詰まる思い
バタンッと勢いよく扉を閉めると、私はその場でしゃがみ込む。
その勢いにガラガラッと床へ何かが落ちる音が響く中、私は顔を上げることなく、丸まるように膝を抱えた。
っっ……薄暗い部屋の中で、抱きあっていた……。
二条と彼女はもうすでにそんな関係に……?
先ほど見た二人の姿が頭を掠めると、胸がギュッと締め付けられるように痛み始める。
わかっていた事じゃない。
海の家で二人は親密になっていた……。
彼女がヒロインで、私はただのわき役。
なのにどうしてこんなに苦しいの……。
私は二条の事をそういった意味で好きじゃないはず。
そうならないように自分に言い聞かせていたもの……。
だから私は……友達として……彼の幸せを喜ばなきゃ。
そう何度も自分に言い聞かせてみるも、胸の痛みは全くひいてこない。
それよりも……先の事を考えないと……。
二条を攻略しているのなら……ミスコンの件は二条に関わるイベント……?
私を無理矢理に参加させることで……またあんな場面に出くわすことになるのかな……。
はぁ……ダメだ……。
仲良く寄り添う二人の姿を想像するだけで、モヤモヤとした黒い何かが胸の中へ広がっていった。
胸を押さえながらに締め付けられるような痛みに耐え続ける中、ガチャガチャ音が響くと、扉がゆっくりと開いていく。
もしかして二条が……追いかけてきてくれた……?
そんな淡い期待を胸に……恐る恐るに顔を上げると、扉の前には華僑の姿があった。
「一条さん!!!こんなところに……ッッ、さっきのは……単なる事故だと思いますよ。一条さんが心配するような事はありません」
「……華僑君。気を使わなくても大丈夫。二条に良いと思う女性が出来てよかったと思うんだ。逃げ出しちゃったのは……突然で驚いただけ……」
私は誤魔化す様に笑みを浮かべると、ゆっくりと立ち上がる。
胸はズキズキと痛むが……それをグッとこらえると、大きく息を吸い込みながらに平然を装ってみせた。
「一条さん……そんな……無理して笑わないで下さい!あれは……事故です。だって二条くんが……ありえません!断言できます」
「……ッッ、無理なんてしてないよ。二条に大切な人が出来て、私も嬉しいんだ。私はね……二条には幸せになってほしいと……そう思っているから」
そう私は二条に幸せになってほしい。
つっけんどんなところもあるけれど……優しくて誰よりも人一倍努力している彼が好き。
だからこそ婚約者なんて縛りに囚われることなく……ちゃんと好きになった人と結ばれてほしい。
ここがゲームの世界なんて事は関係なく、本当にそう思っている。
だから婚約を断ったんだ。
こんな……被害者みたいに……傷つくこと自体間違っている。
だから……笑わないと……。
そう言い聞かせながらに頬を上げて見せると、華僑はバタンとドア閉め、私との距離を詰める。
気が付けば華僑は目の前までやってくると、心配げな表情を浮かべながらに私の頬へ手を伸ばした。
中学で出会った頃……彼と私の身長はそれほど変わらなかった。
肩幅だって……手の大きさだって……。
でも今は……見上げなければ華僑と目を合わせることが出来ない。
そんな彼の姿に……時間は確実に進んでいるのだと改めて実感した。
「そんな笑顔……一条さんらしくない。気にしているんでしょ……?でも今は僕を信じて下さい。そして一条さんはもっと二条君を信用してあげてください」
「信用って……、私は二条が誰と付き合おうと、構わないよ。あぁ~もう、だからね、この話は終わり!準備室へ戻ろうか」
私は話を切り上げるようにパンパンと手をたたくと、逃げるように華僑の腕をすり抜け、扉へと手を伸ばす。
そうして部屋を出ようとドアノブへ手を伸ばそうとするが……扉を探してみてもドアノブが見当たらない。
その代わりにドアノブがあった位置には丸い穴が開き、穴の周辺はひどくさび付いているのがわかる。
「あれ……ドアノブがない……?」
そうつぶやくと華僑は後ろから覗き込むように扉を見つめる。
私はすぐに辺りを見渡し始めると、部屋の隅にドアノブが転がっていた。
まさか……さっき何か転がった音って……ドアノブが外れた音……。
試しに扉を押してみるが……押して入ってきたのだ開くはずもない。
うそ……閉じ込められた……!?
「華僑君ごめんなさい!……出られなくなってしまったわ。うぅ……私が勢いよく扉を閉めてしまったから、ドアノブが取れてしまったみたい……。どうしよう……スマホカバンの中……華僑君は持っていたりする?」
そう申し訳なさそうに顔を上げると、華僑は小さく笑って見せた。
「いえ、僕も教室へ置いてきてしまいましたが……。ふふっ、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。一条さんが居なくなったら、歩さんがすぐに見つけ出してくれるはずです」
お兄様が……?
彼の言葉にキョトンと首を傾げて見せると、華僑はドサッとその場に座り込んだ。
「とりあえず歩さんが来るまで待ちましょう」
華僑の言葉によくわからないながらも私は彼の隣へ座り込むと、ごめんなさいと何度も謝ってみせた。