきりと答えると、男は肩を揺らせて笑いながら、視線をあわせるようにしゃがみ込んだ。


「ほう、一般人じゃなかったのか。ははっ、あんた本物の一条家の人間か。こりゃいい」


「……身代金でも貰おうというの?そんな事をすれば、あなたたち全員つぶされるわよ。さすがに一条グループの力を知らないはずないわよね」


「もちろん知っているさ。それよりもだ、さっきの話……俺と取引しねぇか?あんたらを解放して、学園まで連れて行ってやる。その代わり、三ヶ月でいい、俺のパートナーになれ」


三ヶ月のパートナー?

どういう意味?

男の言葉に訝し気に顔を上げると、強く睨みつける。


「パートナー……?私に何をさせようというの?私は一条家の人間だけれども、力はないわ。家を任されているのは私の兄。だから……」


「いや、別に一条家をどうこうするつもりはねぇ。必要なのは一条 彩華 あんただ。なぁに、無茶な事は頼まねぇよ。ちょっと俺に付き合ってくれるだけでいい。さぁ、どうするさっさと決めねぇと、ミスコンに間に合わないぜ」


男は袖を捲ると、時計を私へ見せつける。

時間は10時……確かプログラムに、ミスコンは9時~12時と書かれていたはず。

なら急がないと……ミスコンに参加しないと、二条や華僑君が危ない。

コチコチと進む時計の針に気持ちが急く中、私はグッと強く拳を握りしめると、どうするべきかと頭を悩ませていた。

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