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衝撃の事実

真っ赤な夕暮れが薄暗い部屋の中へ差し込む中、華僑と私の影が床へ映し出される。

シーンと静まり返った部屋の中、華僑は徐に体を起こし姿勢を正すと、私の方へと向き直った。


「あの……一条さんはやっぱり……二条君の事が好きなんですね。……それなら早く婚約すれば安心できるんじゃないですか?」


「えぇ!?ちっ、違うよ!私は二条の事はそういった意味で好きではないの。友達としてとても好きだけれど……」


「……?どうしてそんな頑なに認めないんですか?一条さんが二条君を好きになっても、何の問題もないじゃないですか。さっきの一条さん泣きそうな顔してましたよ。二人の姿を見て傷ついていたんですよね……」


「違う、違うの。私は二条に幸せになってほしい。好きな人と付き合って結婚して……そのためには婚約なんて邪魔だけだわ」


「うん……?ですが……二条君は一条さんの事を……好きですよね?誰が見てもわかりますよ」


華僑は気まずげに視線を逸らせると、苦笑いを浮かべて見せる。


「いや……それは……」


「一条さんも二条君の事を想っているのなら……相思相愛じゃないですか。お二人が結ばれれば僕も嬉しいです。まぁ、少し……寂しいかもしれませんが……」


華僑は寂し気に視線を上げると、真っすぐな瞳と視線が絡んだ。

私はその視線に思わず目を伏せると、力なく唇を開いた。


「……違うのよ。今まで小学校、中学校と二条と過ごしたけれど、近くにいすぎて彼は友情を愛情と勘違いしているだけ……。だってそうでしょう、周りは私が一条家の人間だと誰もが知っていたし、だからこそ私に気を使ってみんな二条へ近寄らなかった。閉鎖的な中だとどうしても、そういった勘違いは生まれると思うの。でも今は違う。私を一条家の娘だと知っている人は少ないし、二条へ声をかける女子生徒もたくさんいるわ。世界を広げて色々な人と出会って……そこでようやく二条は生涯添い遂げたいと思う女性を見つけられるはず。だから……」


そう一気に話すと、華僑は私の肩を強く掴み、眉を寄せながらに真剣な瞳が私を見据えた。

初めてみる彼の様子に思わず肩が大きく跳ねると、私を捕まえる手に力が入っていった。


「一条さんは……二条君の気持ちを信じていないのですか?もう僕たちは高校生だ、さすがに友情と愛情の違いはわかりますよ。僕はずっと二条君と一緒にて……ちゃんと二条君が一条さんを好きだと……。その気持ちは絶対に間違っていません」


「えっ、どっ、どうしたの華僑君……?」


「一条さんの方こそ、ちゃんと自分の気持ちに向き合うべきです。二条君が別の女性といてそんな顔をするぐらい傷ついたのでしょう。それは……好きだと言っているようなものじゃないですか!!!」


いつもの優しい華僑ではなく、初めてみる彼の様子にオロオロしていると、華僑は私の体を強く引き寄せた。

そのまま彼の胸の中へ閉じ込められると、抱きしめる腕から微かな震えが伝わってくる。


「その……ごめんなさい。えーとでもね……婚約はするつもりはないの。これには色々と複雑な事情が……」


ここが乙女ゲームの世界で、私がその世界での悪役だと説明出来るはずもなく、途切れ途切れにそう答える。

すると抱きしめる腕の力が強まり、苦しいほどに抱きしめられると、彼の吐息が耳元へかかった。

熱い息に小さく身が震える中、彼は首筋へ顔を埋めると、唇の震えが伝わってくる。


「どうして……どうしてですか?一条さんがはっきりしないから……僕は前に進めない。諦めなければいけないとわかっていても……そんなあなたに期待をしてしまう」


痛みをこらえるような掠れた声に私はゴクリと喉を鳴らすと、彼の言葉が反芻する。

私が婚約しないから……華僑君が諦められない……?

そういえば……海で二人で話したとき好きな人がいるような感じだった。

そうだわ、親友と同じ人を好きになって……

あっ、まさか……華僑君は……。


「うそ……ごめんなさい。私……全然気が付かなくて……」


「……いえ、僕の方こそすみません。こんな事言うつもりはなかったんです。あなたを困らせてしまうと知っていたから……」


「そんな……ッッ、そんなことないわ。言ってくれて嬉しい。力になれないかもしれないけど、華僑君の事応援するね」


「ううん……?応援……ですか?」


華僑は怪訝な表情を浮かべると、抱きしめる力が緩んでいく。


「えぇ、だって親友の恋路だもの!まだ私は婚約しないわ。だから華僑君にもチャンスはある。……それに二条ならわかってくれるわ」


「そうですか……いやいや、あの一条さん本当にわかってますか?」


「えぇ、華僑君は二条の事が好きなのよね?私はその……恋愛の形って色々あると思うの。だからどんな結果になろうとも、私は華僑君を見守るわ」


そうニッコリ笑みを浮かべて見せると、華僑は額を押さえながらにうなだれた。

そんな華僑の様子に思わず手を差し出すと、その腕が大きな手に包みこまれる。


「違います、僕は……」


ガタンッ、ガシャンッ


「はぁ、はぁ、彩華大丈夫かい?」


華僑の言葉は遮られお兄様が焦った様子で部屋へ入ってくると、私と華僑の姿を見て固まった。

その姿に私は飛び退くように華僑から体に離すと、急いで立ち上がる。

その刹那、私は華僑君へ顔を寄せると、彼の耳元でそっと囁いた。


「ごめんね、華僑君……今の話は二人だけの秘密……ね」


口元へ人差し指を立てながらにウィンクしてみせると、私はお兄様の元へと走っていった。

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