「仲間を集めろ」その8
魔法の講義が続く間、エリーは魔法使いの部屋を見回して、床にしゃがみこむと、ちらかったままの魔導書を勝手に片付けだす。
「……あっ……それはそこでいいのに」
「整理整頓くらいしなさいよ。この惨状って、女の子の部屋じゃないわよ?」
「……なら、女の子じゃなくていいし」
「ねえユーマ。本当に彼女を誘うの?」
じとっと湿ったエリーのまなざしに、ユーマは深くゆっくりうなずいた。
「これも縁ってやつだ。それに、なんかボーッとしてて、放っておいたら一生この部屋にいそうだし」
「ま、まぁ、たしかにいつまでも部屋でごろごろしてそうではあるけど」
二人の言葉に反応して、魔法使いの少女がぽつりと呟いた。
「……それが、そろそろピンチなんだ……ボク」
彼女は毛布にくるまったまま、ごろごろとベッドの上を転がると、サイドテーブルの上に置いてあった冒険者免許を手にして、またごろごろと戻ってきた。
「……明後日、免許失効。冒険者じゃなくなったら、ここから追い出される……死にたい」
ユーマがエリーに視線を送った。
「免許って有効期限があるのか??」
「ええ。連続180日以上、外郭迷宮に入らないと失効ね」
「……うん。だから連れてって。基本、死んでるから邪魔はしないよ」
「なんで死ぬのが前提なんだ? もっと前向きになろうぜ! 当たって砕けろだ」
青年の問いに、魔法使いはため息を吐いた。
「……当たったら砕けるどころか、粉末状になって風に飛ばされるくらい……死ぬほど弱いから。ボク」
エリーが片方の眉をつりあげながら、びしっと魔法使いを指さす。
「コスト1だからって、パーティーに寄生していっさいなにもしないつもり? 魔法使いなんだから、魔法は憶えてるんでしょ?」
「……コスト1なめるな。実際、働かないし」
涼しい顔で、魔法使いの少女はベッドの上をごろごろした。シエンが聖母のような穏やかな表情になる。
「いいじゃない。死にたがりなんてロックな感じだし。あたしは気に入ったわよ」
「……理解が早くて助かる」
「ふふふ。死んで楽になれると思ったら大間違いよ。なにを隠そう、あたしは数多いる僧侶の中でも蘇生魔法の達人なんだから! 伊達に蘇生魔法についての講義はしてないわよ」
魔法使いの顔から、さーっと血の気が引いた。
「……げっ……最悪。死にたい」
嗜虐的な笑みを浮かべて、シエンは続ける。
「何度でもよみがえらせてあげるわ! 死ぬ時は痛いわよぉ。死んでもすぐに蘇生させて、何度も痛い目をみてもらうわ」
困り顔で魔法使いがユーマに聞く。
「……どうしよう」
「なら簡単だ。俺が守ってやる」
「……う、うん」
ユーマと見つめ合った魔法使いのほおが、ほんのり赤らんだ。エリーの耳がピクピクと小刻みに震える。
「なに格好つけてんのよ。ユーマは勇者っていっても☆1の低ランクでレベル1なんだし。それにあなたも、かばわれてばっかりじゃ困るからね。魔法使いとしてきっちり働いてもらうわよ! とりあえず、憶えてる魔法について教えてちょうだい」
はにかみながら魔法使いはつぶやいた。
「……広範囲上級火炎魔法と、広範囲上級氷結魔法と、広範囲上級地撃魔法と、広範囲上級斬風魔法かな」
エリーが顔を近づけて、魔法使いの少女の瞳をのぞき込んだ。
「見栄はってないで、正直に言ってくれないと困るわ」
「……大丈夫。見栄じゃない。しかし魔法力が足りないだけ」
「それって、覚えてるけど使えないってこと?」
「……うん。お見せできなくて残念」
シエンが首をかしげた。
「なら、無理せず初級魔法を使えばいいでしょ?」
「……初級魔法、覚えてないから。ボクって天才だし。基礎より応用が先なんだ」
「あら? 奇遇ね。あたしも天才なのよ」
