「仲間を集めろ」その5
交神所のロビーに戻ったユーマに、そわそわしっぱなしで待っていたエリーが駆け寄った。
「ど、どうだったのユーマ?」
「神さまっていっても、別に普通だったな。威厳とかあんまないし」
「そうなんだ……って、問題はコストよ。ユーマの80とわたしの10で合計90でしょ? あと、どれくらい使えるわけ?」
「エリーって10なのか」
ムスッとした表情でエリーはもう一度、青年に確認した。
「どうなのユーマ? 残りコストはいくつ?」
「なら10しか残らないな」
「10? た、たったの? じゃあ、公平に配分しても一人あたり5ずつってこと? 嘘でしょ?」
「いや。マジで」
「これも噂で聞いた話だけど、総コスト100って最低ラインよ? 完全に貧乏神じゃない!」
「まぁまぁそう言うなって。人に貴賤がないように、神さまにも貴賤はない。重要なのは、なにを成し遂げようとするかっていう志だ。それに決まった以上は変えられないんだろ?」
エリーはがっくりと肩を落とした。
「コストが高い冒険者の方が、良い神様に当たるっていうのはガセネタね」
「そう落ち込まずに、ダメな神さまの分まで、俺らでがんばろうぜ!」
「今、貴賤がないって言ったのユーマなのにダメな神さまって……う、うう……そうね。文句を言っても始まらないわ。がんばりましょう。
神の神格も、わたしたちが迷宮を攻略していけば上がるっていうし……その成長に期待ね」
「それでな、神さまが酒場で仲間を探せってさ。さっそく行こう!」
「なんだか飲みたい気分かも……ハァ」
冒険者の集う酒場は、冒険者免許所持者にのみ開放された施設だった。
免許があれば、併設された宿泊所の利用も無料である。
様々な職種、人種の冒険者たちが集まり、酒場は賑わっていた。
店内の壁にかけられた掲示板は、常に仲間募集の求人票で埋まっている。
張り出されている求人票をざっと確認してから、エリーはユーマに向き直った。
「残りコストの分配なんだけど、提案があるの」
「半々にしないのか?」
「三人パーティーを推奨するわ。コスト10の僧侶を探しましょう?」
「あれ? 四人じゃないのかよ?」
「基本は四人よ。それに神が助っ人を呼んでくれることもあるらしいから、最大で五人パーティーになるみたいなんだけど……ここはあえて、残りコストをすべてつぎ込んで、少しでも優秀な僧侶に加入してもらうべきだと思うの」
胸を張るエリーに、ユーマは困ったような顔になった。
「うーん。けどなぁ。神さまが二人仲間にしろって言ってたんだよ。最初っから無視すんのは人としてどうなんだ?」
「じゃあ、エアメンバーってことにしましょ」
「エア……なんだって?」
「わたしたちだけに見える、そこにいる空気的なメンバーってことよ。神に何か言われても、いるって言い張ればいいの」
「やっぱりそれは問題だろ……人として」
エリーが鼻息を荒くさせた。
「回復役はパーティーの生命線よ! 攻撃はユーマとわたしでがんばればいいの」
「魔法使いがいた方がいいんじゃないか? 空も飛んでみたいし」
「まだそこにこだわってたの? 影のリーダーの言うことに文句あるわけ?」
「わかったわかった。ともかく、俺らにぴったりな僧侶を探してみよう」
二人は掲示板を隅々まで確認した。そして、落胆しながら酒場のバーカウンターにつく。
「コスト10の僧侶っていないのね」
「コスト15や20……25に30も少ないんだな」
グラスを磨いていた中年の店主が、低いダンディーな声で二人に話しかけてきた。
「見ない顔だねお二人さん。その様子じゃ新人みたいだ。これは冒険者になったお祝いとして、店からおごらせてもらうよ」
赤い液体の入ったグラスが二人の前に差し出された。エリーが目を輝かせてグラスを手に取り、香りを楽しんでから一口含む。
「あ、ありがとう……って、ブドウジュースじゃない!?」
「酒はもっと大人になってからだな。この街で神の加護を得たなら、むしろ長生きできるだろうし、がんばって稼いで末永くうちの店をごひいきに」
目を細める店主にユーマがきいた。
「質問があるんだけど、コスト10の僧侶の求人票がないのは、どうしてなんだ?」
店主が磨いたグラスを棚に並べながら続けた。
「あぁ~~。そりゃあ人気があるんでね。特にコスト10ってのは重さと力量のバランスがとれてるんで人気なんだよ」
エリーがグラスの中のブドウジュースを恨めしそうに見つめてから、店主に聞いた。
「コスト10の僧侶がいたらキープしてもらったり、紹介してもらうことはできないのかしら?」
「おっとエルフのお嬢ちゃん。これはあんたがエルフだからってんじゃないんだが……そういうのは原則として店側はやらんことにしてるんだ」
「そ、そうなの。ごめんなさい変なことを聞いて」
店主は気にしたような素振りもみせず「悪いね」と付け加えた。
ユーマはグラスを手にすると「いただきます!」と、言うが早いか、ぐいっと飲み干す。
「お! これ、超うまいじゃん。エリーはもう飲まないのか?」
「ジュースなんてお子様の飲み物でしょ」
「じゃあ俺がいただくぜ!」
エリーのグラスをとると、ユーマはジュースをあおった。
「あっ……わたしの飲みさしなのに……間接的に……なっちゃうじゃない」
「どうしたんだエリー?」
「なんでもないわよ!」
グラスを空にして、ユーマは店主に向き直った。
「ごちそうさまでした」
店主が一層目を細める。
「良い飲みっぷりだね。気に入ったよ。まぁ……これはあくまで紹介じゃないんだが」
店主の視線が店の奥の隅っこにあるテーブルに向いた。
「毎日くだをまいててね。先日、ようやくあそこのテーブルに隔離したんだ。
ともかく、腕は確かだよ。冒険者としての経験も豊富なんだが、こっちが勧めても求人票すら書かないもんだから、誰からも声がかからないし……この先、いったいどうするつもりなんだか……」
ユーマとエリーはテーブル席に視線を向けた。小柄な女の子が、いくつもの空になったジョッキの森の中でつっぷしている。エリーが声を上げた。
「あれ、こ、子供じゃない?」
店主が肩をすくめさせた。
「本人が言うには、良いところのお嬢様で、僧侶の英才教育を受けてきたエリートさまなんだそうだが……実際のところはわからんよ。まあ、半端すぎるコストもよくないみたいでね」
ユーマはそっと席から立ち上がった。




