悲憤慷慨
そうして学園の外へやってくると、始業の合図が鳴り響き始める。
しかしそんな事には気にも留めずに歩き続ける中、彼女はただただ静かに後ろについてきていた。
授業が始まってしまったけど……今は立花さくらと話すことの方が大事。
私は用心深く辺りに人がいない事を確認すると、握りしめた手を離しながらに、ゆっくりと振り返る。
そうして真っすぐに立花さくらを見据えると、恐怖を必死に押し殺しながらに、震える唇を持ち上げた。
「どうして……どうしてそんなに平然としていられるのよ!あなたのせいで奏太君が、それに花蓮さんや北条家までも……ッッ」
「ははっ、奏太がどうしたっていうの?私は何もしていないわ」
「はぁっ!?あなたが奏太君を操ったからこんな事になったのよ!!!」
「ふんっ、操るなんて……何を言っているの?そんな事出来るはずないじゃない~。夢でも見たんじゃない?ねぇ、証拠はあるの?」
彼女の問いかけに言葉を詰まらせると、私は悔しさに拳を強く握りしめた。
証拠なんてない……。
だからこそお兄様にも言えなかった……。
私だってこの目で見ていなければ信用はしなかっただろう。
でもあれは絶対夢じゃない……現実だった……。
「それよりも~私はあなたが奏太に襲われている間……ずっと一条先輩と居たのよ。そんな私に何か出来るはずないじゃん。それにあなたを最初に見つけたのは私と一条先輩よ。感謝されこそすれ、恨まれる筋合いはないわ」
立花さくらは勝ち誇った様子で笑みを浮かべると、楽しそうに笑って見せる。
そんな彼女の姿に思わず飛びつくと、怒りで唇がわなわなと震え始めた。
悔しい……。
彼女の胸倉をつかみながらに、キッと立花さくらを睨みつけると、彼女は煩わしそうに私の手を振り払った。
「何よ、その目。まぁ~良いじゃない、あの子はおまけみたいなものなんだから~」
「……何を言ってるの?おまけってどういうことよ!」
「あぁ~もう、うるさいわね。おまけはおまけよ。彼は当て馬に近いわき役よ。居ても居なくても同じ彼はもう必要ない人間なのよ」
「そんな人間……存在しないわ!!!あなたの目的は一体何なの……?私が邪魔なのなら……他の人を巻き込むのはやめなさいよ!!!」
そう思いっきりに怒鳴ると、彼女は何か……含ませるような笑みを浮かべて見せる。
「彩華ちゃんは必要な存在だよ。だからこうして私が転入してきたんじゃない~」
「……っっ、どうやって転校してきたのよ……あなたは一般人でしょう」
「ふふっ、そ・れ・は・ね、花堂君にお願いしたの。彼ってお金持ちでしょう~。だから簡単に転校出来たのよね」
花堂家が……。
もしかして花堂君も転校してきている……?
いえ、そんな事、彼の家が許すはずがない。
ならどうして彼がこれほどまでに彼女に協力するの?
花堂君は彼女の事を好きだと話してた……なら同じ学園で通いたいと思うものじゃないの?
どうして……。
シーン静まり返る中、握りしめる拳に力が入っていく。
爪が肉に食い込む感覚に小さな痛みが走る中、私は必死に高ぶる気持ちを抑え込んでいった。
このまま言い合いをしていても無駄よ。
落ち着きなさい、ちゃんと彼女の目的を確認しないと……。
そんな私をよそに、彼女は嘲笑的な笑みを浮かべて見せると、私の顔を覗き込でくる。
「ねぇ、ねぇ、ところであなたミスコン出るんでしょ?」
「ミスコン……どうしてそんな事を聞くのよ……」
「出るのかどうか聞いているの。答えて」
立花さくらはスッと目を細めると、私の腕を握りしめる。
「……今から断りに行こうと思っていたわ。だから私はミスコンには出ない」
「あら、それは困るなぁ。あなたもミスコン出るのよ。もし辞退するのなら……二条君や華僑君も奏太と同じ目にあっちゃうかもしれないねぇ。クスクスクスッ」
その言葉にカッと血が上ると、私は腕を大きく振りかぶっていた。
そんな私の様子に彼女はまた煩わしそうな視線を向けると、振り上げた腕を簡単に止めた。
「鬱陶しい、やめてよねぇ。でっ、どうするの?」
「私を脅しているの……?」
「脅しているなんて人聞きの悪い、私はただ彩華ちゃんと一緒に文化祭を楽しみたいだけよ。ふふっ」
余裕の笑みを浮かべる彼女の姿に、怒りのあまり体が震えだす。
「あなたの目的は一体なんのよ!なんで……どうして……」
「それは教えない。あなたはただ私の言う通りにしていればいいの。それが正しいのだから……」
立花さくらはそう静かに話すと、真っ赤な瞳が私を射抜く。
彼女は本気だわ……。
どうしてこんな事をして平気でいられるのよ……。
「わかった……ミスコンに参加するわ。だから……彼らには手を出さないで」
「ふふっ、良い返事ね。私は約束は守る主義よ。あぁ~ミスコン楽しみねぇ~。アハハハハハッ」
立花さくらは嬉しそうにニッコリと笑みを浮かべると、私の横をすり抜けていく。
そのままどこかへ去ってく姿を、じっと睨みつけると、何もできない自分の弱さに、いら立ちだけが募っていった。