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無課金無双  作者: 原雷火
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「仲間を集めろ」その7

ユーマがさらに続けた。


「あと、コスト1の冒険者がたった一人だけ、幸運にも宿舎にいるらしいんだ。マスターが本当に特別に教えてくれてさ。ジュースもおごってくれるし、良い奴だよなあのマスターって」


 エリーは深く沈み込むようにうつむいた。


「問題児を押しつけられてるような気がするわ」


 シエンがほほ笑んだ。


「その身なりからして、エリーちゃんは剣士よね? 回復はいらないのかなぁ?」


「ちょ、ちょっと! 回復魔法を人質にとるつもり?」


「パーティーの生殺与奪を握ってるのは、僧侶だってことを肝に銘じるべきよねぇ。ほら、シエンは優秀って言ってごらんなさい。実際、コストに見合わない高性能さでしょ? 成長性の話は禁句よ」


 開き直り気味のシエンに、エリーはしぶしぶ頷いた。


「し、シエンは優秀……」


「はぁん! そうよね! しょうがないわよね天才だもの。それでユーマくん。そのコスト1の子って、本当に必要なのかしら?」


「三人より四人の方が楽しいと思う! 俺は四人がいい!」


 屈託のないユーマにエリーがぶつぶつ呟いた。


「コスト1って……きっと、遊び人とか穀潰しとかギャンブラーとか音痴な音楽家とか売れない作家みたいなものよね。やっぱりジョーカーばっかり引かされてるのよ」


 シエンが目を細めた。


「もちろん切り札って意味よねぇ?


  毒状態のままダンジョンを歩くのって、とっても辛いのよ? エリーちゃん、毒系のモンスターが出て毒を注入されようものなら、ずっと『あんっ……毒で身体がしびれて……ら、らめぇ』状態のまま、戦うことになるわね?


 優秀な僧侶の加護があればいいのにね。あと、麻痺もきついわよぉ」


「シエンは優秀……」


「はい、よく言えました」


 ユーマが心配そうに二人を見つめた。


「二人とも、喧嘩はよくないぞ? これから一緒にがんばっていこう!」


 シエンが泣き顔を作った。


「だってエリーが、あたしをポンコツみたいに言うんだもの。だから違うって説得して、エリーにむしろあたしのことを褒めてもらうようにしてもらったの。あたし、捨てられて自信喪失気味だったから……」


「そっか。エリーはシエンを励ましてあげてたのか。俺にも親切にしてくれるし、エリーって優しいな。本当に良い奴だな」


 心の中でエルフの少女は頭を抱えた。


「どうしたんだエリー? 頭が痛いのか? そうだシエン。頭痛止めの魔法ってあるか?」


「あるけど、高く付くわよ」


 後半ぼそりと呟くシエンに、エリーが慌てて声を上げた。


「大丈夫よ心配しないで!」


 話を変えるように、エルフの少女はユーマに話の続きをうながす。


「それで、そのコスト1の冒険者の職業はなにかしら?」


「魔法使いだってさ。なんか、魔王討伐がさらに一歩近づいたな」


 シエンが目を丸くさせた。


「あらあら、世界の平和って言葉は、冗談じゃなく本気だったのね」


 エリーが声を裏返させた。


「わ、わたしたちは本気よ!」


「別に悪いとは言ってないわよ」


 またしてもにらみ合う二人の間に、ユーマが割って入った。


「じゃあさっそく、魔法使いに会いに行こう」


 シエンが小さくうなずいた。


「はぁ……これで休暇は終わり……か」


 ぽつりとつぶやくシエンは、どこからどう見ても、やはり子供にしか見えなかった。




 魔王城の外郭迷宮を守る魔物たちは、魔王が世界各国から略奪した宝石によって作られていた。魔物は倒されると宝石に変化する。戦い勝利する度に、魔力のこもった宝石を冒険者たちは得るのだ。


 宝石から魔力を取り出しその身に宿すことで、冒険者は自身の戦闘力を高めることができた。


 また、魔力の込められた宝石は、売却することで富にもなる。その富の使い道には、宿舎を出て家を買うというものもあった。


 だから、ずっと宿舎にいる冒険者の方が珍しいのである。


「……働いたら、負けだと思う。きみは強い人?」


 ベッドの上で毛布にくるまったまま、少女はつぶやいた。魔法使いのマントや装束は脱ぎ散らかされ、部屋の隅っこにおいやられている。


「酒場のマスターの紹介で来たユーマだ。目標は魔王をどうにかすること! 俺たちと一緒に、世界を救おう」


「……すごい自信だね。じゃあ、草葉の陰から見守っててあげる」


 あくび混じりに少女は告げた。声も顔も半分眠っているようだった。


 ユーマがきょとんとした顔のまま、首をかしげる。


「草葉の陰……って、死んでるぞそれ」


 魔法使いの少女は、ゆっくりもそもそと上半身を起こした。


「……うん。実際、死んでられるし」


 シエンがくすりと笑う。


「あら、ユーマくんってば、エリーちゃんが言った通り本当になんにも知らないのね。攻略街が魔王城の前まで移動してきたのには、ちゃあんと意味があるのよ」


「補給線を確保するためだろ?」


 シエンは「それだけじゃ、わざわざ古代人の遺跡をベースにしないわよ」と、不敵な笑みを浮かべた。ユーマがエリーに視線を向ける。


「そうなのかエリー?」


「わたしも外郭迷宮に入ったことないから……噂でしか聞いてないんだけど……」


 シエンがやれやれと肩をすくめさせた。


「ここはダンジョン経験者なあたしの出番みたいね。ねえユーマくん……もし、死んだらどうなると思う?」


「普通なら……そのまま死にっぱなしだよな」


「天国に行けるって思わないあたり、ユーマくんってばいい感じね。さて、実際どうなるのかっていうと……遺体の損傷具合にもよるんだけど、ある程度までなら蘇生魔法で生き返ることができるのよ。


 寿命は延ばせないけどね。ちなみに、あたしたち僧侶が使う魔法は『光の最高神の加護による奇跡』ってことになってるけど、そんなのは後付けで源流は魔法使いが使う魔法といっしょ。


 古代人――始祖たちが残した魔法文明の技術なの。奇跡を起こすのに信仰心は関係なし。魔法の効果はあくまで個人の資質と才能で増減するの。


 たとえば、ユーマくんの使う初級回復魔法と、あたしが使う初級回復魔法だと、回復力がずいぶんと違ってくるのよ。そこは回復の専門家たる、あたしの方が当然、上ってことね。さあ、褒めていいわよ」


「シエンはすごいな。なに言ってるのかよくわかんないけどすごい!」


 ユーマが打っても響かないため、シエンの表情が少しだけ曇った。


「それって、褒めてないわよ。まぁ、ユーマくんは天然だし、怒ってもしょうがないか……というわけで、本題に入るわよ。


 魔王城を取り囲む外郭迷宮は、時間と空間が無茶苦茶になってる世界なの。そこで、侵入した冒険者が死んだら魂になるように、この攻略街から外郭迷宮に魔法的な干渉をしているってわけ。


 この攻略街そのものが、一種の巨大な魔法装置なのよ」


「うーん、わからん!」


 ユーマは理解するのを諦めていた。シエンがほほ笑む。


「外郭迷宮内で死んでみるのが一番手っ取り早そうね。死んでも魂になって、背後霊よろしく連れ歩けるし、いつでも蘇生魔法で復活させられるわけ。死体を持ち運ぶ手間もかからないから、楽ちんでしょ?」


 こくこくと魔法使いの少女がうなずいた。


「……死んでも……じゃない、死んでついていくから」

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