ユーマが驚いたように口を開いた。
「すごいぞエリー! 二人も天才がいるなんて……このパーティー、すごいことになるんじゃないか?」
「ぜんっぜんよくないわよ! ね、ねえあなた、他に使える魔法は?」
エリーに詰め寄られて、魔法使いの少女はぼそりと呟いた。
「……中範囲中級火炎魔法。でも、魔法撃ったら負けだと思う」
「まさか、撃てるのは中級が一回だけってこと……ないわよね?」
「……天才は一度の輝きで燃え尽きるものだよ」
納得したようにエリーはうなずいた。
「はぁ。どうりでコスト1なわけね」
「……どやああ」
ドヤ顔の魔法使いに、ますますエリーの身体から力が抜けていく。
その場に崩れそうになったエリーの背後から、シエンがひょっこり顔を出した。
「でも、それだけのスキルがあるなら、神格の高い神のパーティーに参加して、サクサクっとレベルを上げてもらえばいいのに。どこからもお呼びがかからないなんて、おかしいわ」
人差し指を立てると、魔法使いはちっちっちっと左右に振って見せた。
「……コストだけが人間の価値を計る基準じゃないってことだよ。むしろ、そういう働かせる気満々な輩は、ボクの方からお断りしてるし……でも」
再び、魔法使いはじっとユーマを見つめた。ユーマもまっすぐなまなざしで彼女を見つめ返す。
「俺たちの仲間にならないか?」
「……うん。ユーマは前向きでがんばり屋さんっぽいから、後ろ向きで怠惰なボクを養って。デモダッテだよ。よろしく」
「おう。よろしくなデモダッテ! 危なくなったら、遠慮無く俺を盾にしてくれ」
シエンが口元を緩ませた。
「ユーマくん、養うと守るとじゃ、だいぶ意味合いが違うわよ。ま、おもしろいからいいけど」
エリーが口を尖らせた。
「おもしろいからって、なんでもオッケーしないでよ! ハァ……大丈夫なのかなこのパーティー。ううん、こんな状況だからこそ、影のリーダーたるわたしがしっかりしないと……」
ユーマが拳を握って声を上げた。
「よし! さっそく外郭の迷宮に行こうぜ!」
「……じゃあ、ボク……準備するから」
ずっとベッドの上でごろごろしていたデモダッテが立ち上がった。巻き付けるように羽織っていた毛布が、しゅるりと落ちる。
瞬間――エリーが悲鳴をあげた。
「きゃああああああああああああああ! なんで裸なのよ?」
「……裸がニートのユニフォームっていうし」
「い、言わないわよ! って、なにまじまじと見てるのよユーマも!」
「エリーが一番胸があるな」
「バカ! 変態! あっち向いてなさい! デモダッテは早く服を着て!」
シエンが楽しそうにほほ笑んだ。
「ほんと、変な子ばっかりで退屈しなさそうね。もちろんあたしは変な子に含まれないわよ」
四人はパーティー申請のために、街の目抜き通りを歩いていた。行き先は冒険者ギルドだ。
約一名、魔法の箒に横座りで腰掛けて、ふんわりふわふわ浮いている。
「……歩くの面倒だし」
「こっちがツッコミを入れる前に言い訳しないでよ!」
肩を落としつつ、エリーは三人の一歩前に出ると、くるりと振り返った。
「ところで、二人ともわたしと組んで後悔っていうか、その……嫌って思わない?」
デモダッテはあくび混じりにつぶやいた。
「……別に。そもそも他人にあんまり興味ないし」
シエンも肩をすくめさせた。
「人間のエルフ嫌いなんて教会のプロパガンダよ。あの連中ならやりかねないわ。だからあたしは気にしてないわよ。っていうか、うじうじ気にしてる方が気になるわね」
「そ、そう。じゃあこの話はもうしないわ。よろしくね! ユーマも、改めてよろしく。頼りにしてるわ」
「おう! こっちこそだ! 誘ってくれてありがとなエリー!」
明日からお昼の12:00に更新です~




