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予期せぬ事態

一人取り残され、シーンと静まり返る部屋の中、お兄様の言葉が反芻する。


(皆が真剣に取り組んでいる、だからもう一度よく考えてみなさい)


花蓮さんも言っていたわ。

みんなが注目しているイベントだって……。

ならやっぱり……乗り気ではない私のような者が参加するのは……良いことではないわよね。


でも辞退するにしても……どうやってクラスのみんなに断れば……。

ごめんなさい、やっぱり参加はやめておくわ!と気軽に言える性格ではない。

それをいう事が出来るのなら、今日も簡単に断っていただろう。

私は深くため息をつくと、ゴロリとソファーへ寝転がった。


ミスコンの申し込みを辞退するのは簡単なんだけれどね……。

一度引き受けてしまった今、クラスのみんなに出場しないと話すのは、とても気まずい。

それに出場しても入賞するのは無理でしょう……。


2年生や3年生も出場するし……あぁ、もういっそのこと文化祭事態休んじゃうとか……?

いやいや……せっかくの学生生活……ちゃんと楽しみたいのになぁ……。

あぁ……もう疲れたなぁ。

とりあえず今日はもう休もう……。

そう思いたつと、私は深いため息をつきながらに体を起こし、寝支度を済ませていく。

力なくトボトボと部屋へ戻り、ベッドへ潜り込んでみるが……その夜は、なかなか寝付く事は出来なかった。



そうして翌日、何も答えが出ぬままに花蓮と一緒に学園へ登校すると……当たり前だがミスコンについて何も言えないまま、時間だけが過ぎ去っていく。

ガヤガヤと騒がしい教室の中、私は一人席で頭を抱えていると、あちらこちらから文化祭の話題が飛び交っていた。


ミスコン楽しみだよねぇ~。

だよねぇ~、そうしえば今回も3年の金城先輩が出るみたいだよ。

昨年2年で優勝した彼女が……?それならさすがに一条さんでも難しいのかな。

でも私たちのクラスで出場できそうなのって一条さんしかいないでしょう。

うんうん、物腰が柔らかだし、ザ・大和撫子って感じだもんね。


うぅ……ザ・大和撫子って何……。

過度な期待が過ぎるよ、本人はこんなにも乗り気じゃないのに……。

何度も深いため息が出る中、始業の合図が響き渡ると、教室内は徐々に静かになっていった。


そうしてあっという間に一限が終了する中、私はどうやって断ろうかと両手で頭を抱え込んでいると、バタバタとの足音に顔を上げた。

すると走ってきたのだろうか……花蓮が息を切らしながらに私の席へと立ち止まる。


「……っっ、彩華様、……はぁ、はぁ、たっ、大変ですわ!!!」


「どっ、どうしたの花蓮さん!?それよりも大丈夫かしら?」


激しく肩を揺らす花蓮の背中へ手を伸ばすと、その手が思いっきりに握りしめられた。

突然の事に小さく肩を跳ねさせる中、花蓮は必死に顔を上げると、強い瞳と視線が絡む。


「はぁ、はぁ、はぁ、あやか……様、あの…おっ、んなが……っっゴホゴホッ」


咳く姿に慌てて背をさする中、花蓮はそのまま有無を言わさぬ様子で、私の体を教室の外へと引っ張っていくと、なぜか廊下が騒がしい。

ザワザワとする方へ顔を向けてみると、C組の教室前に人だかりができていた。


何だろう……?

二条と華僑君でも並んでいるのかな?

そんな事を想いながらに徐に覗き込んでみると、1隙間からその中心にいる人物が目に飛び込んでくる。

そこには可愛らしい笑みを浮かべて笑う、いるはずのない彼女の姿があった。


「あっ、一条さん~お久しぶりですぅ~」


「なっ、なっ、なんで……。どっ……どうして……」


信じらない現実に私はその場に凍り付くと、目を見開きながらに、頭の中が真っ白になっていく。

そうして彼女と視線が絡むと……騒がしいはずの周りの音が聞こえなくなっていった。

無音の世界……固まる私の様子に彼女は笑みを深めながらにゆっくりと歩を進めると、私の前へで静かに立ち止まる。


「ふふっ、来ちゃった。これからも宜しくね。あやかちゃん……」


そう笑みを浮かべた彼女の瞳は、あの時見た瞳と同じ……血のように赤く染まっていた。

その瞳に夏の記憶が思い起こされていく。

奏太が操られ、追いかけられ……そして……。

記憶が頭の中で駆け抜けると、自分の意志とは関係なく、体が小刻みに震え始める。

息が出来ぬほどの恐怖に呼吸が荒くなる中、彼女は人懐っこい笑みを浮かべながらに私の手を取ると、嬉しそうにはしゃいで見せた。


その瞬間、突然当たりの音があふれ出す。

そこでようやく私はハッと我に返ると、握りしめられた手の冷たさに、背筋に悪寒が走った。

ダメ……落ち着きなさい……。

そう自分に言い聞かせ、夏の記憶を振り払うように、首を何度も横に振ると、私は胸にあふれる恐怖を必死に抑え込む。

彼女のせいで……彼女が……っっ。


恐怖と交じるように憎しみの感情がこみあげてくると、私は咄嗟に彼女の腕を強く掴んだ。

そうして言葉を返すことなく、人ごみをかき分けながらに廊下を進んでいく。

そんな私の傍へ心配そうにやってくる花蓮の姿に、大丈夫、ここで待っていてと一言そう話すと、花蓮の静止を振り切りながら、私は人が少ない場所と、立花さくらを引っ張っていった。

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