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香澄との攻防戦

無言の威圧感を感じながら茶道は終了しほっとしたのもつかの間、また女中たちが現れると何やら準備を始めた。

そして指示されるまま、華道・書道・琴の演奏をすることになり、貫禄のある女性はずっと私を監視する。

はぁ……何なんだろうこれ。

この無駄に疲れる緊張感はいつまで続くんだろう。

琴の演奏が終わり、さすがにもう解放されるだろうと考えていると、女性が私へと扇子を差し出した。


「舞を見せなさい」


まだあるの……?ってそれよりも次は舞踊なのね。

私は疲れた笑みを浮かべると、差し出された扇子を受け取る。

座布団から滑りおり立ち上がると、和楽器の音が部屋に響いた。


音に合わせ舞いを始めると、先ほどよりも緊張感が少しばかり薄くなった気がする。

こうやって体を動かすのは好き。

私を値踏みする視線を忘れ、楽しい気持ちで舞を踊りきると、謎の女性は静かに拍手をした。

それにつられるように拍手が大きくなると、私は深く礼を取り、そっと扇子を閉じる。


「さすが一条家のお嬢さんですね、非の打ち所がありません。あなたならすぐにでも二条家へ嫁げます」


突然の言葉に目が点になると、手にしていた扇子が畳の上に落ちた。

へぇ、嫁ぐ?いやいやいや、どういうこと?

私たちまだ11歳で、それに正式な婚約者でもない。

彼女の言葉にその場で固まっていると、何と返答していいのかわからない。

とりあえず深くお辞儀をしてみると、ゆっくりと面を上げた。

すると、その後ろで大きく目を見開いた香澄と視線が絡む。


「うそでしょ……お婆様の試験に合格しちゃうなんて……」


ボソッと呟かれた言葉は小さく聞き取ることが出来ない。


バンッ


「何をしているんだ!?」


襖が勢いよく開き、聞きなれた声に顔を向けると、焦った様子の二条が佇んでいた。


「敦、はしたない言葉使いはおやめなさい。それと襖は静かに開けるのですよ」


「すみません……ッッお婆様こんなところで、一体何をしているのですか?彼女は俺の友人だ」


二条の言葉に女性へと顔を向ける。

この方、二条家の御婆様なのね。

どうりで貫禄があるはずだわ……。


「ふん、二条家へ嫁ぐに相応しいかどうかを見定めていただけですよ」


二条は御婆様の様子に頭を抱えると、私の元へと駆け寄ってくる。


「大丈夫か?その……ごめんな……」


「いいえ、気にしていないわ。久しぶりに人前で日本舞踏に緊張しちゃったけど。ふふふ」


笑顔を返すと、彼の頬が微かに赤く染まった。


そうして私は二条に連れられるまま、部屋を後にすると、悔しそうな表情を浮かべた香澄が二条の元へと駆け寄った。

彼女は二条の腕に捕まりながら私と目があうと、頬を膨らませプイッとそっぽを向く。

はぁ……仲良くなるのはまだまだ先になりそうだなぁ。

私は深く息を吐き出すと、二条の後に続くように部屋を後にした。


美しい庭園を眺めながら二条の後をついていくと、不意に彼が立ち止まる。

ぼうとしていた私は彼の背中に頭をぶつけると、その場でよろめいた。

そんな私の様子に二条はすぐさま振り返ると、抱きしめるような形で私の体を支る

彼の瞳に私の姿が映り込むと、申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「今日はごめん、せっかく来てくれたのにな……」


突然の謝罪に気にしないで、と慌てて否定する。


「結構楽しかったよ、二条の可愛い妹さんにも会えたし。御婆様のおかげで緊張感のある稽古も出来たしね」


安心させるように笑みを浮かべると、彼の表情が緩んでいく。


「一条はいつもそうやっていつも笑ってくれるんだよな」


そうボソリと呟いた言葉に、私は首を傾げた。


「その……お婆様から聞いたんだろう?」


「嫁ぐ話?全く気が早いよね。私たちまだ11歳だし。それに二条は婚約者候補で婚約者じゃないのにね」


こうして改めて彼を見ると、容姿といいスペックといい乙女ゲームの攻略対象者なのだろう。

悪役である私と関わりになっているのも、乙女ゲームがあるあらなのかもしれない。

ゲームの中の二条敦を思い出せないけれど、彼をこうして知って、本当に幸せになってもらいたいと思うんだ。


「なぁ、一条……俺は……ッッ」


「あのね二条、今はこんな形で婚約者候補ってなっているけど、もし誰か好きな人ができて、その人と結ばれたいと思ったら、遠慮なくいってね!再来年中等部に進んで、その後高等部へ進級する。そこで新しい出会いがいっぱいあると思うんだ。その時に私の存在が二条の足枷にはなりたくない。だから先に話しておくね」


何かを言いかけた言葉を遮り、私は二条へニッコリ微笑みかけると、彼はなぜか寂しそうな表情を見せた。


「一条は……誰かを見つけるのか?」


「うーん、どうだろう。こんな変わったお嬢様を相手にしてくれる人が見つかればいいけどねぇ。まぁでも結局は、お父様やお母様の決める相手と結婚することになるのかな。それはそれでいいのかもしれない」


結婚とかそんな事よりも、こちらに被害が及ばない状態で、乙女ゲームが無事に終えられれば何でもいい。

好きだ嫌いだは前世で十分経験したしね……。

ふと腰に回っていた彼の腕に力が入ると、そのまま引き寄せられる。

二条の胸の中へ顔を埋めた刹那、後ろから足音が聞こえてきた。


「お兄様!!!!」


私は咄嗟に二条の胸へ手をつき、可愛い声にそっと振り返ると、何やら黒い笑顔を浮かべた香澄と視線があう。

彼女は怒りの炎が浮かぶ瞳で強く睨みつけると、私を押しのけ二条へと抱きついた。

威嚇するような仕草を見せながらこちらへ振り返ると、ベーと言わんばかりに私に舌を出し牽制し始める。


「お婆様に認められたからって調子にのらないで。お兄様に抱きつくなんて、百年早いわ」


「えっ、あっ、これは違わッッ」


怒る香澄に狼狽する中、二条へ顔を向けると彼は香澄を抱き上げたまま私へ背を向け歩き始めた。


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